公図-000

第四回 最初の関門は「宅地」の証明

土地があって設計図があれば、施工会社に発注するだけで家は建つ、と漠然と思っていた。でも、そんなに簡単なものではないのだ。別荘のとき(第二回参照)は何もない山林のようなところに建てたので、それでよかったが、普通の街ではそうはいかない。いきなり、それを思い知らされた。

2017年12月15日、建築家の栗原さんからこんなメールがきた。

新築にあたって、ご確認していただきたいことがあります。計画地は、「市街化調整区域」に指定されておりますが、市街化調整区域での新築にあたって、愛知県では「昭和45年11月24日(線引き)以前より宅地であったことを証明する」ための下記いずれかの資料が必要となります。

1)土地の登記事項証明書の地目が宅地であるもの
2)建物登記証明書
3)既存宅地確認申請書
4)宅地であったことを示す公的資料

リサーチの結果、解体予定の古家が建っている「28-1」は上記1)・2)には該当していないことが分かったため、新築にあたっては3)既存宅地確認申請書か4)公的資料(「古家の確認申請書」か「古家の昭和45年以前の課税証明書」)が必要となるとのことです。

「28-1」を除いて計画することも可能ですが、市街化調整区域内の賃貸住宅の場合は駐車場を1住戸当たり1台の設置義務があり、少なくともその分は計画地内に取らなければならないためこの場合は平屋の計画は少し難しそうです。お手数おかけしまして申し訳ございませんが、(3)か(4)のどちらかが残されているかご確認いただくことは可能でしょうか。

建築家の仕事は、その土地に法的に家を建てられるどうかの確認から始まるようだ。家を新築するには、様々な許可が必要だ。「市街化調整区域」とは都市計画法に基づいて指定される区域区分(線引き)の1つで、市街化調整区域とは、市街化を抑制すべき区域のこと。ようはできるだけ家を建てさせたくない区域なのだ。だから、そこに建てるにはいろいろな条件をクリアしなければならない。

そもそも、土地は不動産登記法により土地の表示に関しての情報が記録(登記)されている(不動産登記簿謄本で確認できる)。記録項目は、土地の所在、地番、地目、地積、登記原因及びその日付、登記年月日等だ。そのうちの地目が、決められているその土地の用途を示したもので、原則それ以外の用途では使用できない。つまり、地目が「宅地」でなければ家は建てられない。

今回の貸家プロジェクトの対象となる土地は、実家が建っているところも含めて、9つもの地番に分かれている。それらの地目がすべて宅地でなければならない。ちなみに地番とは、登記された土地ごとにふられた番号で、住所の番地とは全く異なる。それを示す地図にあたる図面を公図といい、登記所(法務局)が管理し申請すれば閲覧できる。(タイトル写真が該当地域を含む公図。わかりにくいが、黒っぽい三つの四角形が書かれているあたりが対象の地番)

以下は、栗原さんの事務所、studio velocityが公図を拡大加工したもので、黄色の部分が公図に記載された父保有の土地だ(黒い点線は現実に使用されている境界。この微妙な差が後に問題となる・・・)。

栗原さんによると、9つの地番の1つ「28-1」は、地目が畑から宅地に変更されてはいるが、それが条件である昭和45年11月24日以前であることを証明できなければ家が建たないというのだ。そこには昭和45年以前から、既に旧実家(解体予定の古屋)が建っている。ということは確かに宅地だったはずだ。にもかかわらず、それを証明せよとの指導なのだ。

昔は住民も役所もいい加減だったので、隣住人と口約束で境界を定めたこともあったらしい。だから、正確な記録はなかなか残っていない。そこに現在の規則を適用しようとするので、建築の現場は大変なのだ。建築家とは、こうした微妙な交渉や調整も担和なければならない。これはなかなか大変な仕事だ。でも、まだまだこれはほんの序ノ口だった。


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