「I AM FROM AUSTRIA」（月組）はエマのストーリーにしよ？

映画も好きだけど、根っこは宝塚ファン。贔屓が退団しても、各組１公演程度は観劇してます。「花・月・雪・星・宙」と５組あるうちの今回は月組を東京宝塚劇場で観劇。「I AM FORM AUSTRIA-故郷は甘き調べ-」というウィーンミュージカルでした。演出は前作「夢現無双　-吉川英治原作「宮本武蔵」より-」から引き続きの齋藤吉正先生。一本物で海外ミュージカルの演出初めてだったはず。

宝塚歌劇の公式HPからあらすじを引用すると…

舞台はウィーンにある老舗ホテル・エードラー。跡継ぎであるジョージは、伝統を重んじる両親に対し若者らしい革新的な改革を掲げ、悲願である“五つ星”獲得を目指し積極的に経営に参加していた。そこへ、オペラ座舞踏会に出席する為に久々に帰国したオーストリア出身の人気ハリウッド女優エマ・カーターがお忍びでやってくる。しかし従業員の一人が彼女の来訪をツイートした為、マスコミが押し寄せホテルは大混乱に陥ってしまう。ホテル側の不手際を詫びに、ジョージがエマの部屋へ訪ねると、ふとしたことから二人は意気投合するが……。
ホテルの御曹司として自らのなすべき事を模索するジョージ、世界的なスターでありながら自らを失うエマ、各々は惹かれあい、オーストリアの美しい街並みや自然の中で、自分の居場所を見つけていく。

ハリウッド女優のエマは故郷を捨ててハリウッドで活躍しているけど、忙しすぎる毎日に疲れて帰郷したオーストリアで、出会った人たちやハプニングを通して、自分のアイデンティティとはなにか？を探し、見つけて、一歩人生歩き出す物語じゃないの？これ、ジョージが主役じゃないよね（暴言）

と思って検索してみたら、ウィーン版のポスター、エマがセンターど〜〜ん！じゃないか。

つまり、あれか。「エリザベート」ってタイトルロールなのに、トート（死神）が主役になってしまう宝塚、ってパターンか？

宝塚では主役じゃないとしても、エマは姿勢が悪く見えて。もっと堂々と演じていいのになぜ、ジョージをいつも下から覗き込むようなステージングなんだろう。キャンキャン騒いでいるように見えてしまい、魅力が半減してしまった。ジョージは「スマート」に演じているのだろうけど、台詞のこなれてなさ感があって、抑揚がなく、いちいち感情がぶった切られる。脳内リピートしたくなる台詞がなかった。というかエマとジョージがワンナイトの後「後悔してない？」とか死語か。もっと言ってしまうと、エマを立てて物語を通しても、ジョージがかっこよく見えるように演出すればよかったのでは？という疑問が湧いてきている。つまり「包容力」で「受け」の演技で見せてよかったんじゃないか。

最大にBADだったのが、エマのマネージャーのリチャードの描き方。単にエマを利用するだけの男に見えてしまい「そこは宝塚のテイストにしなくちゃだろ！」とこれじゃない感が押し寄せる。リチャードはエマを利用してるけど、一緒に苦労した楽しい時間もあったはずなのに、あんな悪者感情だけでいいのか？悪い人でも憎めないところが見えなくちゃ、宝塚じゃない！

そして、こういう時、言ってはいけないワードが出てくる。

「イケコで観たかった…」

だがしかし、ジョージの父には花組から月組に組み替えになった鳳月杏さん。そして母には怪我から復活した海乃美月さん。この夫婦の物語は間が絶妙で面白かった。いや、みんなが絶妙の間で演じる組だったはず「グランドホテル」で海外ミュージカルだったら月組！と思ったはずなんだが、今回は平板な印象で終わってしまった。もっと骨太の上級生が舞台を締めるといいのかなぁ。

前に座っていた女子高生が「ヤバイヤバイ、かっこいい！」を連発していたので、いい大人は乙女の夢を傷つけてはいけない。そっと感想を心に秘めて、劇場を後にしたのでした。