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「正しいって、なんだろう。」 僕らのいい服、いい道具 10YC × 左ききの道具店 × sheep POPUP Store in Nagoya(2/3)

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見え方と、見えるもの以外の関係性。

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加藤:山川さんは売り方についてすごく考えている感じがします。売り方というより、見え方なのかな。ちゃんと作り込まれている。

山川:たしかに、見え方にはこだわっていますね。たとえば、クリエイターズマーケットという毎年名古屋のポートメッセで開催されるイベントがありまして。大きな会場で、手作り作家さんも集まるイベントなのですが。そういう場所で見せ方を意識している人って、すごく少ないんです。テーブルに並べて置いて、座っているだけ。ここでちゃんとブースを作り込めばいいな、と思いました。ストアインファクトリーさんにブースづくりをお願いして、とにかく装飾にこだわりました。すると、そこでの出会いをきっかけに仕事をものすごくたくさん頂けるようになって。その中には空間デザインの仕事もありました。見せ方を変えたらこんなによくなるんだ、という気づきでした。それから、出展の見え方にはかなりこだわって、誰よりも目立つようにしています。今はみんなそれぞれオシャレにしていますが、当時はほとんどいなくてみんな広くて低いブースでした。それに対して高く展示すると目立つんだ、ということがわかりました。

加藤:「見せ方」という点で、10YCさんが気にしていることはありますか?

下田:感覚的なものだけれど、僕はBtoCの方が気を使います。1人の声がすごく大きいじゃないですか。何かコメントをあげてもらうにしても、その言葉が売上にすごく影響してしまう。レコメンドが多ければ多いほど上がるから、コミュニケーションはすごく大切にしないといけないと思っています。

山川:ブランドとして「ものを作る」、左ききさんで言えば「仕入れる」上で、品質を保つのはもちろんモノだと思うんです。モノの良さ以外に気をつけている部分がありますか?

加藤:「左ききの道具店」だと、Twitterでのコミュニケーションが全体の8割くらいあるんです。ウェブ上で店の名前が流通しているのはTwitterで、TwitterはほかのSNSと比べて拡散力が高いので、すごくありがたいなと思っています。コミュニケーションとしては「いてもいい」っていうのを心がけています。どういうことかと言うと、啓発や啓蒙活動をしないことです。左利きは世の中に10人に1人です。少ない層を狙っていると、どうしても方向性がそちらにいきがち。でもうちはそうじゃないよね、というのは店長と2人で共通認識を持っていて、スタンスを明確にしています。左利きにとっては嬉しい道具を扱うのだけれど、「左利きの地位向上!」「もっと左利きに優しい世の中に!」とか、そういうことは考えない。言わない。「いてもいいお店」という立ち位置を大事にしたいんです。

山川:「いてもいい」というのは、どうやって表現するんですか?

加藤:たとえばツイッターでは基本的に店長に任せているので僕はそれを眺めているだけなのですが、おはようって毎日毎朝あいさつをするとか、おやつの時間はおやつのことをつぶやくとか。彼女のつぶやきを見ていると、何気ないコミュニケーションを大事にしていると感じます。告知は適度に抑えている。あとは、オンラインショップなのでお客様に会えないので、商品の良さを手書きで伝えたりとか。そこに「人がいる」っていうことを感じさせることを大事にしているし、それがTwitterでのコミュニケーションにも活きているんだと思います。まあ、僕は見てるだけで、基本店長が頑張ってます(笑)。

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山川:10YCは、ウェブ上でお客様との接点はどこが多いんですか?

下田:インスタグラムが多いかな。ファッションに関しては画像が一番伝わりやすいので。

山川:売れるのもインスタグラムですか?

下田:売れないですね。Googleアナリティクスとかもやっていますが、興味を持ってくれる人はオーガニック検索が多いのかな。口コミなんだろうな、と思いながら見ています。

山川:お2人に共通しているのは、わかりやすい名前ですね。「左ききの道具店」って名前を聞いただけでわかる。「10YC」も一見わかりにくいけれど「10年着られる服」っていえばみんなが納得する。「シープ」って言っても「羊ですか?」となるし、検索しても羊しかでてこない(笑)。これは失敗した。

下田:名前はSEO対策と、キーボードやタップの打ちやすさなんかをかなり意識して考えましたね。10years clothingだと長いから略そう、と。でも最初は「変じゃね?」って思ってました。とりあえずみんなで10回10YC言おう、とやったりして、慣れてみた。


続けることで、変わっていくこと。

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加藤:シープはどうやって人を集めたんですか?

山川:インスタグラムです。インスタで買ってくれているかどうかはわかりませんが、イベントにも定期的に出ているので、それがインターネットでの閲覧につながっているのかなと思います。僕の場合、めちゃくちゃ接客しないといけないんです。置いておくだけでは売れないので、何が普通のキャンドルと違うの?というところから始まる。パラベンのキャンドルを否定しないといけないときもある。でも、否定したいわけではないんです。だからこそちゃんと話をしたい。広告を出したり営業活動したりしたことはありません。ワークショップに参加してくれた人はリピーターになってくれます。ワークショップはすごく強くて、10のうち9.5くらい。接客でも8くらいいくんですけど、オンラインだけだと5くらい。できるだけ直接会って会話をして、濃度を高めることは意識しています。使う頻度の高い商品ではないから、ニーズとしては狭いんですよ。必要ない人に薦めても買いませんし、必要な人に届けるためにはすごく接客しないといけないし、でも、あんまり戦略はありません。丁寧に話すとか、関わらない人には関わらないと決める、とかそのくらいでしょうか。

加藤:昨対比も含めて売上は気になりませんか?

山川:正直なところは気になります。売上はいい方がいいし。でも、ありがたいことにずっと伸びていて、それはどうしてだろう……

加藤:人徳じゃないですか。無理に買わせるネガティブキャンペーンになるから、気に入った人に買ってもらうからこそ納得してもらえる。

山川:僕が意識しているゴールは……これを言うのはちょっと恥ずかしいんですけど、いい社会にしたいです。僕たちは、必ず毎日なにかモノを買っています。買うモノがよくなれば売られるモノが良くなって、自然といい社会で暮らせるようになると本気で思っている。でも、正しい知識を持っていないと世の中は変わりません。キャンドルはその知識を広げるための道具です。キャンドルを売りたいわけじゃなくて、この良い商品を知っている人が増えてほしい。根底にあるのはそれです。売り上げはいいときもあかんときもある。でもじんわりでいい。いい社会にむけて、ちょっとずつ良くなっていけばいい。左ききの道具店も、元々はそうじゃないですか?左利きが困らないようにっていう……

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加藤:最初の頃はそんなに思っていなかったんですよ。自分が左利きではないから不満がなかった。ただ続けていて思うのは、最初に「需要はない、ここはクリアーオーシャンだ」と考えていたことは、違っていたということです。お客様からメッセージを頂いたりするのですが、印象的だったエピソードがありまして。事故で右半身不随になって左で使える道具を探している方がいらっしゃったんです。僕らは、単に生まれつき左利きの人を描いて商売をしていたので、まったく想定していなかったお客様でした。自分たちのお店を必要としてくれている人がいるんだな、いてもいいのかな、と思うことがちょこちょこあったりします。僕らがいることで少しでも喜んでもらえるなら、続けていかなきゃいけないなと。

山川:スタートしたときと、そこから継続していこうとするときって、ビジョンが変わりますよね。

下田:変わりますね。10YCは自分たちが作りたいモノを作るっていう思いがすごく強かったんです。ユーザーさんにとって良いものを、という思いも勿論あるんだけど、根底にあるのは自分たちが作りたい服を作るっていうコンセプトだった。創業して1年くらいの頃、工場とうまくコミュニケーションがとれなくなり、取引できない状態でTシャツの納品ができなかったことがあった。その時「これを作りたい」という自己の発信と、みんなが幸せになるような仕組みをつくるのは、被るところもあれば、被らないところもあるということに気づいたんです。自分たちを100%出しすぎると、逆に世界が壊れるんだなって。「着る人も作る人も豊かに」というミッションでやっていたけれど、作る人が豊かになっていないし、その結果着る人も豊かになっていなかった。自分よがり過ぎるんじゃないか?と。10年続けられる工場との取引を目指して「どうすればできますか」という話ができるようになったのが2年目です。それくらい、最初の頃とは気持ちが全然違う。1番最初は勢いで始めたけれど、現実は違うなって思った。見える景色が違ってきた。

山川:プライスの付け方も特殊ですよね。それも途中から変えたのですか?

下田:それは最初からです。

山川:普通は上代から決めていくから、特殊ですよね。

下田:そうですね。業界ではだいたいシーズンのマップがあって「この価格帯で3000円だったら30%の900円で作ってください」というルールがあるんです。それに対して僕らは、工場さんに対して「これくらいの値段で作りたいけどどうですか?」って聞く。

山川:価格が絶対条件なんですね?

下田:勿論、誤差はありますが、その価格じゃないといいビジネスができないというところで組んでいるので自然とそうなりますね。経費の積み上げばかりが正義ではないと思っているけれど、ある程度自由にものづくりをするなら積み上げは必要です。小売のビジネスだったらNGですよね。積み上げて作って、できあがったものが1万2000円で、さあどうやって売る?と言われても難しいです。一方で、予測できる予算の組み方ではないのでビジネスとしての苦しみはあります。けれどいいものを届けることを最優先するなら、予測できないことも許容しないといけない。ある程度、条件は決めますが。

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加藤:うちは10人に1人しかターゲットがいない。山川さんも他にソイキャンドルがない中で始めて、10YCさんはファッションという大きい業界のなかでどれくらい周囲を気にしますか?価格帯とか、トレンドとか……

下田:お客さんから言われることがあります。たとえば1万6800円のパーカーがあって、このブランドのこのパーカーとはどう違うの?って。そもそも僕らはそのパーカーを知らないけれど、僕らが作るものは、自分たちがちょっと背伸びすれば買える値段にしてる。パーカーに3万円はどう考えても買わない。でも1万6800円だったら、何かを我慢したら買えるかもしれない。4000円くらいでいつも買うモノだけれど、ちょっと我慢してボーナスの時なら買える、みたいな価格帯にしたいと思っています。

山川:受注生産っていう在庫をもたないタイプとも違いますか?

下田:違いますね。展示会もやっていますが、決まった時期ではないです。

山川:そうなってくると、僕のイメージでは春夏にバーンと作って、何ヶ月後かにはセールをして、また次を作って売るみたいなサイクルでしょうか。そうやって在庫をなくしていく、という感じですか?

下田:いいえ。違います。アウターなら季節的に冬っていうのはありますけど、基本的には通年売っているものが多いですね。

山川:それは意識してやっているのですか?

下田:そうです。そもそも自分たちが「いいものを着たいけど、服には気を使いたくない」という3人なのです。できるだけベーシックで、3シーズン着れるものが欲しかった。何もしなくても生活できるような商品を作りたいと思って作っているので、基本的には波はないんです。ニーズがあれば考えて新商品を出すことはありますが、アイテム数としてはそれほどありません。自分たちで作った服で囲まれたいっていう思いがあるので、それは成し遂げたいですね。

山川:業界の中では異端児ですか?

下田:難しいんですよね。「そういう売り方ができたらいいよね」とか「やりたいことはわかるけど現実的なサイクルで考えて、10年着たらどうなるの?」と聞かれたりします。でも、その「10年着てもらう」ことが大事じゃんって思うんです。他のブランドだと在庫をすごく抱えていますから、1990年代に比べて洋服の供給量は3倍に増えているんです。ブランドもものすごく増えたのに、消費は3分の1になっている。もうこのままこの「大量に作り続けて消費できずに終わる」というサイクルを続けるのは無理だからやめましょうっていう話なんだけど、やめられない。変えられたらいいなって思っています。日本でいいものを少しずつ作っていこうっていう流れになるための、きっかけになりたいです。


正しい、ってなんだろう。

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山川:「正しいものづくり」や「正しいビジネス」という感覚が、ようやく受け入れられるようになったかなと最近思います。10年前は、10YCのような考え方のブランドはなかった。「正しさ」が、人々の判断基準の一つになってきたのかなって。

下田:「正しさ」って難しいですけどね。

山川:僕にとっては「応援したいかどうか」かな。健康を害するものは嫌なんです。日本でスーパーにいくと、添加物の入ってない洗剤が売っていないからネットで買うんです。だから、スーパーで売られている商品を作っている会社がなくなっても、僕は困らない。応援したいブランドがスーパーにもっと増えてほしい。そういう感覚ですね。

加藤:でも、正しさって難しいですよね。

山川:たとえば「ハッピーナッツ」というピーナッツバターを売ってる人と知り合いなのですが、この前、TV番組に出たらしいのです。めちゃくちゃ売れて半年待ちの状態なんですけど、本当においしい。でも、通常1000円くらいで売られているものが、楽天で転売されて5万円で売られたりしている。良い商品を買い占めて高額で転売している人がいます。そんなところは潰れてしまえって、本気で思う。そういう憤りがある。色々と日々苛立ちはある。悔しいなっていう感覚がある。だからこそ正しさを大事にしたい。みんな思っているけど言えない部分もあるのかな。やっぱり便利で安い方がいいことはわかっている。でも、1人くらいそれとは逆のことを言う人がいてもいいよね。

加藤:僕らは自分たちの「いい」っていうのを提示してみて、社会に訴えかけているんでしょうね。絶対的な正しさを探すのはすごく大変な気もしています。山川さんの原動力の7割は怒りですよね、それがすごいなと思う。3つの事業をほぼ1人でやっていて、その原動力を支える怒りにいつも感心しています。

山川:僕の場合は昔から「体に悪いモノなのになぜ売れているんだ、もったいない」という気持ちがあります。みんなが脳を働かせることなく、何も考えずに買えてしまう。ずっと受け身で、自分にとってのいい服とか道具を知らないままだったら絶対見つからないから。ちょっとこだわって探したら良いものが見つかるからやってみてほしいですよね。

加藤:いい服って、どんなものだと思いますか?

下田:「僕らが」という主語をつけると個人の好みになってしまうけど、社会が良いと言うラインを求められているような気がしています。僕らにとって「いい」ものが果たして社会にとっても「いい」ものなのかは難しい。いいものは、価格が高いから根付かないっていうこともある。普通のアパレルブランドが定価の30%で作っていて、エシカルブランドも同じように30%で作っている。エシカルだと「うちはフェアトレードしているから価格が高くなります」とか「作り手に対して正当な報酬を払っているからこの値段です」という理由がつけられる。お客さんは高い金を払っているのに、同じように利幅が70%だと結局小売が儲かる仕組みは変わってない。最初は「良いもの」として発信された商品が、単なるマーケティング戦略の結果になっている。「サステナビリティしてます」だけでは、世の中は何も変わっていないんです。

山川:「オーガニック」というのもそうだよね。ぼくのキャンドルも「オーガニック」って結構言われるんですよ。実際にはオーガニックの素材はアールグレイの茶葉だけで、それ以外は全て天然の素材なんですけど、「天然=オーガニック」だと思われてしまう。


Text:Shingo Kato(LANCH)
Photo:Keita Inaba
編集協力:Megumi Danzuka


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