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しもやけ

唐突に、霜焼けの話をする。
霜焼けになったことがない人にはわからないだろうが、霜焼けが辛いのは、真冬よりも季節の変わり目の今である。桃の花が咲き、花粉症で苦しむころ、何の足掻きかなぜか悪化するのである。
朝から足の指をいじめては「痛い~!」と涙目になり、放置しては「痒い」と悶絶している。
痒い目玉を抉り出したいとの同じ。今こうしている瞬間も、痒い指を切り落としたくてしょうがないのである。

私は霜焼けとの付き合いが長い。
物心がついたころには病院に通っていた。両手両足の指は焼いたウィンナー状態で、ズックを履くと指が窮屈で、痛みで耐えられなかった。
しかも痒い!
火がついたような痒みで、無意識に足先同士で交互に叩いたり、机の脚に踏ませたり、手の指は鉛筆でぐりぐり転がしたし、ギザギザの物体があれば指に突き立てて叩いた。
痛さと痒みのどっちを我慢するか。その時々で違ったが、痒みの方がつらかった気もする。処方された塗り薬は気休めにもならず、痒みが治まらない間は授業どころではない。頭の中は「痒い痒い痒い」でいっぱいなのである。

痒みから逃れるためには何でもやった。
そのころ年配の人は、霜焼けの指に針を刺して血を抜くことがあった。
えぇぇ~
初めて見た時はびっくりしたが、私はそれに飛びついた。
灯油ストーブにアルミホイルを敷いて、裁縫道具の針を熱した後、憎らしいほどに赤く膨らんだ指に、ブスッと突き刺した。
すると一瞬だけ、血の珠がでてくる。ティッシュを用意して、指の根元を抑えて血を絞り出すのである。
霜焼けのせいなのか、血はドス黒かった。
そのうち鮮やかな色に変わっていくので、
「悪い血が抜けた~」
と言っては喜んでいた。
40年前の話である。

ところで、文学作品などには霜焼けの手がよく登場する。
芥川龍之介、新美南吉、島崎藤村、有島武郎、泉鏡花などの作品を読むと、冬をあらわす季語のようにでてくるので、みんな霜焼けに苦しんだのだろうかと、親近感を抱いてしまう。ふふふ。

三島由紀夫の『 仮面の告白』では、「海老の甲羅のようないたましい手」というような表現だった。私の指は海老だったのかと笑ったが、他の古い作品でも海老に例えられていたら、そういうものなのかもしれない。

しかし最近の作品で霜焼けの人は出てこないと思うが、どうだろう。せいぜい赤ぎれどまりか。
霜焼け人口が減ったのだろうか。かつての脚気のように?
もしそうだというなら、今も続く私の霜焼けはなんだろう?
大人になって手はなくなったが、両足の中・薬指は毎年クリスマスが来るように霜焼けになる。

血の巡りが悪い、体温が低い、栄養素に偏りがあるなど、様々な原因があげられているが、最近お世話になってるBクリニックではばっさり、
「遺伝だね、体質」
「あ~」
 それですませちゃうらしい。
何にせよ、患者としてはさくっと治してほしいのである。
足が痒いというと、水虫と思われそうなので他人には言えないここだけの話である。


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