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【電気湯伝記#05】 サウナ時計と、経営について(2024/06/30)

 いつも大変お世話になっております。電気湯店主の大久保です。さて、先日インスタに、サウナ時計の募金についての少しばかりお厳しいコメントを頂戴しました。コメントをいただき、本当にありがとうございます。サウナをご利用されないお客様にとっては、「サウナ時計の募金?」とお思いかと思います。1年ほど前、サウナ時計が故障してしまい、つい先日まで、男湯にはサウナ時計がない状態でした。大変ご迷惑をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。■

 4万円ほどするサウナ時計、初めて交換したのは僕が電気湯を継いでから1年目くらいだったと記憶しております。耐熱かつ(僕にとっては)とても高価なもので、「これでずっと保つだろう。もう壊れることはないのでは。」
と安心したのを覚えています。その想定とは裏腹に、2年ほどで動かなくなり、他の銭湯さんに聞いても「大体2〜3年が寿命だね。」と口を揃えて教えてもらいました。「こんな高いのに2〜3年で交換するんか?!」と驚愕することとなります。■

 僕が電気湯を継いだ理由は、「祖母が閉店を決意してしまい、何もしないと電気湯がなくなってしまうから」で、特に銭湯を経営したいと思うほど銭湯が好きだったわけではありません。そして電気湯を継業する際に、この場所を続けていられる条件として祖母から出されたのは「今の生活をそのまま送れること」でした。今では僕が社長となり、会計士さんを変え、明朗会計を心がけておりますが、やはり(いろんな方のお話を聞いたところ、どの銭湯にも言えるようですが)家業として銭湯を継いだ先代の多くは、利益から生まれる事業資金に回していくべきそのお金で、少しばかり裕福な生活を送っていたようで、僕の祖母も例外ではありませんでした。これは祖母が悪いというわけではなく、銭湯業界の空気感として、「銭湯のお金は自分のお金」というような意識が漂っていたんだと察します。そして今では「勝仁のやり方もとても素敵だね。電気湯を任せた。」とまで言っていただけました。本当に嬉しかったです。■

 いま振り返ると、ちょっとだけ裕福な暮らしをしている祖母の「今の生活レベルを落とさない」という条件を満たすような経営は、想像するよりもはるかに難しいものでした。本来は現場に投資し現場をより良くしていくためにあるはずのお金はどこにも見当たらず、口座の中身すらも見させてもらえません。毎週のように祖母から電話をもらい、「どこにいくら使ってるんだ?」、「人をいっぱい雇うなんて無駄遣いはやめなさい。あなたが最低賃金以下で働けば経費は減るでしょう」と言われる日々が、数年間続きました。
 時給でお給料をお支払いしている電気湯にとっては、スタッフが何人いたって人件費は変わりません。誰か一人が最低賃金以下で毎日働き続ければ、それこそ現場の雰囲気がどんどんと悪くなり、汚くなり、売上が落ちていき、そしてその連鎖から抜け出せなくなる、という、それこそまさに「経営ではない」と思います。■

 さておき、この祖母の過酷な条件をクリアし続けてもなお、現場は回り続けます。シャワーポンプが故障し、1つ当たり40万円弱払うことになったり、釜の追い焚き機能が信じられないくらい弱くなり、同様の金額をお支払いしたり。。。そして、昨今の燃料費の高騰により、原価が上がり続け、ガス使用量はそれほど変わっていないにも関わらず、一時期は1ヶ月で80万円ほどのガス代を支払うことになりました。それでも日々隅々まで節約しながら、現場ではその苦悩を見せないようにと、現場スタッフが懸命に楽しみながら職務を全うしてくれています。ですので、「うまくやっている」という感覚を抱かれた方が多いことと思いますが、実際は、(去年の会計では)電気湯はいまだに赤字から脱することができていない状態です。
 (人件費は、年間で現場だけで最低で4,804,800円かかります。電気湯は5,032,251円/年でした。この最低年間人件費との差分227,451円/年は、副店長、ポスター・チラシやSNSを率先して進めてくれているスタッフ、薬湯を管理してくれているスタッフへの手当が含まれています。他にも、顧問税理士さん・弁護士さんにご協力いただきながら、契約や経費の見直しを進めた今ですら、
年間で数十万ほどの赤字が出ています。力不足で申し訳ございません。)■

 「赤字なら、もっと人を呼んで売り上げを伸ばせ」と言われそうですが、銭湯ブーム/サウナブームにあやかった闇雲な集客は、お店としての魅力を容易に落としてしまうと思っています。自己の欲求充足のための消費としてこの場所に来るお客様が増えてしまうと、そもそもが生活の場として運営しているだけに、他のお客様との間で不協和音が絶えず、僕たちが本当に来ていただきたいと思っている方々が来れなくなってしまいます。また、個人的には、まさに「自分の欲求だけを充足させるために、自分の内側だけを見続ける」ような「ととのい」などという言葉を至上命題とするような利用のされ方はあまり好きではありません。■

 サウナ時計に関するコメントの中で、「グッズを作ったり、イベント参加したりと、何だか銭湯経営とは違う方向に力をいれているのでは無いか。」というお言葉もありました。これについて、ご説明差し上げます。
 まず前提として、電気湯の存続を考えるにあたり、店頭に依らない収入源の多様化は欠かせません。グッズ・イベント等の収入多様化は、(1)原価の回収が比較的早く、(2)純利益が予想しやすい、という点で、収入源として優秀です。
 また、他のイベントへの出店に関しましても、こちらは全て参加スタッフの自費で行っております。電気湯には一円たりともかかっていません。今回の「森、道、市場」という野外フェスに出店した際には、僕を含めスタッフ全員が一人当たり約23,000円を支払い、出店料、宿泊費、交通費、その他諸経費に充てました。加えて、イベント出店による純利益は20万円を超え、当月の収入として大きく助かりました。
 そして、そのグッズをあらゆる場所で買ってくださった方が、ご友人を連れてきてくれるということも多々あります。お言葉を返すようですが、これは、収入の多様化という点でまさに「銭湯存続のための活動」そのものだと思っています。僕はこれ以外に収入を多様化するすべをまだ思いつきません。力不足で申し訳ございません。
 また、同様にいただいたご意見の中で、「そもそもが、故障を客側からの募金で賄うという考え方が違うのでは無いか。」というお言葉もありました。これはごもっともであると思います。現状、まだまだ苦しい状況ですが、それを必死にお客様に悟られまいと隠してまいりました。しかし、皆様から見える範囲で故障が続いてしまいますと、出せるお金はほとんどないにも関わらず、お客様にご迷惑をかけ続ける形になってしまいます。僕たちは僕たちがお金持ちになるために銭湯をやっているわけではありませんが、経費ではなく個人の自費で出すにも限界があります。ごもっともではありますが、そしてお言葉ではありますが、その考え方がお好みでないようでしたら、お支払い頂かない方が良いかもしれません。募金の際に、大変わかりにくい表記をしてしまい、まことに申し訳ございませんでした。また、いただいた募金も、本当にありがとうございます。心より感謝申し上げます。■

 いつもこんなにも未熟な銭湯をご利用いただき、まことにありがとうございます。みなさんと日々言葉を交わしているだけで、「明日もこんな日が続けばいいな」と願うことができます。銭湯経営のあれこれは辛く大変なことばかりですが、みなさんと日常を過ごしながら仕事を作っていける点で言えば、こんなにも幸せなことはありません。いつもありがとうございます。

 最後に、僕たちの力不足は日々実感しておりますが、どれだけ頑張っても、銭湯は、しょせん銭湯です。入浴料が物価統制令により定められ、原価は上がり続け、設備投資はままならず、日々備品がなくなったりしています。もし、万が一、より良い入浴・サウナ体験をお求めであれば、墨田区にはもっと魅力的で個性豊かな温浴施設がたくさんあります(個人的に大好きな施設もいっぱいあります)ので、ぜひそちらもご利用なさってみてはいかがでしょうか。

(大久保勝仁, 2024年6月30日)

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