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読書感想『花埋み』

 こんにちは!今日も読書感想です。
今回は渡辺淳一さんの『花埋み』です。この本は「荻野吟子(ぎん)」という日本初の女医の人生を述べた物語で、500ページ強という長編小説ですが、とても読みごたえがありました。

 ここからは一部ネタバレを含みますので、一から読みたい方は要注意です。

 物語は大きく二つに分かれます。前半は女医になるまでの吟子の苦学、後半は女医になってからの医学に対する疑問、そして結婚して北海道に移住した後の人生を描いています。

 吟子は埼玉の豪農の出身で、同じく豪農の家に嫁ぎますが、そこで当時不治の病と言われた性病を夫から移されてしまいます。結局夫とは離縁して治療に励みますが、その過程で吟子は耐え難い屈辱を味わいます。自分と同じように苦しむ女性を救いたい、その一心で吟子は女医になることを志します。しかし、男尊女卑の観念がはびこっていた当時では並大抵のことではありません。並外れた努力、男からのいじめ、母の死、制度の壁…それらを乗り越えて吟子は見事日本初の西洋医術を施す女医になりました。

 しかし、実際に患者を治療する過程で吟子はある限界を知ります。いくら自分が頑張っても、最終的には患者の努力、周囲の環境が十分でなければ治療はできない…そう悟ります。そのように社会の環境を治療しなければ患者を治療することはできないと考えていた矢先、吟子はキリスト教と出会います。吟子はどんどんその活動にのめりこみ、彼女の名は日本中に知られることとなります。このままいけば明治史に名を残すと言われたほど吟子は女性の地位向上のために尽力します。

 しかし、あるとき十三歳年下の青年と出会います。まっすぐな情熱を持った彼に吟子は恋をします。二人は結婚し、夫の夢をかなえるため北海道に渡ります。当時の北海道はまともな人間がいくところではない、未開の地でした。そこでの苦労に耐え、夫の夢を実現するために突っ走る彼女たちでしたが、その夢がかなうことはありませんでした。そしてさらに夫は病気になって死んでしまいます。残された吟子は女医時代の華やかな生活をおくることもなくひっそり亡くなっていきます。

 ざっくり物語のあらすじを述べましたが、僕は次の二つの吟子の生き方が心に残りました。
 

 一つは他人のために尽くす生き方です。どんなに反対されても、試練が立ち向かってきても、吟子はそれを乗り越えました。それらはまさに不可能と言われるようなことばかりです。でも吟子は必死に勉強し、考え、走り続けた。その努力を考えたら、本当に力が湧いてきます。その努力の中心を「絶対に病気で苦しむ女性を救うんだ」という思いが貫いていたことが本当にすごいと思います。自分も他人のため、そして世の中のために生きて、大事を成し遂げたい!その思いはあります。しかし、この物語を読んだら、なんと自分の思い、生き方がまだまだ弱くて情けないことかと思います。彼女のように信念を強くしたい、そして大事を成し遂げたい!そのためにも頑張ろうと感化されるような物語でした。

 心に残った生き方の二つ目は、吟子の豊かな感性とその実行力です。女子が学問をするだけでも苦い顔をされた時代に女医になると言ったり、家を飛び出したり、十三歳年下の男と結婚したりと、吟子の感性は本当に豊かで、かつそれを実行する行動力が半端ないです。世間や常識にとらわれず、自分に正直に生きる姿勢が好きです。それは自分が苦手とすることでもあります。ものすごく世間の常識を気にしたり、勝手にあるべき自分の姿を作って、それ通りにならない自分を責めたりと、自分は自分の思いに正直にならずに生きていることが多々ありました。受験時代にお世話になった憧れの先生にお世話になったり、自分の生き方を考える中で、今は自分の好きなことをしていこう、そして吟子の医学のような夢中になれるものを見つけて没頭したい!そう思っています。そんなわけで吟子の正直な生き方には共感を覚えます。

 とても憧れを抱く吟子の生き方ですが、疑問も浮かびます。特に結婚後です。今までの男性への復讐心の反動のごとく、吟子は夫の志方に恋をし、彼のために尽くします。しかし、夢破れ、夫には先立たれ、最後はひっそりと死んでいきます。ふつうは、志方と結婚したために、時代に名を残すとまで言われていた吟子は悲劇の人生を歩んだと思われると思います。しかし、自分はそれがあまり腑に落ちませんでした。人波離れた努力をし、夫に尽くした吟子は幸せだったのではとすら思います。最後に吟子が何を思って死んでいったのか、そして吟子の生涯を貫いていたものは何だったのか。それをもっと知りたいと思いました。

 花埋みのほかにも吟子の人生は映画化されたり、テレビ番組でも特集が組まれているそうです。それらをもっと見て、吟子についてもっと知っていきたいと思いました。
 
 長くなりました…

 今回は以上です。次回もまた見に来てくださいねー!

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