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ショパンの愛弟子リケのレッスン報告 その8 ー リケのサロン・コンサート・1

ショパンに弟子入りを許され2ヵ月ほど経った1839年の初冬。
ショパンはリケを弟子としてパリ社交界の音楽サロンにデビューさせるため、ウェーバーの「ピアノと管弦楽のための小協奏曲ヘ短調」を選びました(写真はドイツ・ライプチッヒにあるメンデルスゾーン記念館のサロン音楽会の様子)。
そのあたりの経緯をリケが細かく報告しているので、今回はその1839年11月20日付のウイーンの叔母への手紙からお伝えしましょう。


1.ショパンの演奏法のレッスン

リケはショパンの演奏の印象を、次のように語ります。
  『…彼はピアノから出る音を、喉から出る歌声のように扱うの。
手は単に弾くのではなくって、歌声を生み出す呼吸器官の役割を演じる、
つまり指で歌うわけ。』
同時に、ショパンが手の仕組みと夫々の指に役割があることを語った、とあります。ショパン曰く:
『誰にでも話すんじゃないけれど、貴女は知っている必要があるから。』

  『技術的に難しいパッセージとかを、ショパンが満足するように弾くのは難しくないけれど、簡単なフレーズを満足してもらえるように歌って弾くのは並大抵じゃない。
『貴方の場合、感情の込め方が足りない訳じゃない。それに流されてしまうところがある。でもそれは、貴女の若さがさせる業だけど。』
ショパンはこう言うのだけれど。』

  『ショパンが求めるのは、音が寄り添い、融け合い、一つの流れとなること...。
でもそれに達するには、指使いを工夫し直したり、手のポジションを検討したり、指だけではなくて同時にペダルの使い方も考えて調整し、それを全身全霊で聴き取ってフィードバックを繰り返して習得するしかないってこと。』

2.ショパン習得のベーシック

そしてリケは、ショパンの作品を演奏するのに役立つ、彼が発案した練習方法についても伝えてくれます。

リケは言います:
  『ショパンにとって、一つの手が楽譜に画かれた通りに発音せずにためらったり、同時にもう一つの手がリタルランドになったり、モルデントやトリルをしたりするのは NO‐GO なの。』
だから右手と左手をメトロノームを使って正確に弾く練習をすることが大切ということなのですが、リケはこのメソードを「24のプレリュード作品28」の第三曲の分散和音を奏でる左手に適応され、正直いって閉口したと伝えています。

https://d19bhbirxx14bg.cloudfront.net/chopin-28-03-renouf.mp3

ショパンはというと、
『生徒たちには有用だけど、個人的には好きではない』らしいですが…。

3.そろそろ聴衆のために華々しい曲を

このように、ショパンは熱心にリケの上達に尽力し、自分が長年の努力で身につけた演奏法のコツなどを惜しみなく伝えてくれたようですが、この日のレッスンの最後に言いました。
ショパン:
『エチュードが貴女のピアノ演奏を豊かにすることに間違いはないけれど、我々はそろそろ、音楽界のために華々しい作品を用意しないとね。
効果的かつ聴き心地のよい曲を。
私たち二人は僕の作品を追求し続けるんだけど、聴衆のためにも何かね。』

そうして彼は候補として、作曲家ウェーバーの「ピアノと管弦楽のための小協奏曲ヘ短調」を提案しました。

リケがこの曲をリストの演奏で聴いたことを知ったショパンは、それは素晴らしいという意見でしたが、リケはまだこの曲の緩徐楽章を弾いたことがありません。
気がかりではありましたが、ショパンに附いて行くことを決めました。

早速楽譜を取り寄せ準備に取り掛かったリケ。
ということで、次回はウエーバーのレッスンについてお話ししましょう。


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