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第六回 賃貸住宅プロジェクトの概要

このあたりで、当初想定していた今回の実家の貸家プロジェクトの内容を整理したおきたい。ターゲット、スキーム、収益性の三点だ。

まずはターゲット、つまり想定する入居者のイメージ。漠然とだが、父と僕はこう考えていた。駅からの近さや安さを最重視するのであれば、集合住宅を含め他に物件はごまんとある。そういう標準化された家には住みたくはないと考えるような、住環境の個性にこだわる家族がターゲットとなる。なかでも、このあたりでは持ち家が普通なので、あえて賃貸住宅を選ぶのは、子供がある程度成長してから持ち家を持とうと考えている小さな子供を持つ家族か、持ち家では難しいようなユニークな家に住んでみたいと考える好奇心旺盛な家族、あるいは仕事が忙しくて持ち家購入を検討する時間も惜しむ共働き夫婦だろう(今予定地で二台分の駐車場として借りてくれている歯科医はこのタイプ。近所の貸家住い)。

どんなタイプにしろ、世帯収入は平均よりも高めだろう。家賃や利便性だけで家を選ばない人たちをターゲットとして想定しているので、ほかの賃貸住宅とどう差別化するかが重要になる。

次は、スキーム。敷地土地は父の名義だ。そこに僕が銀行からの借入と自己資金で賃貸住宅5軒を建てる。建物は僕の名義だ。僕がオーナーとして貸し出し、賃貸収入を得る。そして、その中から土地の賃借料を僕が父に払う。そしてやがて、貸家部分の土地は僕が相続する。こういうスキームだ。(注1)

父は借入先として、織物工場を経営していた時から取引のあった地元の信用金庫に決めていた。僕もどうせお金を借りるなら、メガバンクなどよりも地元に根ざした金融機関で借りたいと思っていたので、父に賛成した。

また、賃貸住宅は将来、それぞれを切り離して売却する可能性もある。将来仮にそうなった時に困らないように、分割を想定した設計にする、というのもスキームの一部だ。

次に収益性をどう考えたかを説明しよう(実際に投資を考えている人のために具体的に書くが、数字が苦手な人はこの部分はスキップしてもらってもかまわない)。僕は不動産などの現物投資は二段階で考えることにしている。まず、客観的にこの投資がどれだけの収益を生み出す案件なのかの評価。算式で書けばこうなる。

実質利回り=(年間収入ー年間支出)÷ 購入金額

客観的という意味は、誰にとっても同じ結果になるということで、案件自体の魅力度の評価ということだ。また、客観的だから、世の中にたくさん出回っている他の物件と比較ができる。この実家の貸家プロジェクトの収益性を、例えば東京で賃貸マンションに投資する場合と比較できる。つまり、投資案件を収益性(利回り)だけでみたときの、相対的な魅力度を判断するのがこの指標の目的だ。

次が、主観で考える評価。つまり、「僕」が投資したらどれだけの収益性を上げることができるかだ。例えば、稼働率をどれだけ見込むか(=リスクの受容度)、自己資金をいくらにし、何%の利子率で借りられるか(=資金調達能力)など、人によって条件は様々なので、自ずと評価も異なるはずだ。ある程度自分で考えて設定すべき変数が多いために、そこに価値観やライフスタイルなどのまさに主観が盛り込まれる。こちらを算式にするとこうなる。

投資収益率=((年間収入X稼働率ー年間支出)-年間ローン返済額) ÷ 自己資金

これは、頭金として少なくない金額を投資する僕が、その投資でどれだけ収益(キャシュフロー)があげられるかを評価するための指標だ。その収益率が、他の投資機会、例えば株式投資や銀行預金、金(gold)投資などよりも、リスクを考慮した上で高くなければ、投資すべきではないと考える。もちろん実際には、実家の土地であり思い入れもあるから、金投資などと同等には考えられないが、検討の出発点としては有用だ。なお、この算式は普遍的なものではなく、それを使う人の状況や価値観によって異なってもおかしくはない。今の状況の僕はこれを使いたいだけ。大事なのは、自分の頭で考えて使い分けることだ。

では、まず第一段階の客観的評価による収益性を見てみよう。データは、地元の不動産に詳しいN社(父に提案した住宅メーカー)の提案資料に基づく。それによると、3LDK75平米の二階建てを5軒建てる場合の総建築費は39百万円。そこに設備費や必要経費、消費税を加えて総額61百万円。それに対して賃料収入は、1軒あたり月88千円。つまり5軒で年間528万円。税金や管理費用を除くと452万円。この賃貸住宅事業の収益率は7.4%(=452万円÷6100万円)だ。

しかし、そこには土地代が入っていない。客観的評価であれば、土地のコストも加えるべきだ(自分は土地を保有しているから土地代はかからない、と考えると客観的でなくなる)。地価(固定資産評価や路線価に基づき僕が予測した)を坪単価15万円で、土地標準収益率を1.5%として計算すると、今回の敷地の土地コストは246坪で年間55.4万円。これを収入から差し引くべきだ。そうすると、利益は年間397万円に減り、事業収益率は6.5%になる。この数字は、一応客観的に評価したこの土地と建物が生み出すであろう潜在的な収益率だ。もちろん賃貸料は不確実だが、そこは地元業者を信頼するしかない。

次に第二段階の主観的な収益性評価。仮に総額61百万円のうち21百万円を自己資金でまかない、残り40百万円を20年間、利子率1.5%で借りるとする。稼働率を85%とし、ローン返済を差し引けば、残る現金は年間約86万円、つまり収益率4.1%となる(注2)。もちろん20年を過ぎれば、借入返済はなくなるので、ぐっとリターンは増えるが、年齢を考えれば20年後以降のことは考えたくはない。

賃借人が全く入らなくなるリスクも抱えつつ、4.1%の収益率では、正直それほど魅力的とはいえない。あなたはどう考えるだろうか?しかし、僕にとっては数字では表せないそれ以上の個人的な価値があるはず。いや、やるからにはその価値を見つけていかなければならない。

建築家の栗原さんからのプレゼンを2月に受ける前に、僕はこんなことを考えていた。

(注1)親からの相続が発生したとき、相続税計算に使用される土地の値段(相続税評価額)は、そこで賃貸住宅経営をしていれば減額できるため、それを目的に賃貸経営をする場合も多いが、本ケースでは判断に影響はない。

(注2)父に支払う土地使用料を生前贈与ということにして、もし支払わなければ収益率は6.7%となる。また、返済期間を延ばせば、その期間の収益性は高くなる。また、厳密には収益に対して支払う所得税も差し引くべきだが、ここでは考慮していない。

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