死ぬほど律儀


登場人物

青山龍太 白田虎徹

青山 「ピンポーン」

白田「はーい!誰だ、こんな時間に」

青山 「ピンポーン」

白田 「はーい!ガチャ。はい?」

青山 「こんな遅くにごめんなさい。白田さん!お礼を言いに来ました。」

白田 「お礼?その前にあなた誰ですか?」

青山 「そうですよね。営業部の青山です。」

白田 「営業部の青山、、?、、あ〜、どっかで会ったことあると思ったよ。で何?お礼って。」

青山 「この間僕、会社の廊下で書類をばら撒いちゃってその時に一緒に拾ってくれたじゃないですか。で、そのお礼と思いまして。あの時はありがとうございました。これ、どうぞ受け取ってください。」

白田 「え〜、そんな事ぐらいでわざわざ自宅までお礼にって。律儀だねぇ。えっ何持ってきたの」

青山 「有名なお菓子です」

白田 「有名なお菓子?なんだろ、、、フィガロ?聞いた事ないなぁ」

青山 「そんな事ないですよ。絶対見たことあるはずです。」

白田 「そうかなぁ」

青山 「ありますよ。白田さんってコンビニとか行かないんですか?」

白田 「コンビニ?そりゃしょっちゅう行ってるよ」

青山 「じゃあ見た事ありますよ。ほら、レジの後ろにあるじゃないですか。」

白田 「あ〜!あれか!見たことはあるよ。誰が買うんだろうな〜って思ってたけど、買ってる人はじめて見たよ。」

青山 「どうぞ、受け取ってください」

白田 「なんかかえって申し訳ないけど、せっかくだからいただくよ。でもなんでコンビニの菓子折りなの?」

青山 「特に意味はないんですけど、ここにくる途中でお腹痛くなっちゃって、コンビニのトイレ借りたんです。そのまま何も買わないのは悪いと思ったんでこれ買ったんです。」

白田 「そんな理由?ガムとかならわかるけど。律儀なんだね。」

青山 「というわけで、夜分に失礼しました。また会社でお会いしましょう。」

白田 「いや、ちょっと待ちなよ。せっかくわざわざ来たんならさ、上がってお茶でも飲んでいきなよ。」

青山 「いえ、そんなわけには、、」

白田 「いいからさ、ちょうど退屈してたんだ。このお菓子も一人じゃ食べきれないし、上がりなよ。」

青山 「いえいえ、かえって申し訳ない。」

白田 「いや、いいから。」

青山 「そうですね。じゃあ3回引き止められたのでお邪魔します。」

白田 「そうゆうところもきっちりしてんだな。
ハイ、あんまりいいお茶じゃないけどどうぞ。」

青山 「ありがとうございます。いいお茶ですね。白田さんのウチっていいおうちですね。掃除も行き届いて、床の間の掛け軸も結構で。」

白田 「何言ってんだよ。」

青山 「すみません、人のウチにあがったらこうやって誉めなきゃいけないって教わったもんですから。」

白田 「なんか色々間違ってる気がするけど、まぁいいや。ありがとう。なんか君ってあれだよね。なんでもかんでもキッチリやろうとするんだね。」

青山 「えぇ、礼儀だけはしっかりしないといけないって両親から教わってますので。」

白田 「まぁ、そうゆうのって大事だよな。いやでもさ、今日みたいに書類拾うの手伝ったくらいでわざわざウチまでお礼にくるのは丁寧すぎるんじゃない?そんなことばっかりやってたら年がら年中お礼して廻らなきゃ行けないじゃない。」

青山 「そうですね〜、ほとんど毎日お礼しに誰かのウチに行ってますね。」

白田 「行き過ぎだよ!何をそんなにお礼することがあるの?」

青山 「例えば今日みたいに困ってる時に助けてくれた人にお礼に行くじゃないですか。
その時にどんな物を持っていくと良いかとか調べないといけないので、その時に協力してくれた人にも後日お礼に伺ってるので」

白田 「ちょっと待って!それじゃあいつまでも終わんないじゃん!」

青山 「そうなんですよ。でも、あの人にはお礼したのにこっちの人にはしてないってなると僕の心持ちが悪いので。」

白田 「気にしすぎだと思うけどなぁ。でもまぁ、人から受けた恩を忘れずに感謝し続けるって気持ちは大事にしないとな。ん〜それにしても君のはやりすぎだよ。」

青山 「白田さんは、恩を受けた人にお礼に行ったりとかしないんですか?」

白田 「あんまりしないなぁ。」

青山 「そうなんですか。」

白田 「家まで行くのはさすがになぁ、同じ会社の人とかだったら会った時にちょっとした物あげるとか、なかなか会う機会がない人だったら宅急便で送るとか。後は、密かに恩を感じてる人の住んでる方角には足向けて寝ないようにしてるくらいかなぁ。」

青山 「え?なんですか?」

白田 「いや、だから社内の人だったら会って直接渡すし、宅急便で」

青山 「そこじゃないですよ。その後!」

白田 「え、その後?だから、この人は恩人だと思う人には、足を向けて寝ないようにしてるんだよ。昔からよく言うでしょ。」

青山 「えぇ?恩を受けた人に足向けちゃいけないんですか?」

白田 「いや、いけないって訳じゃないよ。気持ちの問題だから。」

青山 「いや〜知りませんでした。そんな決まりがあったなんて」

白田 「決まりではないんだけど」

青山 「あれ?って事はもしかして僕、知らない間に恩を受けた人達に足向けちゃってるのかも。あ〜!もしそうだったらお詫びしに行かなきゃ。」

白田 「いやいやいや、大丈夫!それは大丈夫!」

青山 「でも失礼な事しちゃった。」

白田 「大丈夫だから!お詫びなんかしたらかえって変なことになる。」

青山 「....でも」

白田 「じゃあさ、これからは絶対に足を向けて寝ないようにすればいいんじゃない?それで大丈夫だと思うよ。」

青山 「そうかな。」

白田 「そうだよ。だって今まで知らなかったんだから仕方ないよ。」

青山 「そうですね。これからは気をつければ良いんですね。今日はいい事を聞きました。ありがとうございます。また改めてお礼に」

白田 「来なくていいよ。気持ちだけで充分。」

青山 「恐れ入ります。あれ?って事は、僕は一体今日からどこを向いて寝ればいいんですか?」

白田 「それはだから、恩人がいない方角ならどこでもいいだろ。」

青山 「そうなんですけど、恩人がいない方角って思ったんですけど、...どの方角にもお世話になった人がいるんですよ。」

白田 「そんなことないだろう。」

青山 「いやほんとなんですよ。いつも僕、北に足向けてるんですよ。でも、その方角には、高校の時にお世話になった南先生が住んでるんです。」

白田 「そうか。じゃあ東は?」

青山 「中学の時の恩師の西野先生が。」

白田 「じゃあ西は?」

青山 「小学6年の時の担任の東先生が」

白田 「いや、名前と方角がややこしいな。じゃあ南は?」

青山 「幼稚園の園長先生」

白田 「それは別にいいだろ。」

青山 「良くないですよ。」

白田 「気にしすぎだと思うけどなぁ。じゃあ北西とかは?」

青山 「北西...ダメです。父が住んでます。」

白田 「親かぁ〜、そうだよなぁ。じゃあ北東は?」

青山 「母が住んでます。」

白田 「両親別居してんのかよ!仲悪いの?」

青山 「そんな事はないですよ。めちゃめちゃ仲良いですよ」

白田 「じゃあなんで別々に住んでるんだよ。」

青山 「僕をここまで育ててくれたお礼に父と母それぞれ好きな土地に家を買ってあげたんですよ。」

白田 「なんで別々に住ませるんだよ仲良いのに。」

青山 「で、その家を買う時に色々お世話になった方が、南西に住んでます。」

白田 「そうなんだ。じゃ、南西も足向けらんないね。南東は?」

青山 「落語家の柳家花飛が住んでます。」

白田 「何?落語家?」

青山 「はい!大好きなんです。あんなに面白くて素晴らしい人いません。」

白田 「自分で言ってて恥ずかしくない?まぁいいや。本当に方々に恩人がいるんだな。」

青山 「そうなんですよ。今日から僕はどうやって寝ればいいんですか。」

白田 「そうだなぁ、どこ向いてもダメってなると後は上か下....じゃあさ、立ったまんま寝ればいいんじゃない?」

青山 「.....そうですね!その手がありました。ちょっと寝づらいかもしれないですけど、今日からやってみます。」

白田 「....言ってみただけなんだけどなぁ、まぁ頑張って。」

青山 「ありがとうございます。また改めてお礼に...」

白田 「いいってだから!あ、帰るの?もうこんな時間か。うん、じゃあまた会社でな。......変な奴だなアイツ。本当に今日立って寝るつもりかな。まぁいいや。俺も寝よう。」

てな感じで床に入りまして寝てしまいます。ところが真夜中ごろになりますと

ピンポーン。ピンポーン

白田 「誰だよこんな時間に。はーい!」

青山 「遅くにすみません。」

白田 「お、どうしたんだよ、こんな時間に。」

青山 「困ったことが起こりまして。実はあれからウチに帰って寝ようとしたんですけど。」

白田 「あぁ、やっぱり立ったまんまじゃ寝られないか。ごめんな、変なこと言って」

青山 「いえ、そうじゃないんです。立ったまんま寝ることはできたんですよ。ちょっと時間はかかりましたけど何とかうつらうつらしてきた時に思ったんです。

白田 「何を?」

青山 「地面にも足を向けられないんですよ。」

白田 「どうして?地面の中には誰もいないだろ。」

青山 「そりゃ流石に地面の中には恩人はいませんよ。でも、地面の向こうにいるんです。ここから地球の裏側にはブラジルがあるんですよ。」

白田 「確かにそうだけど、そこまで気にしなくていいんじゃないの?」

青山 「ダメですよ!僕が好きでいつも飲んでるコーヒーはブラジル産なんですよ。あんなおいしいコーヒー豆を栽培して下さってる皆さんに足を向ける訳にいかないでしょ?」

白田 「そうかもしれないけど」

青山 「僕はどうすればいいんですか⁉︎」

白田 「どうすればって言われてもなぁ。下がダメならあとは、逆さ吊りしか無いか。」

青山 「そうですね!その手がありました!そうかぁ逆さ吊りかぁ」

白田 「いや、ちょっと待てよ。俺もいま、思いついたから言っただけでさ、実際やるとなると問題あると思うぞ。」

青山 「問題ですか?・・・そうですね。流石にまずいですよ。」

白田 「そうだろ?逆さ吊りになるってことは頭に血が上って危険だし、道具だって必要になってくるし」

青山 「いえ、それよりもまず、空に足向けちゃうと天国にいるご先祖様に失礼ですよね。」

白田 「そうきたか・・いや、そこはもう気にしなくていいと思うよ。」

青山 「何でですか?ご先祖様は大事じゃ無いっていうんですか?」

白田 「そうゆうことじゃないけどさ、・・ほら、お墓のある方角に足を向けなければセーフって事にしてさ。」

青山 「ダメですよ!そんな曖昧なことじゃ!お墓は地上にあっても、魂は天国にいるんですから!」

白田 「そうゆうこと言ったらキリが無いよ。いやとにかく落ち着いてさ。そうだ!ご先祖様の魂は、もう生まれ変わって地上にいるんじゃないか?そうゆう事にしてさ」

青山 「何ですかそうゆう事って!ご先祖様が生まれ変わってるなんて、証拠でもあるんですか?」

白田 「それ言うなら魂があるって証拠もないだろ。いや、まあ落ち着けよ。」

青山 「これが落ち着いていられますか!何ですかさっきから他人事だと思って!一体どうすればいいんですか⁉︎」(胸ぐらをつかむ)

白田 「おい!やめろ!いいから落ち着けって!離せ!離せって!(突き飛ばす)」

青山 「あ〜!(大きな音を立てて倒れる)」

白田 「・・・・おい!大丈夫か?・・・おい!・・おいしっかりしろ!....救急車呼ばないと」

すぐに119番に電話をしまして病院に運ばれます。

白田 「先生!アイツは助かるんですか⁉︎・・・そうですか・・打ち所が悪くて・・・はぁ・・なんて事をしてしまったんだ・・・俺がもっと親身になってやれば・・・」

青山 「白田さん。」

白田 「・・・青山・・・お前、死んだんじゃ」

青山 「どうやら、そうみたいですね。ほら、身体が半分透けてるでしょ。幽霊になっちゃいました。」  

白田 「なっちゃいましたって・・まさかお前、俺の事を恨んで、化けて出たのか?」

青山 「恨むなんてそんなとんでもない。白田さんにお礼が言いたくて、こうやって出てきたんです。」

白田 「お礼?俺は何も感謝されるようなことしてないぞ。」

青山 「何言ってるんですか。こうやって幽霊になったおかげで足が無くなって、安らかに眠れます。」

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