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ショパンの愛弟子リケのレッスン報告 その6


1.ショパンの客人演奏に同席したリケ

ショパンがリケの才能を公的に認め、愛弟子だと認めたのは1839年12月7日のことでした。でもそれまでに、予兆と思われる出来事がいくつか報告されているので、それについてお話ししておきましょう。

1839年11月9日、リケがレッスンでショパンを訪ねると、彼女自身も名を知るイグナーツ・モシェレス (1794 - 1870) という、チェコの音楽家が客人として座っていました。
  ショパンとは楽譜を通じて互いに尊敬し合う仲だったのですが、ちょうどパリを訪問していてあるサロンで挨拶を交わし、ショパンが招待したのです。
  ショパンは、客人である音楽家に自分の作品を演奏して聴かせる場にリケを同席させ、彼が心を込めて演奏するのを身近に体験するという、非常に稀な機会を与えたのです。

ではショパンは、何を弾いたのでしょうか?
リケによると次の通りです:

● エチュード作品10、から Nr. 5 Ges-Dur, Nr. 6 es-Moll, Nr. 11 Es-Dur。
なかでも Nr. 10 As-Dur は、
『ものすごく速いのに軽やかで明瞭で、モシェレスは只々、驚嘆するするばかり』 (リケの報告)

● ポロネーズ作品22 
Grande Polonaise brillante presedee d'un andante spianato op. 22, Es-Dur

● エチュード作品25、Nr. 12, c-Moll 
「これは絶対に弾きたくない。長いし混乱したような。それに練習したってきっと、弾けるようにはならないと思う」 (リケの独白)

https://d19bhbirxx14bg.cloudfront.net/chopin-25-12-bisotti.mp3


「そして締めくくりに…」とリケ。

Von Anonym - The Chopin collection at the University of Chicago Library, Bild-PD-alt, https://de.wikipedia.org/w/index.php?curid=8612271

● ワルツ作品18、Grand Valse brillante op. 18, Es-Dur

https://d19bhbirxx14bg.cloudfront.net/chopin-18-vetter.mp3

「なんという演奏!俊敏で華麗で、少し挑発するようなところがあって。こんなに沢山ショパンの演奏が聴けて、本当なら嬉しくてたまらないはずなのに、感動で涙が湧いてきて、こらえることができなかった。」
  よほど感動したのですね。
とはいえさすがはリケ、モシェレスに同行した娘の少女が、怪訝な顔をして涙ぐむリケを眺めたのを、見逃しませんでした。

2.レッスン:課題 エチュード 作品25、第7番嬰ハ短調

こうして夢心地は一時間ほど続いたのですが、ショパンが最後の曲を弾き終わったあとモシェレスは場を辞し、リケのレッスンとなりました。

https://d19bhbirxx14bg.cloudfront.net/chopin-25-7-alianello.mp3

『これを』と曲目を告げて、ショパンは言いました。
『繰り返して三回、続けて弾いて下さい。』

「ほらあの、左手が旋律を奏でるエチュードの一曲よ。そして聴きながら色々と指示するの:

● 音を歌わせること!
● 鍵盤を無神経に強く打たないこと!
● クレッシェンドとディミニエンドが聴きとれるように!
● 一瞬たりともリタルランドしないこと!

そしてとてもよく弾けてるよ。文句をいうところがない。でもついでに言うと、僕はこの曲の、いくつかの音は弾かないんだ』と。」

Hugoderoub - File:Piano_de_concert_-Pleyel.jpg, WikiCommon
パリのピアノメーカー・プレイエルはショパンの音楽に大きな役割を果たした。

そしてショパンは急に、バッハの曲を何か知ってるか聞くので、バッハのフーガとプレリュードが大好きですと答えると、ヘ長調のプレリュードを弾いて聴かせてくれた。
  ショパンは、弾くというよりも音をおこして歌わせる、という方が当たってる。言いようがないほど響きが美しく、素晴らしかった!」

でも時間はもう午後の5時。
ショパンを迎える馬車が来て、夢のような時間はあっけなく終幕を迎えたのでした。

3.今回の読後感

● イグナンツ・モシェレスという人の作品は聴いたことがありませんでしたが、そのピアノ曲がYoutubeにピアノ曲の演奏例があり、下記を検索欄にCopy & Pasteしてクリックすれば聴くことができます。
  ignaz moscheles etudes op 105
なかなか本格的な音楽で、ショパンが尊敬したというのも筆者には納得がゆきました。

● ショパンの発言ですが、独自の作品なのに、曲の中のいくつかの音を弾かないというのは、どう理解すべきなのでしょうか?
具体的にどのパッセージか知りたいけれど、リケは記載していません。

● それにしてもショパンが弾くバッハ、どう響くのか想像できますか?

● 客に弾いて見せる場に同席させたり、その余韻に浸る状態でレッスンをして弾かせたり、ガラッと異なって今度はバッハを弾いて見せたり…。
  当時はそれこそ、ショパンにレッスンを乞う良家の子女が列をなしていたはずですから、リケが凡庸であれば、こんな体験はさせないはずです。

つまり、そういうリケの伝えるショパン像は、音楽的側面からして単なる一女性の体験記の域を超えていて、信憑性があるということでもあります。

これからもご参考になれるように頑張りますので、よろしく。

おわり

(今回からショパンの発言を『太字』、ショパンの指示を ●太字 で記すことにします。)

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