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11話:月の微笑み

ぼくはナイン。
子供の頃、ひとりぼっちになったぼくは、ある日、大好きなお嬢さまと出逢って、お嬢さまのお父さまやお母さま、そして、先輩のミーチェさんと出逢って、今では、弟のレオンや、犬のナイトさんまでいる大家族に囲まれて幸せな日々を送れるようになった。
 
以前は、お家の中しか歩き回れなかったけど、それも今ではお庭に出てみんなで走り回って遊べるようにもなった。
そんなぼくたちをお月さまはいつもあたたかく見守ってくれる。
お月さまが見える夜にはぼくはお庭の池のそばに行ってお月さまにごあいさつするんだよ。
お月さまは毎日、ちがう顔をしているけど、ずっと同じなのは、やさしい微笑みで見下ろしてくれているってこと。

え?なぜ、お月さまを見るのに池のそばなのかって?
それはね、ぼくがときどきそうしていることをお嬢さまは知っていて、そんなぼくを見つけると、ぼくのそばに来てくれるんだ。
そんな日が何度かあったときにお嬢さまはぼくに教えてくれた。
「ナインはいつもお空のお月さまを見ているけど、池に写ったお月さまもきれいなのよ。」
お嬢さまはそう言ってぼくを池のそばまで連れて行ってくれた。
「昔の人はね、こうして池に写っているお月さまを見ながら恋を語ったり、歌を詠んだりしていたのよ。」
ふ~ん、お嬢さまってロマンチストなんだね。
ぼくはそんな素敵なお嬢さまの目に映ったお月さまに見とれてしまったものさ。

ある日、ぼくは池に映ったまん丸になったお月さまを眺めていた。
この日は、珍しくミーチェさんがそんなぼくのそばに来て話をしてくれた。
「ナイン、今夜はお嬢さまでなくてごめんよ。でも、たまには私のお相手もしておくれね。」
「ミーチェさん、今夜はお母さまのおそばにいなくていいの?」
「ええ、今夜はお母さまは、お父さまとお出かけしてて、レオンはおねんねさ。」
「あ、ミーチェさんの目にもお月さまが映ってる。」
「そうそう、知ってるかい?
昼間に私たち猫の目にお月さまが映ってる事は知ってるだろうけど、夜にこうして私たちの目に映っているのは、お月さまじゃないんだよ。」
「え?そうなの?どうして?お月さまが出てるのに?」
「だからさ。お月さまはお空に出ている時は、池に映っていても猫の目には映らないのさ。
 これはね、地球が映っているのさ。」
「え?地球ってなに?」
「地球ってのは、私たちや人間やみんなが住んでいるこの星のことなんだよ。
私たちは空に見えているあの沢山の星の一つに住んでいるのさ。
だから、地球は私たちみんなの母の様なものなんだよ。
人間は時々、やさしさを忘れたり、哀しみに落ち込んだりする事があってね。
 そんな時に私たち猫を抱いたり、見つめたりすると、元気になるのは、昼はお月さま、夜は地球が私たち猫の目に映って、心がつながった人間たちの心を癒すからなのさ。」
「ふ~ん、そうなんだ?ぼくたちってすごいんだね!」
「そう!私たち猫には人間にできない事や、大好きなご主人様のいろんなお役に立てるのさ。」
空に浮かんだ大きなまあるいお月さまが、池の水にも映って、両方からぼくたちに微笑みかけている様だった。

次の日の夜はお嬢さまとお決まりの夢のデート。
ぼくとお嬢さまはダンスを踊り、池のそばに座ってキスをする。
池に映ったお月さまがぼくたちを微笑ましく見守ってくれる。
ぼくはミーチェさんから聞いた話をお嬢さまに聞かせてあげたら、お嬢さまは
「ナインたちはとてもロマンチストなのね。私もそんなナインたちといつまでも一緒にいたいな。」
うん!ぼくもいつまでも、大好きなお嬢さまのそばにいるよ!

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