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サッカー中継におけるスローの上手な使い方

年末年始、サッカー中継をいっぱい見た。

サッカー中継に限らず、スポーツ中継の本質的な魅力は2つに絞られると思っている。

一つは、会場に行かなくても観られること。

もう一つは、過ぎ去ったプレーをもう一度見られること。

長くスポーツ中継に携わり、生観戦の感動も数知れず味わっているが、テレビ中継には生をも上回る魅力があると思っている。その一つが、過去のプレーをもう一度見られる「スロー映像」。スローなければ、スポーツはここまで発展してしなかったと本気で思っている。今のプレーをもう一度見る。これが出来てから、スポーツは一気に発展した。

だからこそスポーツ中継ディレクターはスロー映像にこだわってこだわって、こだわり抜かなければならない。

ところが日本のスポーツ中継は、原則野球中継をベースに組み立てられており、中継技術に携わるほとんどの人が野球中継で技術を学んでいるため、スローがいつも「野球」になってしまうのだ。そのせいで僕の大好きなサッカーのスローはいつも物足りない。

野球はプレーの秒数(業界用語で尺)が決まっている。ホームランは投手が投げてからスタンドに着弾するまでだいたい8秒。スローにすれば15秒ぐらい。スローを挟むところは投球間で、さらにスローの始点は投手が投げ始めるところと決まっているから実に分かりやすい。

ところがサッカーは、ゴール前のシュートなら1秒。ロングシュートでも3秒ぐらい。それでは短すぎるからと逆算するのだが、まず間違いなく8秒ぐらい前からになってしまう。どうして8秒か。みんなが野球と同じやり方をするからだ。

得点の肝となるプレーがどこにあったかは関係ない。とにかく逆算でだいたい8秒前。どうしてそんなことになってしまうかと言えば、スローの始点を決める決定権をスローオペレーターと呼ばれる技術者に委ねているからだ。彼ら彼女らは外注の職人だ。操作の難しい専門機器を手足の如く使いこなす。野球を始め、サッカー、バレー、ゴルフ、バスケットと、どんな競技の現場にも出向いてスローを出す。いろいろな競技に携わるが、もちろんそれぞれの競技のスペシャリストではない。結果、最初に学んだ教科書である野球と似たようなスローの出し方になる。

ゴルフ、バレー、バスケットなどはまだいい。得点シーンの始点がはっきりしているから8秒の原則を破り、比較的簡単に得点シーンの肝の部分を探し出して対応することもできる。しかし、問題はサッカーだ。肝が得点のかなり前だったりすることも多く、分かる人にしか分からない。だからこそそこはスローオペレーターを指揮する演出の責任者、中継ディレクターがうまく指示を出さなければいけないのだが、これがなかなか出来ない。結果8秒逆算になり、その前に存在した素晴らしいインターセプトやパスワークはスローで表現されてこない。

スローは大事。

中継車に乗るスポーツディレクターはもっと気合を入れてやらければいけないし、稀に極上のスローを出す中継に出会えた時は、この上ない喜びを感じるのだ。

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