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『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』第13巻原作者コメンタリー

 『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』第13巻の発売を記念した原作者コメンタリーです。
 第12巻のコメンタリーはこちら

第48話『俺たちの深層(前編)』
 嘉辺名町バトル・ロワイアルのラストマッチを描く前後編の前編です。扉絵は藤崎竜先生の『封神演義』、燐のカプ妄想はこしたてつひろ先生の『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』のパロディになっています。刺され! 「読者の九割九分九厘が中年男性」と言われる本作の数少ない女性読者に!
 椋木燐は『マジック:ザ・ギャザリング』を構成する五色のマナのうち緑を担当するヒロインとして登場させました。登場順が最後だったため、「腐女子」「ふしぎちゃん」という余った属性をかけあわせてこうなった次第です。彼女が首飾りにしているドリームキャッチャーは本来インテリア雑貨で、本格的に流行したのは木村拓哉が美容師を演じるテレビドラマが放送されたあとのことでした。

 シークレット・フォースは『エクソダス』で《繰り返す悪夢》と《適者生存》が加わる前のスタンダードで活躍したビートダウンデッキです。多くの場合緑単で組まれていましたが、燐のデッキではエクステンデッドの利点を活かして多色化し、よりnWo(ナイトメア・サバイバル、サバイバル・デスなどの総称。作中表記は「新世界秩序」)に近い仕様になっています。
 ところで、《疾風のデルヴィッシュ》の見た目とかけ声が侍ジャパンの某ピッチャーっぽくなっていることにお気づきでしたか? このエピソードが月刊少年エース本誌に掲載される時期がワールド・ベースボール・クラシックの開催時期と近かったため、横田卓馬先生にお願いして、ちょっとした駄洒落を入れてみました。

第49話『俺たちの深層(後編)』
 嘉辺名町バトル・ロワイアルのラストマッチを描く前後編の後編です。僕の進行の遅れにより、第49話と50話は本誌では分割掲載となってしまいました。毎号連載を楽しみにしてくださっていたみなさま、ページ数少なくてごーめーんまことにすいまめーん……いや、本当にすみませんでした……。

 はじめのナイトメア・サバイバルにはヤコブ・スレマー氏の5CBのエッセンスが入っています。《Illusions of Grandeur》と《寄付》のコンボは作中当時のエクステンデッドでよく見られたギミックで、《ネクロポーテンス》と組みあわせるとネクロ・ドネイトというデッキになります。燐の回想でレイモンドが使っているデッキはチャネル・ボールです。
 嘉辺名町出発時にはじめたちがうたっているのはオフスプリングの『All I Want』。『クレイジータクシー』のBGMに採用されていました。『ドラえもん』のFlashの曲、と紹介したほうが通りがいいかもしれませんね。
 今回のエピソードでようやく、慧美の『マジック:ザ・ギャザリング』との出会いを描くことができました。実はこの設定、読切の最初期のプロットからありまして、我ながらよくここまで寝かせたなと思います。

第50話『俺たちの世界の終わり(前編)』
 †クラウド†零式と†アンゴルモア†による中二病決戦の前編です。扉絵は広末涼子の写真集『Happy20thBirthday ヒロスエ、ハタチ。』のパロディ。このエピソードが本誌に掲載される直前に例の不倫騒動があり、Majiで炎上する五秒前、あわや掲載見送りびとになるところでした……(実際はなんの支障もなかったです)。
 自動車を『ストリートファイターⅡ』のボーナスステージみたいにしている暴徒の「Mr.ビーンみたいなあのフランス野郎」という台詞がどのフランス野郎を指しているかは、世紀末を通過した人ならなんとなくわかると思います。いまやすっかりお尋ね者ですが、当時は敏腕経営者としてメディアに持て囃されていました。店長がつくっているフィギュアは『菜々子解体新書』の七千草菜々子です。

 はじめと八雲の対戦のいきさつはもう少していねいに描きたかった気もします。むやみにページ数を多くはできませんし、テンポも重要だし、難しいですね。
 この展開を見越して、横田先生には第23話あたりから少しずつ八雲の髪を長くしてもらうようお願いしていました。†アンゴルモア†の構想自体は連載前からありました。

第51話『俺たちの世界の終わり(中編)』
 †クラウド†零式と†アンゴルモア†による中二病決戦の中編です。強盗の「三十秒フラットで高飛びするぞ!!!」という台詞は映画『ヒート』から。
 《ヨーグモスの取り引き》を用いたコンボ・デッキはいくつかあり、それらを明確に区別するのは難しいです。主たるダメージソースが《突撃の地鳴り》ならアサルト・バーゲン、《魂の饗宴》ならピット・サイクル、とすべきでしょうか。コマ枠外に注を入れているように、回復手段に《ジャスミンの香り》を採用した場合はジャスミン・バーゲンとなり、ダメージソースとしては《猛火》が一般的でした。作中の時期に広く使われていたのはこっちです。

 マジックアワーの種明かしについて。この回の最後のほうに民明書房的なモノローグがありますが、着想の源は九年ほど前にNHKで放送された『ミラクルボディー』という番組のシャビとイニエスタの特集でした。ですので、「こんな説明で納得できるか! 俺は二重の極みにも納得していないんだ!」というかたはそちらをご覧ください。ちなみに番組内で「カードゲームでも同じことが起こるよ」「大脳基底核が働くと全身が光って髪の毛が逆立つよ」とはひと言も言っていませんでした。

こぼれ話
 本作には架空の地名や施設名がたくさん出てきます。どれもこれも、『マジック:ザ・ギャザリング』の次元や地名にちなんだものです。
 今回はそれらの元ネタを一挙にご紹介しましょう!

・神河(かみかわ)市……神河(かみがわ)から。第3話と38話に出てくる「翁神社」は《先祖の院、翁神社》、10話に出てくる「GAME とわばら」は永遠原が元ネタです。第39話初出の「瑛願寺」は《皇国の地、永岩城》。「神河市立ときわ木中学校」は常磐木能力、はじめと来島の志望校「洛陽(らくよう)学院高校」は落葉樹能力が元ネタになっています。

・冨成(とみなり)町……ドミナリアから。「純喫茶しぶやま」は《シヴ山のドラゴン》で有名なシヴ山(さん)が元ネタです。第8話に出てくる「まだらウォーターランド」はマダラ帝国、22話に出てくるクラブ「Great Ocean」は大海洋に由来します。

・影群(かげむら)市……シャドウムーアから。八雲が通っている中学校は「影群第一女子中学校」。

・那谷(なや)町……ナヤから。次巻収録の第53話に出てくる阿良良(あらよし)市にあるという設定です。

・諫倉(いさくら)市……イクサランから。第11話に出てくる「諫倉ジャングルワールド」がここにあります。次巻収録の第55話で諫倉再訪予定なのでお楽しみに。

・スカラ座……スカラから。トリーが合コンを開いたカラオケ店がここです。

・篠國(しのくに)市……死の国から。第17話で八雲が働いている「入葦(いりあし)神社」はイリーシアから名前を取りました。

・樽切(たるきり)市……タルキールから。第23話と24話で第1回樽切覇王決定戦が開かれているのは「樽切市民文化センター」。

・三國(みくに)市……『ポータル三国志』から。八雲の父の勤務先で、この巻では戦いの舞台となったのは「三國市科学博物館」。

・藍原(あいばら)市……ラバイアから。第38話で道路標識に地名のみ書かれています。

・楼院(ろういん)市……ローウィンから。藍原市と同じく、第38話で道路標識に地名のみ書かれています。第11話と12話に出てくる「カラオケ 苦花」は《苦花》が元ネタ。ローウィンとシャドウムーアは同一の次元なので、それぞれに由来する地名が個別に存在するのは不自然な気もしますが、こまけぇこたぁいいんだよ!

・染近(そめちか)市……ゼンディカーから。駅のモニュメントは面晶体。第45話に地名のみ出てくる瀬尻(せじり)町はセジーリ、はじめと八雲が訪れた「叢雨(むらさめ)ぼうけんの里」がある叢雨町はムラーサが元ネタ。

・嘉辺名(かべな)町……旧カペナから。第46話に出てくる駅名は「新嘉辺名」でニューカペナが元ネタ。

・唐出州(からです)市……カラデシュから。第49話に出てくる「唐出州国際空港」のモニュメントは《霊気池の驚異》を模しています。

 ざっとこんなもんでしょうか。これでも『マジック:ザ・ギャザリング』の多元宇宙のほんの一部を拝借したにすぎないので、三十年の歴史というのはおそろしいものですね。

 半年ぶりの新刊、半年ぶりのコメンタリー、お楽しみいただけましたか?
 次巻で7.31終末編もいよいよクライマックスに突入します。ひさしぶりにラブコメ色の強いエピソードも収録される予定ですので楽しみにしていてください。
 そんじゃまた次巻で。

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