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12最終話:月の七夕

ぼくたち猫の寿命は人間よりも短い。
ぼくもね、大好きなお嬢さまを残して先に女神さまの世界に来ちゃったんだ。
でもね、それはぼくたち猫や犬さんたちのように大好きなご主人様を神様の世界でお迎えするためだからしかたないんだ。
だから悲しまないで、かならず逢えるようになっているから。

ぼくも女神さまのところへ来て、小さいときに別れたおかあさんや、さきに来ていたお嬢さまのおじいさまにも会って、幸せに暮らしているんだ。
ぼくはおじいさまと一緒にずっとお嬢さまを見守っている。
お嬢さまは身体が強くないから、時々、風邪をこじらせたりして寝込んでしまうたびにぼくは心配になって直ぐにお嬢さまのところに降りて行って女神さまに叱られてしまう。
「ナイン、おまえの心配は分かるが、生きている人間にかまい過ぎてはいけないよ。」
「ハイ、女神さま。でもぼく、心配で心配で。」
「本当におまえはお嬢さまを愛しているのだね。それは大切な事だ。
 だったらこうしよう。生きている間、夢の中で人間としてお嬢さまに逢えたように、
 1年に1度だけ、中秋の名月の次の三日月の夜、お嬢さまが眠っている間に天の川のほとりで逢えるようにしてやろう。」
「本当ですか、女神さま!ありがとうございます。ぼくとっても嬉しいです。」

という事で、ぼくは織姫さまと彦星さまのように、1年に1度だけ、天の川のほとりでお嬢さまと逢えるようになったんだ。
最初のとき、夢の中のお嬢さまはビックリして天の川のほとりにたたずんでいた。
天の川のほとりで月の光に照らし出されたお嬢さまはとても輝いて見つけるのに時間はかからなかった。
ぼくはお嬢さまの姿を見つけると、思わず走っていってお嬢さまに飛びついた。
「キャッ!なに?え?ナイン?もしかしてナイン?ホントにナインなの??」
お嬢さまは美しい瞳から涙をいっぱい流しながら、ぼくを抱き締めてうずくまってしまった。
「ナイン、逢いたかったよ。ナイン・・・」
「お嬢さま、ぼくもとっても逢いたかったよ。」


お嬢さまはぼくを抱いたまま、天の川のほとりの岩に腰かけた。
「お嬢さま、ぼくはいつもお嬢さまを見ているんだよ。」
「分かってる。いつもナインのあたたかい想いがつたわって来るもの。
でもなぜ、私はこんなお空の上でナインと逢っているの?」
「うん、月の女神さまがね、七夕さまのように、
1年に1度だけ、この天の川のほとりでお嬢さまに逢えるようにしてくれたんだ。」
「そうなのね。1年に1度だけか、でも逢えないよりいいね。私、どれだけナインに逢いたかったか。」
「分かってるよ。ぼくも同じだから。
 でもね、お嬢さま。ぼくはこれからもずっとお嬢さまを見守っているから、もっともっと長生きしてね。」
「うん、私、ナインの分も長生きして幸せでいるね。ナインにはまた来年逢えるんだもんね。」
「うん、お嬢さま、ぼくも毎年、お嬢さまにここで逢えるのを楽しみにしているよ。」
朝が来てお嬢さまは帰って行った。
これからもぼくはずっとお嬢さまを見守っている。
やがて、お嬢さまをここでお出迎えするときまで。

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