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2話:月の約束

「ママ!この猫ちゃん、飼ってもいいでしょ!」
震えるぼくを抱きしめて、お嬢様が言ってくれた言葉をぼくは忘れない。
「まぁどうしたの?その子猫・・・・可愛いわね。いいわよ、飼っても。」
「ママ、ありがとう!」
そうしてぼくはこの家で飼われる事になった。
今から思えば、ぼくはこの頃からもう、お嬢様を大好きになっていたんだ。

ふと、お母様の肩を見ると、ぼくやお母さんと違って毛がふさふさした猫さんがぼくを見つめていた。
「おや、おチビちゃん、いい人に拾われて良かったね。」
でも、ぼくはまだお母さん以外の猫を知らなかったし、初めて見たその猫は、なんかお母さんと違ってツンとしてて怖い感じがして、その時は返事を返さないでお嬢様の腕の中に隠れてしまった。
それが、先輩猫のミーチェさんとの出逢いだった。
 
次の日の朝、お嬢様とお母様がぼくの話をしていた。
「子猫ちゃんの名前、決まったの?」
「うん、ナインにしたの。」
「ナイン?どうして??」
「吾輩は猫であるって本に出てくるでしょ?」
「ええ?もしかして??」
「吾輩は猫である。名前はまだない。の無いからナインって思いついちゃったの。」
「まぁ!ユニークね。でもいい名前だわ。ナインは9だからこれからっていう意味もあるのよ。」
このお嬢様とお母様のやりとりを聞いていて、ぼくもお嬢様がつけてくれたこの名前を気に入った。
 
お嬢様に拾われて何日か経ったその夜、お月さまはまた細くきれいな形をしていた。
窓に昇ってそのお月さまを見ていると、お嬢様がぼくを抱き上げて、
「今夜はきれいなお月さまね。
 ナインと出逢った時と同じお月さま。
 あの時、お父様とお家に帰る途中であなたを見かけたの。
あんな高いところに小さな猫ちゃんが昇っていて本当にビックリしたのよ。」
そうか!ぼくを助けてくれたのはお嬢様だったんだね。
ぼくはこの素敵なお嬢様に出逢た事を月の女神さまに感謝した。

お嬢様は窓に近づいてお月さまを見上げて、ぼくにキスをしてくれた。
「ナイン、ナインの名前にはこれからって意味もあるんだって!
 だったら、これからずっとナインは私と一緒にいようね!
 今までは独りぼっちだったかもしれないけど、これからはずっと私と一緒だよ。
 ナインと私はずっとずっとお友達だよ!
 いい?ナイン、約束だよ。わたしの一番のお友達になってね。」
うん、もちろんだよ、お嬢様。
ぼくはまだまだチビだけど、この時、この素敵なお嬢様とずっと一緒にいたいと思ったんだ。
お嬢様と見上げた夜空には、大きなお月さまがぼくたちを温かく見下ろしていた。
 
「そう、いい名前をつけてもらったね。ナイン、私のナイン。私の分まで幸せに暮らすのよ。」
お母さんの声が聴こえたような気がした。

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