見出し画像

8話:月の絆

「なんて小さくてかわいいのかしら。
 こんな小さな子をあんなところに捨てるなんてひどい事するわね。」
「ま、人にはいろいろ事情があるからね。」
「パパ、この子の名前、早くつけてあげてね。」
「ああ、お母さんとおまえにはそれぞれ守り猫がいるから、この子はぼくの守り猫だからね。
 強くなって欲しいから、この真っ白な毛並みからレオ・・・レオンにしようかな。」
「レオンか、良い名前ね。よろしくね、レオン。」
レオンか・・・
小さい頃、独りぼっちになったぼくだったけど、お嬢さまと出逢ってからは急にお姉さまのミーチェさんに出逢って、また急に弟までできちゃった。
なんか嬉しいな。

あのピクニックから何日か経って、レオンもよちよち歩きができるようになってきた。
お嬢さまもレオンが気になるみたいで、時々、ぼくを連れてお父様の部屋にレオンの様子を見に行く。
「ナイン、お兄ちゃんになった気分はどう?弟くん、かわいいでしょ。」
でも、なんか、触れると壊れちゃいそうでこわいんだよね。
おそるおそる撫でてみると、「お兄ちゃん、お兄ちゃん」って言いながらレオンはぼくにすり寄ってきた。
「ナイン、レオンと仲良くしてあげてね。」
うん、もちろんだよ、お嬢さま。

ある夜、ミーチェさんがぼくをレオンのところに誘いに来た。
レオンをくわえると、月が見える窓に昇ってぼくたちは月の女神さまに弟ができた事と弟の幸せを祈った。
ミーチェさんはレオンに言った。
「レオン、おまえには私が教えてあげないとね。
 いい?お月さまには女神さまがいて、月の女神さまは私たち猫の守り神なんだよ。」
「女神さま?」
「そう、これからは月の女神さまが私たちの絆を守ってくださるのよ。」
いつもよりいっそう大きなお月さまがぼくたちをやさしく見下ろしていた。
「なんてきれいなお月さまなんだ。それに・・・」
ぼくはこの夜のお月さまと、その光に照らしだされたミーチェさんと新しい弟の姿が美しいと思った。

次の日からお嬢さまのお家の周りに高い塀が作られていった。
「ごめんね。だけど、これはナインたちを守るためのものなの。
 お外は自動車やこわい人もいてあぶないから、がまんしてね。」
そうなのか。でもいいよ。ぼくはお嬢さまやミーチェさんたちと一緒にいられればそれで幸せだから。

お家を囲む大きな塀ができてぼくたちはお庭に出してもらえるようになった。
お庭にはぼくたち猫とは違った生き物がいて、ぼくはびっくりした。
「わしはこの家の番犬、ナイトさまだ!
 おまえたちふたりは、はじめて見る顔だな。」
ミーチェさんのそばによりそって近づいていくとミーチェさんが紹介してくれた。
「この大きい方がお嬢さまのナイン、ちっちゃい方がお父様のレオン。
 これからこの庭でも遊べるようになったから仲良くしてやっておくれ。」
大きな塀に囲まれて外には出られなくなったけど、
ミーチェさんやレオン、お嬢さまやお父様、お母様、そして犬のナイトさん、
ぼくの家族はどんどん増えて、そして深い絆で結ばれていく喜びを感じた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?