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2024.2.9 学芸員忙しい問題と展覧会

展覧会が多すぎる。これはいいことなのかもしれないが、一方で、学芸員さんの犠牲の上に成り立っていることも否定できない。

ランダムにX(Twitter)をフォローしていると、誰だか知らない学芸員さんの匿名アカウントのつぶやきを目にすることがあるのだが、とにかく忙しそうだ。辞める人が多い業界であるのは間違いなさそうである。「○○美術館は◯人も休職者がいる…」といったつぶやきも流れてくる。

美術の評論や批評をやる人は日本の場合、美術館で働いていることが多いと聞いたことがある。それが本当であれば、美術館の体制や運営などについて批判的な文章は出にくいのでは?と思っている。批判をやってしまうと、組織を離れなくてはならない(仕事を辞めなくてはならない)リスクがあるからだ。

もちろん、それでも、美術館の中から美術館の在り方を批判する人はいるのだろう。しかし、おそらく絶対数が少ないので焼石に水の状態が続いているのではないだろうか。若手の職員は尚更、せっかく得た職を前にしてわざわざ批判をして辞めるくらいなら、少し我慢をして納得いかない待遇でも仕事を続ける選択をするかもしれない。私がもし修士卒で忙しい美術館に就いていたとしても、黙っているだろうと思う。

本当に最近、学芸員さんの「辛い」という声、そして、「担当の学芸員さんがいつの間にか辞めていた」という作家さんの声を聞くようになった。おそらく、待遇がよければ辞めなかったという人が大半なのではないだろうか。

なぜ忙しいのか?私は美術館のビジネスモデルが学芸員を忙しくさせている、という解釈をしている。

例えば、私がよく行く美術館は、企画展が年に何回も開かれている。展示が変わるスピードがはやい。つまり、これって、コアなファンにリピートして訪れてもらい、お金を払ってもらうことが前提で展覧会が設計されているのではないだろうか。

余計なお世話だとは思うが、ちょっと美術館の集客方法について考えてみたい。仮に、年に10万人集客をしたら黒字になるという目標を立てた場合、1つのよく企画された展覧会に1年間を通して10万人来てもらっても良いし、5つの展覧会に毎回同じ2万人に5回来てもらってものべ人数は10万人と同じ結果になる。(※そもそも公的な美術館の場合、黒字にしなくても良いという意見もあるかもしれないが、それは一旦置いておこう)

おそらく、どこの美術館も割と後者のやり方をしているように感じる。いつも来てくれる人に、何度もお金を払ってもらう。そういうやり方は正しいのかもしれないが、実は他のやり方もあるんじゃないだろうか。

例えば、ロンドンのTate ModernのCapturing the Moment展は2023年6月13日から2024年4月28日までとほぼ11ヶ月同じ展覧会が開かれている。イギリスの地方にいる学生がなんらかの機会に一度都会に出た時に見れるような設計とも言える。実際、昨年の冬に訪れた際、中高生がグループで訪れていて、学生の理解を促すようなミニ冊子も配られていた。さらに、海外のアートファンに目を向けても、短い会期の場合は、仕事の調整をして、慌てて飛行機のチケットを取らなくちゃ!となるが、1年ほど会期があれば、ゆっくり予定を立てられる。

これらを鑑みると、東京都内にある美術展が、いかに東京にアクセスしやすい人たちに向けて企画されているのかに薄々気づいてくる。年に4-5回も地方から東京に出てくるなんて、出張の多いビジネスマンくらいしかいないと考えるのが普通ではないだろうか。1年近く企画展を開いておく、くらい懐の深い企画展があってもいいんじゃないだろうか。(理想論と言われればそれまでなのだが…)国内の需要だけでなくとも、コロナ禍が明けて、海外からのアートファンも多く訪れていることだろうし、企画展をある程度長い間放置してもペイするようなスキームをもうそろそろ作るべきである。

そうすると、じっくり調べて、時間をかけた企画展ができるだろうし、年に何回も作品を梱包して発送して、請求書や納品書を発行して……という事務作業から少しでも解放されるのではないだろうか。

こういったスキームはなかなか簡単に作れるものではないだろう。その辺をどうにか変えるために、優秀な学芸員さんが数ヶ月国内外を調査する時間を持てるように、どこかが時間とお金をあげて支援をしてほしい。会期が長い展覧会ができれば、学芸員さんは次の企画展のために時間を使えるようになるはずだ。短期間でどんどん展覧会を回していくやり方も、色々な作家が取り上げられるというメリットはあるかもしれないけれども、仕事に忙殺された学芸員さんの悲鳴しか聞こえてこない。もう、このままじゃ優秀な学芸員さんがいなくなっちゃうよーー!と思っているよ。


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