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システム非完結性の原理:環境と生命

生物は、独立したシステムと考えることができます。

生命の起源について考える中で、システムの自己非完結性という概念が重要になることに気がつきました。

これは、システムとして自己完結的であるほど、システムの継続性と増殖能力は高くなるにも関わらず、現実には自己完結していないシステムの方が高度な進化が可能であるということです。

以前から私は「生命のリドル」と呼んでいる現象について考えてきました。それは、なぜ生物は一度停止しても再び動作できるように進化しなかったのか、という謎です。

生物は環境に適応して生存する能力を高めるように進化してきたはずですし、一度停止しても機会のように再びきっかけを得れば動き出す仕組みの方が生存に有利に思えます。それにも関わらず、現実の生物はほぼ全て、停止すると再び動くことはできません。

この謎を突き詰めていくと、システムが自己完結していない方が、生存にとって多少不利であっても、進化にとっては大きく有利だから、という説明に行き着きます。それをシステム非完結性の原理と呼びたいと思います。

なぜ、システムが不完全である方が進化にとって有利なのでしょうか。その理由をこの記事では説明していきます。

■システムの自己完結性

システムの自己完結性を、構造完結性、閉鎖系完結性、自己触媒完結性の3つの側面で定義します。

構造完結性は、システムの構造が安定しており、システムが停止していても動作していても、必要な構造を保つことができる性質です。構造完結性があれば、例えばエネルギーの一時的な不足で止まっても動作を再開できますし、動き続けても構造が保てるため、外部から破壊されない限り永遠にシステムが存続できます。

しかし、現実の生物は、完全に停止すると構造が崩れて再度動作することができません。停止は死を意味します。また、長期間動作していると、構造が崩れていきます。これは寿命です。つまり、生物は構造完結ではありません。

閉鎖系完結性は、システムからエネルギーや物質の出入りがないということです。自己複製を行う際には、環境にある素材とエネルギーを利用しますが、元のシステム自体へのエネルギーの出入りがなければ達成できます。

内部に蓄えたエネルギーと物質を使ってシステムが維持できれば、システムの継続性の面では有利です。しかし、現実の生物はエネルギーと物質を大量にシステムに出し入れしています。

このため、生物は閉鎖系完結ではないと言えます。

自己触媒完結性は、システムが自らの複製を作成する際に、自らを構成する触媒を全て自ら生成することができる性質です。

これは、自己触媒セットと呼ばれる概念で、生命の起源の研究において、生物の進化の鍵になっていると考えられています。

しかし、現実の生物は、一部の触媒を外部環境に頼っており、全ての触媒を自ら生成できるわけではありません。

このため、生物は自己触媒完結ではありません。

■システム非完結性の原理

生物の自己完結性の欠如は、システムの存続や増殖の面からは不利に思えます。しかし、進化の側面からは、この非完結性が重要になります。

システムは、システム同士を組合せて、より高度なシステムを形成することができます。この構成要素となるシステムを、サブシステムと呼びます。

システム全体が特定の側面の全性を持つ場合、そこに含まれるサブシステムは、全てその側面の自己完結性を持っているか、あるいは組み合わせによって自己完結性を持つ仕組みが必要になります。

一方で、システム全体が特定の側面で非完結である場合、そこに含まれるサブシステムとして、自己完結性を持つシステムと非完結なシステムのどちらでも組み込むことができます。

これを、システム非完結性の原理と呼びたいと思います。

この原理から理解できることは、自己完結性を持つシステムはごく限られており、複雑なシステムになればなるほど、実現が困難になるということです。

一方で、非完結なシステムは無数に存在できることになります。このため、自己完結性を持つシステムよりも遥かに多様なシステムが存在します。

■進化における非完結性

この取り得るシステムパターン空間の広さが、この謎を解くカギです。

持続と増殖の面から有利であっても、自己完結性を持つシステムは、システムパターン空間がごく限られています。このため、進化が困難であり、進化するとしてもそのスピードが遅くなります。

一方で、非完結なシステムは、持続と増殖の面からは不利です。環境が変化して必要な物質が供給されなければ、存続できません。しかし、システムパターン空間が広く、進化が容易です。

もちろん、自己完結性からあまりに遠いシステムは、持続と増殖ができないため、自己完結性から遠ければ良いわけではありません。

持続と増殖の能力と、不完全によって広くなるシステムパターン空間の広さのバランスの中で、システムは進化していくことになります。

■環境による補助

非完結であるにも関わらず、生物が存続と増殖ができるのは、環境に支えられているためです。

利用しやすい形でエネルギー、素材、触媒を環境が安定して供給していれば、不完全なシステムであっても存続と増殖ができます。

そして、環境が供給するエネルギー源や素材や触媒が多様であれば、存続や増殖の中でシステムに多様な改変が加わる可能性があります。これが、システムパターン空間の探索を促します。

この探索の結果、環境の中で存続や増殖により適したシステムができると、そのシステムが数を増やします。こうして、非完結であっても、システムは進化していきます。

■多様性を自己強化する環境

多様なエネルギー源、素材、触媒を提供することができる環境は、非完結なシステムの進化を支えることができます。

それだけではなく、非完結なシステムそのものを生み出す可能性も高くなります。

つまり、多様なエネルギー源、素材、触媒を提供することができる環境は、非完結なシステムを作り出し、その進化を支えるということです。

では、多様なエネルギー源、素材、触媒を提供することができる環境は、どのようにして作り出されるのかという疑問に移ります。

もちろん進化するシステムがあれば、その進化によって生み出される物質も多様化します。しかし、進化するシステムが生み出される前に、多様な物質を供給できる環境が必要です。

環境が作られる際に、初めから多様な物質があれば良いですが、それだけで十分な多様性が生み出すことは難しいでしょう。

そこで、環境が作られてから、自動的に物質の多様性を自己強化することができれば、時間と共に多様性が増加していき、やがて進化する非完結なシステムを作り出すのに十分多様な物質を供給できるようになるはずです。

基本的に、新しい物質は、既存の物質が結合することで生成されます。従って、結合が繰り返されることで、物質の多様性は増していきます。

ただし、物質の結合が崩れてしまうこともあります。新しい物質が生成されても、すぐに分解されてしまえば、多様性も元に戻りますし、さらに他の物質と結合して、より複雑な物質が生成される機会も減少します。

このため、結合が分解よりも早く行われる環境であれば、物質の多様性は増していくことになります。

ただし一般的に、結合を重ねた複雑な物質は、結合箇所が多い分、分解されやすいはずです。このため、多様な物質に特別な作用がなければ、多様性はどこかで頭打ちになります。

一方で、生成された一部の物質が、結合を促進したり分解を妨げたりする効果を持っているケースがあります。このような物質が生成されると、結合と分解のバランスが変化し、生成される物質の多様性が増加します。

そして、多様性の増加により、また新しい物質が見つかる、ということが繰り返されれば、多様性を自己強化する環境と言えるでしょう。

多様性を自己強化する環境では、特定の物質を選択的に作り出す能力は必要ではありません。ランダムな結合だけでも、多様性を増すことはできるためです。

■環境がシステムを生み出す

多様性を自己強化する環境は、進化する非完結なシステムを作り出します。このことが、環境から生物が誕生する、生命の起源の基本的な仕組みになり得ます。

これは初めの方で述べた自己触媒セットの考え方に似ていますが、その弱点を克服しています。

まず、完全な自己触媒を可能にする自己触媒セットよりも、非完結な自己触媒セットの方が、容易に実現できます。欠けている触媒は、環境から供給されれば問題ありません。

また、前述したように、非完結なシステムの方が進化には有利です。

そして、自己触媒セットが生成されるためには非常に複雑な物質を環境が供給する必要があるものの、自己触媒セットの存続や増殖にはそれほど複雑な物質が必要ありません。これは、環境の利用方法としてアンバランスです。

一方、非完結なシステムを生み出すことができる程度の多様な物質を供給できる環境は、非完結なシステムが存続や増殖するための多様な物質を提供できるはずです。これはシステムの環境利用方法としてバランスがよく、生成と存続や増殖がシームレスに結びつきます。

加えて、現存する全ての生物が、構造、閉鎖系、自己触媒の全ての面で非完結なシステムであり、環境の支援に依存しているという事実は、この理論の妥当性を強く裏付けています。

■さいごに

生命の起源についてシステムの観点から考える際、生命の高度な仕組みに気を取られてしまい、生物システムの非完結性を見落としてしまうことがあります。

そして、高度な仕組みを誤って自己完結性と誤解してしまい、生命の起源の過程の中で、自己完結するシステムが出現するかのように誤解してしまうと、迷路に迷い込んでしまいます。

また、未成熟な環境で、突然の奇跡的な偶然で生物が誕生したと想定してしまうと、自己完結していなければすぐに死滅してしまうため、最初の生物は環境に頼らずに自己完結性の高いシステムであるという仮定が必要になります。しかし、成熟した環境の中で誕生した生物は、非完結なシステムでも生存することができます。

環境が成熟して、エネルギー源、素材、触媒が多様化していけば、非完結なシステムが進化していくことができます。

このことに気が付けば、無生物から非完結な生物システムが誕生するまでの間に、作成が困難で考えられるパターンもごくわずかしかない自己完結するシステムが登場するという仮定を置く理由はありません。

初めから終わりまで、作成が容易でパターンも多様な非完結なシステムが、進化したと考えることができます。これが、生命の起源について考える際の、基本的な認識に大きな差を生むことになります。


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