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【小説】うさぎの女王様~私は下僕です~①

1日目~お迎えの準備~

「失礼します」
 俺は国王の間に招かれ部屋に入った。
「待っておったぞ。お主に頼みがある」  国王自らの頼みか。悪い予感しかしない。
 しかも心なしか眉間に皺が見えるような。
「ワシの娘を次期女王にする。手を貸してくれんか」
 はあ。そういえば二ヶ月前に誕生なさったとか。風の噂で聞いたような。
「とにかく指定の場所に行ってくれ。頼んだぞ」
 そう言って国王はそそくさと引っ込んでしまった。

 ここはウサギによるウサギのためだけの国。
 当然国王もウサギ。
 当然お嬢様もウサギ。
 そして人間の俺はウサギ様に仕える身だ。
 俺はウサギ様のお世話をするのは初めてだ。
 今までは隣国との繋ぎの役目、いわゆる営業職。
 それが育成担当になるとは。
 これが人事異動というやつか。
 まあ、まずはその次期女王に会いに行こう。
 俺は国王に指定された場所に行った。
「こんにちは」
 横開きのドアを開けるとそこには様々なウサギ様がいた。
「うわっ」
 足元で何かが。ウサギ様!
「すみません、部屋んぽ中なんですよ」
部屋んぽとはウサギ様が部屋の中で散歩するという意味である。
「いえいえ、部屋んぽは大事ですから。ウサギ様に怪我はありませんか。骨が弱いですから」
「ぴょんぴょんしてるから大丈夫でしょう」
 はあ、びっくりした。
 ウサギ様は俺たち人間と違って骨が弱い。すぐに骨折してしまう。怪我がなくて本当によかった。
「王女様はこちらにいらっしゃいます」
「はい」
 案内されたケージには隅っこで丸くなっているウサギ様がいた。
「眠っているんでしょうか」
「そうですね。今はお昼寝の時間ですから」
「目が開いていると寝ているのか起きているのかわかりませんね」
 寝姿がかわいい。
「抱っこできますよ」
「いいんですか。起こすのはちょっと」
「王女様、起きてますか」
 ブリーダーと呼ばれるお世話係が王女様に聞いた。
 王女様は鼻をヒクヒクさせて応えた。
「起きてますね」
 起きてたんだ。
 ブリーダーは王女様のおしりを包み込む様に抱っこし、あらかじめ用意されていた場所に移動した。
「ここはウサギ様専用の抱っこ室です。少しくらい暴れても大丈夫ですよ」
 俺は地べたに座って王女様を膝の上に乗せてもらった。
「おとなしい」
「王女様は特別おとなしいんですよ。ウサギ様にも個性がありますから。それに寒がりなのでいつも弟君と一緒にくっついて眠っているんですよ」
「弟君がいるんですね」
「はい、腹違いの……」
「あ……」
 ウサギ様は繁殖能力が高いから時々こういうことがある。
「いつ頃お迎えに来ればいいですか」
「健診と王女様のお部屋の準備が整い次第ですので、一週間後はどうでしょうか」
「わかりました」
「ではそれまでに」
 ブリーダーは机の上にドンと資料を置いた。
「ウサギ様のお世話をするにあたっての資料です。お迎えまでにしっかりと読んでおいてくださいね。それから、ケージやご飯などは王女様のお部屋にお届けしておきます。怪我をしないような配置にしておいてくださいね」

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