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1994年1月 雪の上田彷徨

【経緯とまとめ】
仕事に疲れて発作的に行った長野県上田市。その頃ずっと気になっていた信濃デッサン館を訪れたく、ついでに1泊くらい、と思っていたのだが自分のうっかりで日帰りしなければ、の事態に。
写真は出てきたのですが当時のスケジュール帳とメモがみつからず(上田の西武デパートで買ったノートに詳細をメモした記憶があった)、ほぼ記憶だけでまとめました。記録と新事実が出てきたら追記するかもです。
結局なんだかんだで一泊。束の間のかなり濃い旅でした。

1月23日(日)

月曜に有給休暇をもらい、日曜にあわてて新幹線で静岡発。
出てから青くなる。週末に勤務した際、ラストの人が施錠するキーを持ったままだと気づいた。日曜なのにあわてて所長に電話。かなり呆れていた様子だが、いいよ月曜のお終いはボクの鍵で施錠できるから、火曜日必ず鍵持って来てねー、と。
火曜もずる休みしようかな、とちょっと思っていたのでわずかにしょんぼり。鍵はマズいでしょ、明日会社行った方がいいに決まってるよ、と心の中の天使?が囁く。月曜の有給休暇を取り消して日帰りにしようかな、とも思ったが、まあなるようになるョ、と悪魔が肩を叩いたので急に気を取り直して東へ向かう。
東京から山手線で新宿へ。
新宿からJR在来線で上田へ。
(コースは不明だが横川・軽井沢経由でそのまま上田に着いた記憶がある。
横川のホームには釜めし売りがいたような)
上田着。かなり気温が低く、空はどんよりと曇っている。

少し前に電話で信濃デッサン館に電話して行き方を聞いていた。
ぼそっとした声音の男の人が出て、「上田駅から電鉄に乗って塩田町で降りてから歩いて40分です」と言っていた(館長だったかも)。
まあ、40分歩くのはそこまで苦でもないか、知らない土地だし何かと景色が楽しめるだろう、と電鉄駅に行く。JR駅から線路を渡ってすぐ。

初めての上田の街は、駅から向こうになだらかに坂上がっていて、少し離れて高い山々が見える、どこか広々としながらも寂しい感じだった。
やがて、低くたれこめた雲に反射したのか、電鉄の警笛がラッパのようにぷぁん、と妙に響いて耳に飛び込んできた。
あまり乗客は多くない。ドアが自分で開け閉めするボタンつきだったかな。

向かい合わせに一列に座る、小さな電車。
そのうち、近くの駅に改札がなさげなのに気づく。切符は上田駅で買ったが、どうやって出て行けばいいのか?
よくよく見ていたら、「次は××」という時に、車掌さんが通路を渡っていく。降りる人達は切符を前に出して、それを車掌さんが取っていく、で、次の停車でその人たちは降りていく、というシステムのようだった。

無事に塩田町で降りる。
外は閑散としている。というか、店とか大通りとかがない。
人もいない!
いきなり地元の田舎に帰ってしまったような。

駅周辺

地図を頼りにデッサン館へと進む。駅から南側、山が黒々とそびえ、なだらかに斜面になって登っている感じがする。
ため池が多い。それにしても人がいない。黙々と歩く。

冷たい雨。持っていた折り畳み傘でしのぎつつ進む。

なんとなく重さを感じて、ふとみると雨は雪に変わりつつあった。
ほんとなんか、自分って雨女、というか雪女だよなー、と。
「とんとんとん、こんばんは、ちょいと戸を開けてくださいな」
みたいな。いやいやいや。

早く着きたくて速足になる。

やっと! 信濃デッサン館が見えて来た!
思ったより大きなつくりで、しかも落ち着いた雰囲気が素敵。

お客様は数組ほど。日曜だがお天気がこんなだし、誰もいないのでは、と思っていたが意外にも(すみません)人がいて、安心する。

チケットを見るに、前山寺が本館で
近くに槐多庵があったらしい

少し前に、窪島誠一郎著「額のない絵」をたまたま図書館で見つけて読んでとても気になっていた場所なので、今回は期待がいっぱいだった。
本は、夭折した日本の画家たちとその作品について書かれていたのだが、あまり今までなじみのない画家が多く取り上げられ、しかもその絵のひとつひとつにものすごいパワーや深い世界を感じていたので、それが実物で見られるなんて……とドキドキしながら見て歩く。

村山槐多もパワフルでやんちゃな感じのものも多く、とても良かったのだが、一番好きだったのは関根正二、あと、松本俊介も特に気になった。

余すところなく観て歩き、「額のない絵」(窪島氏のサイン付き)も買って、外に出て驚愕!
雪が本降りになっている!

ついつい雪の降る様に見とれていたが、はっ、と我に返る。
また歩いて電鉄駅まで戻らねばならないではないか。徒歩40分。
傘も差せないので、そのままトボトボと歩いて緩く下っていく。
あっという間に頭と肩とに雪が積もる。このままでは雪だるま…?

5分ほど歩いたあたりで車が背後から迫るので道をあける。と、車が停まって中からオバサマが手を振ってこう言った。
「さっきデッサン館にいた方よね? よかったら乗ってかない?」
なんと天の助けでした。オバ、いや美麗な奥様のふたり連れ。車で松本から来られたのだという。
マダムらは雪などなれたもので、交差点などに来ると
「○○さん、おねがい」「はい!」と華麗なる連係プレーで、運転席は周りに目配りし、助手席がさっと降りて手持ちの土間ボウキでフロントガラスの雪を落とす、を繰り返している。さすがです。
どちらから? と尋ねられたので静岡から、というと目を丸くしている。泊まりよね、と言うので出来れば今日中に帰りたいんですが(会社の鍵が……)と言ったが
「雪が酷くなりそうだから泊まった方がいいわよ、そうだ、上田駅に東急があるからそこまて送ってあげる」と。
本当なら地元の松本まで送ってそこを案内してあげたいけど、と笑っている。いやーほんと恐縮です。松本ってどこ?

それからもマダムがたはわざわざ通りかかりの場所を「生島足島神社よ!」「千曲川!」などと説明してくださった。

東急インの車寄せにわざわざ車を回してくださって、お礼をゆっくり述べる間もなく、「じゃ、お気をつけてね~」とマダムたちは軽やかなあいさつとともに去っていった。

東急インは、幸運にも空き部屋があった。すぐにチェックイン。
部屋はそこまで広くはなかったが暖かくて快適。
さっそく荷物を置いて、夕飯を買いに出かける。
上田の街にも西武デパートがあった! そこで何かと買う。

汚い靴ごめん。

(たしかノートも買って、今回の旅の記録もつけたような……
一回書いていたのもあって、覚えている部分が多いのかも)

ホテルへの帰り道、駅近くで背広のおじさんが大きな白菜二玉を紙で包んで紐をかけたやつを手に下げて歩いていた。
信濃の白菜うまそうだった。今夜はすき焼きか?

ため湯にしてからテレビをつけると、グールドがショパンの曲を演奏していた。それを聴きながら風呂に入る。

外は雪だが、温かくしてぐっすりと眠る。

1月24日(月)

スッキリと目覚める。
ホテルの窓からは雪化粧した上田の駅近くが見える。

朝ごはんは外で軽く食べたかな。
鍵のこともあるので早めに上田を出る。
あっ、上田城方面全然行ってなかった。これはいずれ。

軽井沢でいったん降りてみる。
みんなの憧れ軽井沢、ちょっと覗いてみたくなって。ふふふ。

朝まだあんがい早いのと、冬ということもあって、開いているお店はほとんど無かった……軽井沢への憧れはシャボンの泡のごとくあっという間に消えたのでした。

ホームで、女子高生たちがキャッキャしている。純朴な感じ。
そのうちひとりが「あーーー!靴がぁ」と悲鳴を上げた。ふざけて足を振り上げていて、降り飛ばしてしまったらしい。すると、すぐに友だちらしき子がホームから降りて(よい子は決してけっしてマネをしてはいけません)すぐ拾い上げて「あったよー!」と掲げて見せた。
事故が無くてほっと一安心した旅人でした。それにしてもホームが低い。

あとはひたすら鍵のことを思い(?)、帰路についた私でした。
帰りがけに会社に寄ったと思うよ、多分。さすが勤勉(だった?)。


おしまい

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