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第31回 ”セットバック地を寄付するか”問題 再び(続)

6月10日の打ち合わせでは、父と対立した。僕はこれまで、検討する際は、敷地をできるだけ広く使うことによる住み心地の良さを最優先に考えてきた。であれば、自主管理しかない。

父は違った。ポイントは二点。自動車が出入りする南西側道路は、少しでも広いほうがいいということと、資産価値の観点だ。

上のタイトル写真は現在の南西側道路。(下図面の下側、上下赤い線で縁取られた新道路のほぼ中央にある赤い2点が、上写真の赤色の杭。写真は図面でいえば道路右側から左側を撮影)新しい道路でも道幅はほぼ変わらず約1.8mだ。公道は4m以上が原則なので、道路の中心線から両側に2mずつは、道路スペースを確保しなければならない。つまり、道路の境界から1.1mセットバックが必要。そこに建物は建てられない。(1.8m幅でも公道に認められるのが「二項道路」であり、いわば特例だ。)

父が言うように、現在の道路幅では、自動車幅ぎりぎりだ。でも、ここで自動車がすれ違うことはほとんどありえず、実害はない。しかし、D棟住民の自動車はこの道路を通り、バックして車庫入れすることになる。窮屈であることは間違いない。(下の図面には、D棟駐車場に車庫入れする際の軌跡を入れてある。一般的な普通車を想定)

父がもうひとつ強く主張したのが、資産価値の観点だ。1.8mの二項道路に接道する土地と、4mの公道に接道する土地では、後者の方が2,3割価値が高くなるというのだ。セットバック分を寄付し道路にしたとしよう。1.8m+1.1m=2.9mが道路になる。道の反対側の持ち主が、将来家を建て替えるなどした際、僕らと同様1.1mのセットバック地を寄付し道路とすれば、晴れて4mの正しい公道となる。そうなったとき、接道する土地がどれだけ価値が上がるのか、僕にはよくわからない。

しかし、父は言う。「目先の広さに惑わされて自主管理を選び狭い道路にすると、後で絶対バカをみる。」長年不動産取引を生業としてきた父が、そこまでこだわる(しかし、だったらなんで3月に再度分筆することになった時点で、そう主張しなかったんだと言いたかったが、せん無いことと思い言わなかった)のなら、もしかしたらそうかもしれない、とだんだん思えてきた。(後で調べて分かったのだが、道路幅は容積率にも影響する。幅員12m未満の道路に面した土地に家を建てる場合、道路の幅に「4/10(40%)」または「6/10(60%)」を掛けた数値が容積率の上限になるとのこと。つまり道が広いほうが、広い家を建てられる。そう言ってくれればよかったのに・・・)

しかし、短期的問題は残る。もし寄付すると、セットバック地には、町によって舗装されるまで砂利を敷く義務がある。D棟住人は自動車を車庫入れする時、アスファルト(舗装道路)→砂利→モルタル(コンクリート)の上をハンドルを切ってバックで移動することになる。セットバック部分に敷かれた砂利が飛び散り、車を傷つけるリスクもある。いつ町がそこを舗装してくれるかは、全くわからない。一応、ターゲットは高所得層だ。こんな駐車スペースに、大切なマイカーを停めるだろうか。また、駐車スペース以外の敷地部分は芝生だ。そこに砂利が浸食し芝生を傷めてしまうかもしれず、低いバリアを境界線に埋め込む必要があるかもしれない。

自主管理による短期的利益である賃借人確保と、寄付による長期的利益の資産価値追求の間で、トレードオフ(二律背反)となった。僕は判断を迫られた。必ずしもその時点で決定しなくても問題はなかったが、先延ばししても意味はなさそうだった。結局僕は、父の主張を信じて寄付を選んだ。


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