勇者アキヒロ
登場人物 勇者 勇者の母 隣村の住人 敵
母 「勇者よ。目覚めなさい。もう冒険に出る時間ですよ。目覚めるのです。あなたには魔王を倒すという使命があるのです・・・目覚めなさい・・・目を覚ましなさいっつってんのよ。(ドンドンとドアを叩く)」
勇者 「何言ってるんだよ母さん。僕はもうとっくに目覚めてるよ。朝も7時には起きていたよ。」
母 「そうゆう事言ってるんじゃないの!さっさと冒険に出かけなさい!国王に魔王征伐を頼まれてからもうずいぶん経つじゃないの!一体何をグズグズしてるの!」
勇者 「別に僕だってグズグズしてるわけじゃないんだよ。準備をしているんだよ。」
母 「準備?」
勇者 「そうなんだ。確かに僕は勇者の血を引いた選ばれし者だよ。だけど、今の僕では魔王はおろか外にいるモンスターにだって勝てないかもしれない。だから、そうならないように出掛ける前に準備をしているんだ。」
母 「・・そうだったのね。ごめんなさい。頭ごなしに怒ったりして・・ところで、準備って、何をしているの?」
勇者 「まず冒険に出るためには知識や情報が必要だと思ったんだ。だからまずは本屋さんに行ったんだ。これは正しい選択だったよ。本には先人の経験や知恵が詰まっていたよ。もし仮にいきなり冒険に出かけていたら、きっと今頃雑魚敵にやられて犬死にしていたと思うよ。」
母 「そう。ちゃんと考えていたのね。良かったわ。じゃあ近いうちに出発できるのね。」
勇者 「いや!まだだよ。まだ足りない物があるんだ。」
母 「足りない物?」
勇者 「そうだよ。険しい冒険に出るには、まだまだ必要な物があるんだ。」
母 「何が足りないって言うのよ。」
勇者 「まずは装備だよ。」
母 「何言ってるのよ。装備だったら王様からもらった剣や盾があるじゃないの。」
勇者 「そうだけど、あんなセコい装備じゃ魔王は倒せないよ。」
母 「王様から貰っといてセコいって・・・そうかもしれないけど、まずはその装備で冒険に出て立ち寄った村や街でより強い物に買い換えていくのよ。」
勇者 「ダメだよ母さん。そんな古い考えじゃ一流の勇者にはなれないよ。その辺で売っているような安い装備で戦ってたんじゃそれなりの勇者で終わっちゃうんだよ。立派な装備を身につけているからこそそれにふさわしい立派な勇者になれるんだよ。この本に全部書いてあったんだ。」(と、本を渡す)
母 「何?『勇者は装備が9割』?どこに売ってたのよこんな本!」
勇者 「本屋に平積みされてたんだよ。良い本だから読んでみてよ。」
母 「なになに?『一流の勇者になるにはまず装備が肝心です。初めは安い装備で出発して冒険しながら良い装備に変えていこうなんて考えているといつの間にかひとやまいくらの安い勇者になってしまいます。始めから一流の装備を身につけましょう。そうすれば自ずとその装備にふさわしい立派な勇者になれます。』」
勇者 「だからね、僕は一流の武器や防具が手に入るまで出発しないことにしたんだ。」
母 「そんなこと言ったって冒険にも出ないでどうやってそんな良い装備を手に入れるのよ。この町には売ってないでしょ?」
勇者 「大丈夫!その本の最後の方を開いてみてよ。」
母 「最後の方?何?いろんな武器や防具が紹介されてるわね。アラ!本を買った方限定の通販サイトリンクが載ってる。」
勇者 「そこで買おうと思ってるんだ。」
母 「やめなさい!そんな怪しい物買うの!それにしたってこんな高い物買うお金も無いでしょ?」
勇者 「心配しないで、お金なら自分でなんとかするから。」
母 「当たり前でしょ!だから外へ出て魔物を倒してお金を貯めなさい。」
勇者 「お母さん!その考えは古い!いい?確かに外にいる魔物を倒せばお金は手に入る。でもその魔物と戦ってる時間を上手く使えばもっとたくさんのお金になるんだよ。地道に戦ってなんてそんなやり方してたんじゃあお金が貯まった頃にはお爺さんになっちゃうよ。だからね。僕はビジネスを始めようと思うんだ。」
母 「また何言い出すの!」
勇者 「何って、ビジネスでお金を作るんだよ。そしてそのお金で装備品やアイテムを買うんだよ。これからの時代は冒険も頭を使わないとね。コレもこの本に書いてあったんだ。見て、『成功する勇者になるための39の方法』だからこれからビジネスに必要な勉強をするんだ。そのための本も買ってある。マーケティングにコピーライティングに・・・」
母 「お願いだから目を覚まして。あなたのやることはそんなことじゃないの!町から出て、経験値を積んで強くなって魔王を倒すの!」
勇者 「お母さんは本当に頭が固いなぁ。この本貸してあげるから読みなよ。」
母 「また本・・・『成功したければ経験値を稼ぐな!』・・何なのこの本・・開く気もしないわ・・経験値稼がないでどうやって強くなるのよ。」
勇者 「そう思うでしょ?自分が強くならなきゃいけないって発想がそもそも間違ってるんだよ。」
母 「じゃあどうするのよ。」
勇者 「強い仲間がいればいいんだ。」
母 「・・仲間・・・そうね。この際他力本願でもいいわ。じゃあ向かいの酒場で強い仲間を探すつもりなのね?」
勇者 「そんなどろくさいこと僕がやると思う?」
母 「じゃあどうするのよ?」
勇者 「この本に書いてあるんだ。『最強のパーティーが作れる人脈術』」
母 「また本・・・」
勇者 「これも良い本だよ『どんな人とでも仲間になれる話し方』それと、『冒険は仲間が9割』」
母 「仲間が9割って、装備が9割て言ってたじゃないの!矛盾してるわよ。・・・・変な本ばっかり読んで・・」
勇者 「変な本じゃないよ。僕は一流の勇者になるために勉強しているんだよ。情報と知識が必要なんだよ。だからこれまでにもいっぱい本を読んだ。『ラクして魔王を倒すための読書術』これ、シリーズがたくさんあって『その他多勢の勇者から抜け出すための情報活用術』それに『発想術』『ノート術』に『時間術』」
母 「出版社どこなの?・・・・魔王より恐ろしいわ・・・頼むからそんな本ばっかり読んでないで地道に冒険して。」
勇者 「そういえば、僕宛に荷物来てなかった?」
母 「何急に話変わって・・・そういえば、なんか届いてたわね。(取りに行って戻って来る。)また何かしょうもない本買ったの?」
勇者 「本じゃないよ。気になるなら開けてもいいよ。」
母 「じゃあ開けるわよ・・・なにこれ?」
勇者 「何って、木の実だよ。」
母 「木の実・・・もしかして・・食べると力とか体力が上がる不思議な木の実・・・いいわ、こうゆうやり方もありだと思う。これを食べて強くなろうとしてるのね。」
勇者 「何言ってるんだよ母さん。それただのミックスナッツだよ。」
母「ミックスナッツ⁉️」
勇者 「しかも素焼きだよ」
母 「どうでも良いわよ!」
勇者 「ナッツには良質な脂質やタンパク質が豊富に含まれていてしかも腸の働きも良くしてくれるし健康に良いんだよ。『成功する勇者こっそりやってる健康法』これに書いてあったんだ。お母さんもどう?」
母 「要らないわよ!健康なんか気にしてどうするのよ。」
勇者 「お母さん!何言ってるんだよ。何をするにも健康はだいじだろ?」
母「・・そうね。・・お母さん、ちょっとカーッとなっちゃったわね・・・そうよね・・身体に気を使うのは大事よね・・」
勇者 「そうだよ。健康は大事だよ。体が健康だとね。脳にも良い栄養がいくんだよ。そうすると、記憶力や集中力も上がって、たくさん本が読める。」
母 「結局そこなの!良い加減本から離れて・・・・」
勇者 「ところで、届いた荷物ってコレだけ?もう一つなかった?」
母 「・・・なんか大きい物があったわねそういえば・・玄関に置いてあるけど、」
勇者 「そうなんだ。じゃあ自分でとってくるよ(行って戻ってくる)やっと届いたあ」
母 「今度は何なの?」
勇者 「コレはね、不思議なツボなんだよ」
母 「不思議なツボ・・・もしかして!海の真ん中にある洞窟に入る為に必要なアイテム?」
勇者 「バカだな、そんな物が通販で買えるわけないだろ。コレは幸運のツボだよ。これを部屋に置いておくと運気が上がるんだよ。」
母 「あぁ!我が子がどんどん変な方向に向かってる!」
勇者 「おっともうこんな時間か。筋トレしなきゃ」
母 「筋トレ?あなた筋トレしてるの?」
勇者 「うん、毎日してるよ。あと瞑想も。」
母 「・・良かったわ!やっぱり勇者の子ね!なんだかんだ言ってそうやって体と心を鍛えて冒険に備えてたのね!偉いわ。」
勇者 「そうだよ母さん!筋トレの効果は体が強くなることだけじゃないんだ!脳にも良い影響があるんだよ。そしたらもっとたくさんの本が読める!『脳を鍛えるにはまず筋トレをしろ!』これ僕のバイブルなんだ。」
母 「いいかげんにしなさいよ!そんな本ばかり読んでる間にも魔王は世界を滅ぼそうとしてるのよ。」
村人が入ってくる
村人 「大変だ!助けてくだせぇ!」
母 「あなたは隣の村の!どうしたんですか?」
村人 「魔王の手下どもがオラの村に攻めてきましただ!」
勇者 「なんですって!って事はじきにこの村にも・・・」
母 「そうよ。アンタがさっさと出かけないから隣村が魔王の手に・・」
勇者 「なんて事だ僕のせいでこんな事に・・・なんて僕はバカだったんだ!勇者の血を引いてるのに人を救えないなんて・・」
母 「そんな事ないわよ。今からだって遅くはないわ。今こそ旅立ちの時よ。」
勇者 「・・・・行ってくるよ!(出て行く)」
母 「やっと目が覚めたのね。ちょっと遅すぎる気もするけど仕方がないわ。いってらっしゃい勇者よ!」
勇者、出かけたかと思いきやすぐに帰ってくる。
勇者 「ただいま!」
母 「ただいまってアンタ、今出かけたばかりじゃない!隣の村行くんじゃなかったの?」
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