私と母と時々モーサムトーンベンダー

・私が広い部屋に引っ越したとききつけて、すぐに母がやってきた。宿泊用の布団まで送りつけてきた。ありがとう。母を、スカイツリーと浅草寺と、新宿と銀座の資生堂パーラーと、夜にお台場までドライブに連れて行った。カップルか?まあ母とデートなど小っ恥ずかしいことうけあいだが、このくらいの年齢の息子であれば大体家庭を持っているのが大多数で、逆になかなかできないことだし母も喜んでいたからよかったとしよう。母にはセクシャリティのことは話している。月曜日の朝のバスで帰ると言うので新宿駅まで一緒の電車に乗った。駅のホームで別れる時、新宿の人混みに埋もれる母はひどく小さくて頼りなくて、私は東京に住んでしまっているのを初めて後悔しそうになった。次は父親も連れてくると息巻いている。今度は三人ですき焼きでも行きますか。

・昨日にTwitterを眺めていたら、モーサムトーンベンダーの公式アカウントがYouTubeのリンクを呟いていたので、なにかしらと思って開いてみると梅田クアトロのライブを生中継(スマートフォンっぽい)してくれていた。そんな予告してなかったでしょうに。モーサムトーンベンダーとはバンドの名前で、私が高校生だか大学生だかの頃にグレイプパインとゆらゆら帝国とこのバンドばかり聴いていた。コピバンもやった。それくらい好きなバンドだ。ライブを流し聞きしながら買い物に行った。途中であまりにも懐かしいセトリの曲たちに何度も胸が高揚した。よりによってベスト盤のようなセトリである。このバンドの良さを語らった友人にも、このバンドのライブのチケットをプレゼントしてくれた初めて付き合った男にも、とっくに連絡すらつかないのに。あの頃たくさん遊んだ時間、友人達、故郷の風景、ライブを観るために東京に夜行バスで行った日、アンコールを叫んだ日、が全て蘇ってくるようで、それらが遥か遠い昔の出来事である現実を突きつけられてすこし恐ろしかった。しかし彼らとの出会いがあったこそ今があるのだろう。いつか知人が「音楽を聴くと、その音楽をよく聴いていた場面をありありと思い出すよね」と言っていたのをよくわからないと答えてしまったけど、その時痛いほど理解できた。私も思い出せるほどの思い出を集めることができているのかもしれない。

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