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ナショナル・ギャラリーへ

まだまだ1日目の話。
2日目に訪れる予定だったTate Britainに早めに行こうとダブルデッカー(※1)に乗った。しかし、ロンドンの南方にある美術館ではなく北の宿の方向にバスが走っているのに気づき、疲れているなと判断。一旦シャワーを浴びるために宿へ戻る。

M&S(マークス・アンド・スペンサー)と呼ばれるヨークシャー地方のリーズ発祥のスーパーを見つけ、お昼ご飯を探していると、どれもパサパサにみえ食欲が湧かない。アジア系の料理も高いし、米をレンチンして食べようかと迷ったけど、パッとしたおかずが見当たらない。店内を3周した挙げ句、以下の果物とジュースになった。なんとも鮮やかで気に入っている。オレンジジュース、バナナ、いちご。デジタル静物画。

海外のオレンジジュースなんか酸っぱくて好き。

2時間ほど宿でゴロゴロして、ナショナル・ギャラリーへ。

ナショナル・ギャラリーの学芸員ツアーに参加!

15:00からスタートした学芸員さんのガイドツアーに参加。20人ほどの参加者。立つのがつらい人には、折りたたみ椅子の貸し出しもある。

1時間の尺で5枚の絵を学芸員(エデュケーター)がピックアップし、さまざまな視点を織り交ぜて身振り手振りしながら説明してくださった。即興で話すというよりも、スマホ(あるいは小さなタブレットだったかな)にギッシリと絵画についてのデータがまとめられており、それを見ながら、自分の解釈を付け加えて話をされていた。

私は、このツアーにずーーっと参加したかったので、本当に嬉しかった!

フレデリック・ワイズマンの「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝(2014)」をコロナ禍にアマプラで見て以来、絵画の説明の仕方に感激して、私もコロナが明けたら絶対生のツアーに参加するんだ!と楽しみにしていたのだ。

Cosimo Turan《The Virgin and Child Enthroned》15世紀の作品

1つ目は、イタリアのロヴェレッラ家が教会に飾るために注文した宗教画(作者はCosimo Turan)。この作品が飾られている部屋は、当時の教会の中を感じさせるように薄明かりにしてあるという。蝋燭の光や窓から差し込む日光で人々は絵画を眺めたので、それを体験してほしいそうだ。それまで、キリストは人間じゃないような姿で描かれていたが、これは割と人間に近い形で描かれているのだそう。また、宗教画における色の解釈はさまざまだろうが、ここでは赤は情熱、緑は復活を表していると説明されていた。楽器から音が聞こえるような躍動感、また、上の画像には写っていないが、下部に珍しい形のパイプオルガンが描かれていてそれについても触れていた。

Jacopo Tintoretto《The Origin of the Milky Way》

2つ目は、Jacopo Tintoretto(ティントレット)のThe Origin of the Milky Way。ミルキーウェイ、つまり、天の川の由来になった神話を描いた作品だ。画面右上のジュピターが眠っているジュノの乳房の上にヘラクレスを添えて、ミルクを飲ませて不死を得ようとしたのだそうだ。そのとき、目を覚ました彼女の乳房からミルクがふき出して天の川になったのだそう。織姫と彦星以外にこんな伝説があったんだな、と、神話に詳しくないのでとても面白かった。一部しかメモを取れなかったが、蟹は雷を、鷲はジュピターを、孔雀はジュノを表していて、鎖は愛を示しているのだそう。鎖は愛か、、怖いな、と率直に思った。キューピッドが何人か描かれているけど、それぞれ向きを変えているのは、作家がうまさを見せつけるために描いています!ってコメントも良かった。

Peter Paul Rubens《A View of Het Steen in the Early Morning》おそらく1636

3つめは、ルーベンスの風景画。この学芸員さんは、ルーベンスにしては珍しい風景画を見てほしい!と、この絵画が飾ってある部屋に連れて行ってくれた。ルーベンスといえば、工房制を採用していたので、彼の名前の作品であったとしても、仕上がりにバラツキがあるのは有名だ。学芸員さんも、その話をして、でも!!これは間違いなく彼が描いてますよ!と言っていたので、参加者から笑いが起こった。手前の方を重たいイメージの茶色や黒を多用し、上部にいけばいくほど軽い空気のイメージの白や水色を使い遠近感を演出している。彼が住んでいた風景をそのまま残したそうで、この場所に行くと石碑が残っているのだそう。

左 Rembrandt《Portrait of Jacob Trip》1661ごろ、右《Portrait of Margaretha de Geer, Wife of Jacob Trip》同じく1661ごろ

4つ目は、17世紀後半に描かれたレンブラントの作品。
レンブラントといえば、自画像が有名だが、この部屋にもレンブラントが自身を描いたものが数枚飾ってあった。しかし、学芸員さんが選んだのはこの2枚。これは、豪商の夫婦から依頼をうけて描いたもの。2人の晩年に描かれたこの作品の右側が奥さんだが、手にハンカチを握っているのは夫の死が近づいて、見送っているかのようでもあると一言。そういう説明があるだけで、想像力が掻き立てられる。そうか、この背景の漆黒に溶けそうな人物描写は、この世からまさに消えようとしている主人を表しているのかもしれない、とも思った。面白かったのは、右の女性がつけている白い首飾り(?)は、当時でも時代遅れのもので、でも自分が高貴な存在であることを示したいがためにわざわざ身につけて描いてもらったという点。どの時代にも見栄ってあるんだな!と理解した。

Juan de Zurbaran《Still Life with Lemons in a Wicker》

5つ目は、フランシスコ・デ・スルバランの息子、フアン・デ・スルバランの現存する十数点のうちの1点。スペイン人の作家の部屋があり、ぜひスペインの黄金期の作品を見てくださいね!という一言からスタートした。1時間立ちっぱなしで話を聞いていると、さすがに疲れてしまい、あまり頭に入ってこなかったのだが、銀の皿に反射している花弁の美しさやカップにとまっている小鳥の可愛さにはうっとりした。この絵画の説明の最後に、ナショナル・ギャラリーが開館後に閉まったのは、数回のみでコロナ禍と戦中がそれに当たると話してくださった。(私が聞き間違っていなければ)戦中にはアメリカに郵送する案もあったが、結局はウェールズに送られ、戦後に返却されたのだそう。しかし、美術館が空っぽになっていた間も、人が集まる場所にはなっており、そのときの名残で音楽会が開かれたりと美術館は外に開く場になっているという話で締めくくりとなった。

お年を召した参加者が、若いときに見に来た絵画をこうして年をとってまた見にこれたのが大変嬉しいとお話しされていた。詳しくないので分からないが、油彩画はもちがいいのか、長年に渡って同じ場所に展示されているものもあるのだろうか。

(※1)最近のロンドンのバスはクレカがないと乗れない仕組みになっていて、やけに人数が少く静かだった。いいことなのか、悪いことなのか分からないが、確実に乗れなくなった人もいるはず

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