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家が火事になりました

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2020年2月10日に家が火事になりました。火事が起きる確率は、0.04%と言われています。でも起きてしまえば100%。突然、大混乱が始まります。何が起きて、何にを感じたか、いつ…
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2020年7月の記事一覧

神様がくれた時間。

 毎朝、娘を車で中学校まで送り届ける。家を出るのは7時40分。タイムズカーシェアのカーポートに2人で向かう。その時、娘のリュックを背負うのは僕だ。このリュックが激烈に重い。なぜ荷物が多いのかと聞くと、置き勉するから明日は軽くなるよ、と笑いながら娘はいう。しかし軽くなった試しはない。「パパ、今日もお願いね」とバーベルが詰まっているようなリュックを毎日、渡される。  家が燃えた。2月のことだった。今は少し離れた場所で仮住まいをしている。生活の拠点は移ったのだが、移せないこともあ

ねえ、パパ。見て見て。

 火事という「経験しなくてもいい困難」を経験した3人の子どもたち。自分たちの家が燃える様を直視してしまったショックは大きいはずだ。リビングが火の海になり、窓ガラスがボンボンと音を立てて割れる。そこから命からがら逃げた。その経験は心のやわらかな部分に深い傷を残している。癒えることはあっても、消えることはないだろう。   普段は考えずに接しているが、ふとした瞬間にその傷を感じる。その度に心が竦む。かける言葉を思いつけない。その気持ちを飲み込んで、また日常に戻る。そんなやましさに

僕の服を握りしめた娘の話。

 火事は思いの外、身近な出来事である。気になるようになるとかなりの頻度で起きている。  近所を歩いていたら娘と火事に出くわした。消火活動の真っ最中なのか、消防車が何台もいて道路を塞いでいる。警官と思しき人が交差点の真ん中で交通整理にあたっている。現場は路地の奥にありよく見えないが、消防隊が忙しなく動いている。  信号待ちをしながら、娘とふたりで様子を眺めていた。するとあの日の感覚が蘇ってきた。真っ黒な煙。消防隊員の怒号。家財が焼けた独特の匂い。自分はそういうことには動じな