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木村伊兵衛の肉声が聞こえそう── 『対談・写真 この五十年 木村伊兵衛』アサヒカメラ編

この本を初めて読んだとき、素直に「あの、有名な木村伊兵衛の声が聞けて嬉しい!」と思った。写真を撮っている人なら、知らない人はいない名前だ。

もしかしたら、木村伊兵衛の作品を美術館で見たことがあったとしても、歴史上の人物でしょ?!という位置付けをしてしまって、実は彼の言葉を読んだことがない人は多いかもしれない。私もそうだった。

この本は、彼の肉声がそばから聞こえてきそうなほど、くだけた文体なのでとても読みやすい。カメラ好きの人、写真好きの人のどちらのニーズにも応えている。つまり、機械史としても面白いし、写真史としても面白いのだ。

当時の写真家の人柄や生活の様子、写真家同士のバトルなんかも細かく記録されていて、物語としても興味深い話が詰まっている。

彼はこの本を通して14人の当時の重要人物と対談をしているが、特に、戦前にドイツから写真文化が入ってきて展覧会が開催された様子を語る場面は読んでいてこっちもワクワクする。一方で、戦時下での写真家たちの様子について語るシーンもあるが、ぶっちゃけあの時は国に協力しないと食っていけなかった…なんて話もしている。

様々な立場で写真を撮る人の話が収録されているので、自分の好みの作家あるいは作家性を探すのにもいい本だ。この本を読むと、作家性の違いで喧嘩しあっていたなんて、なんていい時代だったんだろう……と、ちょっと羨ましくもなる。

2023年1月22日

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