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第24回 工務店の入札

設計事務所(スタジオ・ヴェロシティ)による設計図面がほぼ完成したので、それを工務店に見せて見積もりをしてもらうことになる。いわゆるコンペだ。僕から特に依頼したい工務店はない。父は知り合いの工務店に依頼することを望むかと思っていたが、特にないとのこと。これまでのやり取りで、栗原さんに任せたほうがいいと思ったのかもしれない。コンペへの参加を打診したのは、栗原さんが推薦する、S建設、J建設、M建設、H工務店の4社。以下は栗原さんの推薦理由だ。

「S建設は以前工事をお願いしたことがあり、J建設は現在弊社の住宅を工事中です。両社には、今回の賃貸住宅の概算見積もりも出してもらっているので、入札参加してもらおうと考えています。M建設は、面識はありませんが普段弊社の構造計算をお願いしている構造設計事務所からお勧めいただいた工務店です。H工務店も面識はありませんが、建築家の住宅を数多く手掛けており、評判も良いのでリストに加えました。」

11/30時点で、H工務店のみコンペへの参加は見合わせるとの連絡が入った。H工務店は瀬戸市に本社があり、現場から遠いのがその理由だそう。

そして、正月を跨いだ1月18日の打ち合わせで、見積もり結果が報告された。3社からの分厚い見積書をみてもよくわからない。まずは、最終金額だけを比較しよう。

 M建設:5,980万円、S建設:6,270万円、J建設:7,970万円

まず、同じ図面から最安値と最高値の間で、2千万円も差がついたことが驚きだった。また、S建設とJ建設には概算見積を出してもらっていたが、その時の金額は、4,857万円。最安値のM建設でさえ、それより約1,100万円も高い。

さしあたり最安値のM建設に依頼すると仮定して、見積もりから削れる費用がないかを設計事務所で試算してくれた。例えば、給湯器機器は56万円が見積もられているが、それは毎月のガス代に加算される仕組みなので不要、といったものが9項目あった。しかし、それらを積みあげても、削れるのはわずかに210万円程度だ。(下の表の、M建設「VC調整後」参照)

ここで、事業費全体の構成を説明する必要があるだろう。僕と父が最終的に支払うことになる事業費総額は、おおきく建築費と諸費用に分かれる。建築費は建物を建てることにかかる費用で、諸費用は税金・納付金や保険、登記料などだ。既に支払った地盤調査や測量、分筆に関する費用もここに含む。

そして建築費は、5つのカテゴリーに分けられる。工務店工事、別途工事、施主支給、ヴェロシティ工事、そして設計料・構造設計料だ。今回の見積もりの対象が工務店工事であり、別途工事とは工務店によらず他の機関に依頼する工事のこと。具体的には、上下水道工事が含まれる。水道工事は工務店とは別に地元の工事業者に直接依頼するのが常だ。栗原さんも、だいぶ前に地元の水道工事屋さんに連絡を取っていた。

「施主支給」とは、やはり工務店を通さず施主が直接部材を発注する工事だ。直接購入できれば、その方が安くつく可能性は高い。床材や壁材、トイレ機器などが対象だ。「ヴェロシティ工事」とは、設計事務所が直接工事を手掛けるというもの。植栽や古材を利用した東屋建設などが対象になる。栗原さんの事務所では、スタッフを使って結構いろんな作業までやれてしまう。ここまでの4項目を仮に工事費と呼んでおこう。そして、設計事務所に支払う設計料は工事費の12%。さらに構造設計料も加わる。

さて、M建設の見積もり(工務店工事)には、別途工事と施主支給の一部も含まれていることが分かった。上下水道引込工事代は、以前設計事務所が調べた地元工事店の見積もり(概算見積もりの別途工事代に計上)よりも、M建設が見積もりに含めてきた水道工事費用のほうが安かったそうなので、工務店工事に含めている。

またM建設は、設計で施主支給としていた壁・天井の仕上げ材や設備機器を、施主支給にはできないとの条件(他の費用を安くした分、こういう部分でマージンを稼ぐのだろう)だったため、壁・天井仕上げ材と設備機器が工務店工事に含むことになった。

このように、概算見積もりとの比較、工務店間の比較も、一筋縄ではいかない。僕らにとって大切なのは、言うまでもなく工務店工事を安くすることではなく、事業費総額を最小にすることだ。

工事費で比較すれば、さらにM建設の価格競争力が優ることになる。M建設はスタジオ・ヴェロシティとの取引開始を狙って、相当「勉強」してくれたらしい。

1/18の打ち合わせでは、M建設の諸費用をもう少し安くならないかの交渉と同時に、取引実績のあるS建設にこのままでは依頼できないので、もう少し安くならないかの交渉を設計事務所にお願いして終わった。

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2/1に鈴木さんから連絡があった。S建設の再見積り(第二案)の結果だ。当初、工事費ベースでM建設より約400万円も多かったが、その差は約230万円にまで縮まった(表の「S建設(第二案)」参照)。両社とも、まだ少しは交渉の余地はありそうだ。



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