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「売ること」のこれから


-「売ること」の再定義へ-

・「売ること」の半世紀

(この記事と一緒に、”「買うこと」のこれから”もお読みください。)

「売ること」を単純に考えると、商品をお客さまに売ると言えます。
(この論考では、「お客さん」という表記の方が上下関係なくフラットになるかとも考えたのですが、お客さまの方が落ち着きが良いので、「お客さま」と表記します。)

図にするとこうなります。

かつては単純だった商品をお客さまに「売る」こと

太平洋戦争の敗戦後の日本では、商品をつくればつくっただけ売れる時代がありました。
戦後期の日本製は海外から見て粗悪品の代名詞でしたが、その後紆余曲折を経て、質も向上し、高度経済成長期からバブルへと至るなかで、世界一の経済大国を自負するまでになります。この間に、流通がクローズアップされるようになります。

商品をお客さまに売るまでの間にある、問屋や卸、売り場です。この流通の過程で、手間とお金が増えてしまうから、ここを合理化しようという潮流が経済成長に伴って生まれます。
その手法はいくつかありますが、「大量に仕入れ、大量に売ることができれば、いいものを安く売れる」も代表的な例です。いまはなきダイエーは、この手法を前面に押し出してスーパー(食料品も家電も売る、現在のイオンの原型)の全国展開を進めいわゆる”日本一の流通グループ”となります。
並行して、新聞のチラシ、TVCMといった広告も発展します。メーカーは「今度こういうTVCMをやりますから新商品を仕入れてください」という売り込みを、問屋や小売に行うようになります。つまり、商品をつくれば売れた時代の構図に、流通と広告という要素が加わります。
図にするとこうなります。

「売る」ことに新しい要素が加わる

しかし、日本一の流通グループとして名を馳せたダイエーの経営基盤は土地にありました。土地の価格上昇をもとに資金繰りを行っていたので、バブル崩壊に対応できずに経営不振に陥り、最終的にはイオングループの傘下となります。

こうした変化の中、日本の経済は好調だったので、日米貿易摩擦のなかで米国から日本の小売環境は法律にる規制が多すぎるという指摘を受け、大規模小売店舗立地法が改正され、商店街が大規模小売店舗との競争にさられるようになります。

現在、ロードサイド型の店舗が軒を連ねる風景は日常となっていますが、この日常は、こうした国内と国外の変化を受けた結果です。

日本の地方都市で旧くからの市街地が衰退し、少し離れた大規模店舗(ショッピングモール)に人の流れが移った背景には、「売ること」と「買うこと」が、大きく影響しています。
そして、90年代後半からのインターネットの登場、20年代後半からのスマホの普及によって「売ること」の構造は、さらに変化しています。

わかりやすく言えば流通では、直販を行いやすい環境になりました。広告では新聞とTVCMの効果が低下する環境になりました。図にするとこうなります。

「売る」ことの複雑化

「売ること」の複雑化と未来の可能性

ものやサービスをつくり「売ること」を行いたい企業(メーカー)にとって、かつてはシンプルに考えればよかったことが、この半世紀強の間で考えなければならないことが増え複雑になってきていることが、図を見比べてみると判っていただけるかと思います。

安くて高性能、高機能なものやサービスをつくれば「正解」だったのが、社会が豊かになり複雑化する中で「必ずしも正解にならない」状態にならなくなったのが、2020年代のいまです。
このことに気が付きながら、何も手を打てない時間を積み重ねることで「失われた20年」は「失われた30年」になり、さらに年数は増えています。

しかし、視点を変えるとまだ未来に向けた可能性はあります。 これまでの図を見ると、商品やサービスの流れは、企業からお客さまへの一方通行でした。買い手(お客さま)から、企業への情報はアンケートや苦情といった形でしかなく、イメージとしては10000人の内の数名からの声しか届くことはありません。
0.000X%しか見えない世界です。では、もしもこの情報の流れがより活発となり双方向になったらどうでしょう?

「売ること」と人類と猿の違いを生んだ「あること」

「間接互恵性」という言葉があります。生物の淘汰やコミュニティにおいて、誰かを助けたり、誰かの得(恵み)になったりすることをお互いに行うことです。

この性質が人類を猿と異なる進化の道に進めた要因とも言われています。
また、”情は人のためならず“という言葉も、誰かに向けて情けを掛けておけば、巡り巡って自分に良いことがあるという意味ですので(間接互恵性)をわかりやすく説明しています。ここで言う”情け”は、サポートとか手助けと言い換えるとより判りやすいかもしれません。

情報の流れが双方向になり、企業とお客さまが(間接互恵性)の関係になると商品やサービスの質を向上させながら、お客さまの満足度も上がるという理想的な状態が実現できるようになります。但し、そのための仕組みが必要です。

その理由は、企業から質問されたお客さまは正直に答えるとは限らないからです。会社の上司に私のことどう思う?と聞かれて正直にこたえるか想像してみてください。

情報の流れが活発で双方向になるためには、ただお客さまに声を聞くだけでは不十分です。流通の現場や社内からの声を聞くことで多角的な視点を確保し、声を聞いて商品の製造や企画過程に繋げ、そこから得られる反応をさらに聞き方に反映させることまでが必要です。すると、取り組みは包括的かつ継続的になってきます。

包括的、継続的に「売ること」の複雑さに対応するには、新しいやり方や道具が必要です。そこには、社内(企業組織)のことも含まれます。どんなに外面が良くても社内から「うちはブラック企業でこんな事になっています」という声が社外に出たらどうでしょう? SNSや転職サイトなどで社内の声が以前より社会に発信されやすくなっています。

逆に、「うちは、こんなに社員に機会をくれて成長のきっかけがある嬉しい」という声も発信されやすくなっています。すると、お金をかけてわざわざ広告を行わなくても、会社の評判も商品のイメージも良くなります。
図にするとこうなります。

「買う」ことに伴う価値の社会性

「売ること」に関わる(間接互恵性)が増えてくると、企業内の風通しがよくなり働き方も変わります。商品やサービスの質が上がります。私達はただ消費するだけでなく「買うこと」を通じて社会や世界に繋がる実感を得られるようになります。

このように「売ること」のこれからは、いまの世の中の課題解決に繋がっています。そして、その鏡像である「買うこと」も世の中の課題解決に繋がっているのです。
「買うこと.jp」は、この両面を楽しく気軽に識って(知って)いただき一緒に考えるメディアを目指します。


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