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イノベーションスクールはデザインのどの側面を教えているのか考えるぞ

1セメスターを受け終えて、GSAの教えているデザインについて書いていきます。飽くまでも自分の理解した範囲なので、間違ってる部分が多いと思います。特に専門用語は自分の中ではこんな意味、という程度です。読む方はどうか優しい目で読んでください。

グラスゴー芸術大学のイノベーションスクール(以下、I.S)が教えているデザインは自分が今まで理解していたサービスデザインについて大きく視野を広げてくれました。(教えていることは「サービスのデザインの方法」ではありませんが、個人的にサービスデザイナーがやってそうと感じたのでサービスデザインとしました。しかし正直、全てのデザインに共通して存在するべき根底のルールだと思います。)

正直、尖ってること教えてるなぁ、と感じました。

まずはなんとなくぼんやり概念が掴めるように。I.Sで課題として読んでいた文献のフレーズで印象に残っている文があるので、引用させていただきます。個人的にはI.Sの理念に近く、簡潔でわかりやすいと感じました。

Imagine a world whose future is made of the dreams of everyday people. This new world could offer a people-centred array of experiences instead of the mind-numbing, consumer-driven array of choices we have today. It could connect us more deeply to what really is important in our lives. It could be a more humanistic world. To reach this new space, we will need to bring everyday people into the center of the design development process, respecting their ideas and desires. People-centered design is a process of discovering possibilities and opportunities, with people, that address their needs and aspirations for experience.
(Sanders, E. B.-N. (2000). Generative Tools for CoDesigning. Collaborative Designより。)

<雑な訳>人々の夢で出来ている未来の世界を想像してみてください。人中心のデザインとは、現在のデザインが行っている消費者中心のデザインではありません。人が人らしい生活をするために、本当に大事なもの。それらと私たちを繋げるのが、これからのデザインです。
人々の夢で出来ている世界(=人が人らしく生活できる世界)を作るためには、デザインプロセスの軸に「毎日を生きる人々」を引き込む必要があります。そして彼らの考え方や願望に耳を傾け、敬意を表しましょう。人中心のデザインのプロセスとは、彼らの「体験に対するニーズや願いの中に存在する可能性」を彼らとともに見つけることです。

もう一つ、学生からの質問に対するI.Sのプログラムリーダーの応答も、簡潔にI.Sを表していると感じました。

ー デザイナーは気候変動をはじめとした、世界で今起きている大きな問題に対してどう向き合っていくべきですか?デザイナーとして何ができますか?
ー デザイナーは、対象とする問題に関連する人たちのあいだの対話/コラボレーションを始めるための調停者であるべきです。そのために、デザイナーは問題に関連するものごとを「扱うことができる」ように表すスキルを持っています。それによって、異なる専門領域を持つ人々のコラボレーションを可能にできるのです。

この応答だけ引用しても抽象的でわかりにくいので、自分なりの解釈を加えます。

気候変動だけでなく、社会で問題とされているものごとたち(例えば、男女の格差、犯罪者の再犯率など)はI.Sでよく扱われるテーマです。それらの問題を解決するには、根底にあるシステム自体を変える必要があります。システムの変化がマインドセットの変化を人々にもたらすのです。しかし、デザイナーだけではソリューションまで現実味を持って提案できることはありません。つまりその事象に関する関係者(ユーザー/潜在ユーザー/エンジニア/サービス提供者等々)の力を借りてデザインすることが必然になります。

それなら彼らだけで話し合って解決すればいいのではと思いますがそれがあまりうまくいかないので潤滑油としてのデザイナーが必要になります(彼らだけで解決策を練ると、資本主義のマイナス面である「ユーザーに物を消費させることが最優先のデザイン」になってしまいがち、などが理由なのでしょうか?)。彼らは各領域のプロフェッショナルです。そして彼らから知識や経験を引き出し、誰もが扱えるようにするのがデザイナーの仕事となります。「扱えるようにする」とは、コミュニケーション方法のことです。有名どころだとジャーニーマップ/ペルソナ/プロトタイプがこれに当てはまります。

デザイナーはスタイリングやビジュアライズ要員というだけではなく(スタイリングやビジュアライズは出来ることが前提で)、各プロフェッショナルから「①情報を引き出し、②視野/視点/レベル感を柔軟に変えながら整理し、③適切な方法で表現しコミュニケーションする」ことが必要です。そしてこれらの方法と実践を教えているのがI.Sです。

具体的な手法としては①ならエスノグラフィ/インタビュー、②ならジャーニーマップ/共感マップ/グルーピング(=日本ではでKJ法)、③ならペルソナ/ストーリーテリングなどがあると思います。①②③を駆使することで、デザインプロセスを通して各領域のプロフェッショナルにコラボレーションしてもらいます。

以上です。ぼんやりの概念を簡潔にまとめようとしたのですが、無理でした。佐藤の解釈が多分に入っているので意味わからないところは無視してください。これでI.Sの教えていることがなんとなくまとめられたと自己満足はしています。

個人的に、特に②の情報整理はデザイナーに求められていることで、集めた情報をどうまとめるかにセンスが必要だと感じています。集まった情報群に軸や因果関係、またグループ化(共通項の抜き出し)等をいかにつけていくかです。理論的には因果関係の根本を辿っていき、根本の原因が「インサイト/デザインの機会/デザインの可能性」となります。実際はリサーチを整理するだけではそんな簡単に見つからないです(個人的にはインサイトを得るためにはプロトタイプが必要だと思っています。プロトタイプがリサーチの精度を上げ、プロトタイプが「アイデアの評価」を可能にします:プロトタイプを作って初めて「問題定義への試行錯誤」という真のデザインプロセスがスタートします)。

②の整理方法によって、リサーチの足りていない部分がわかったり、因果関係の繋ぎ方が変わります。つまりさらにリサーチするのか、インサイトの見極めに入るのかどちらにしろ、次のステップにつなげるためには上手く②の整理を行う必要があります。セメスター1でも、リサーチして情報整理して壁にポストイット貼ってみたけど次何すればいいのかわからない、という場面を何度か経験しました。文字通りプロセスが行き詰まるので辛いです。正直、早くプロトを作りたくてウズウズしていました。

また、対象となる事象にはサイズ感の異なるレイヤーが存在しています。User centred, Person Centred, Human Centredとかはレイヤーの一つです。情報をバンバン集めるとこのレイヤーが整理されないままにごった返しで情報が集まることが多いです。どのレイヤーが大事かということではなく、レイヤー間で視野を切り替え、行ったり来たりする視点の柔軟さが大事です。

ただしイノベーション(=システム自体の変革)をデザインするには、最終的なソリューションがHuman Centredに乗っかることが多い印象です。(例えば、「買い物の体験をもっと楽しくしたい、変革したい」と言ってセルフレジのUIデザインをするというのはあまり意味が無いです。たとえば「どこ」に買い物に行くのかを変えることで、街の人流を変える方がよっぽど人の体験や行動心理に変化をもたらします。)リサーチプロセスにおいて対象の事象を見つめる、その視点の柔軟さがデザイナーが他のプロフェッショナルに対して誇れる最大の武器なのではと思います。

そのサイズ感だけでなく、ユーザーが認知している情報(問題点)かどうかの壁もあります。例えばユーザーが認知しているニーズでソリューションを練っても大抵レッドオーシャンに突っ込むのでユーザーが認知していないニーズにアクセスする方法が大事になります(これは半分①の話です)。ユーザーが認知していないニーズは”Tacit Knowledge”(暗黙の知識)、または”Things taken for granted”(ユーザーにとっては当たり前のこと)と呼ばれています。現状では誰も必要だと気づいていないことです。発見できればブルーオーシャンに行けると信じています。千葉大での授業ではユーザーの認知しているニーズは「顕在ニーズ」、認知されていないニーズは「潜在ニーズ」と区別されていました。

まとめ

人々が夢見る未来の世界を作ろう、とは夢物語に聞こえます。しかし技術発達が飽和している現代では、「ニーズ」があればなんでも技術で実現できるのです。これからは、どれだけ新しいニーズを、どれだけ人中心に根ざしたニーズを見つけられるのかが今後のデザインの勝負です。その中でも特に、「人中心のニーズ」を見つけ出すスキルを鍛えるのがI.Sだったのだと思います。

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