第31回社会福祉士試験 問題99

 社会福祉士の倫理要綱・行動規範には、社会福祉士の「当たり前」が、当たり前に記されています。
これを「当たり前」の事と軽んじず、ソーシャルワーク実践にあたる前には、必ず読み返すべきと信じています。

私が受験した第31回社会福祉士試験において、下記のような問題が出題されました。
問題文を載せさせていただきます。

問題99 事例を読んで、外国籍住民を支援K団体のKソーシャルワーカー(社会福祉士)が、エコロジカルアプローチの視点から今後行う取組として、より適切なものを2つ選びなさい。

〔事 例〕

 P国籍のLさん(30歳、女性)は半年前に来日した。
 Mさんなど一部の日本人住民に挨拶をしても無視されることが度々あり、Lさんは疎外感を覚えている。
 LさんはMさんなど近隣の日本人と交流しながら住み続けたいと考えているが、Lさん自身はMさんらに何も伝えることができない。
 このためLさんは、Kソーシャルワーカーに相談した。

1 Lさんの了解を得て、Lさんに対する思いについてMさんらに尋ねる。

2 この地区の民生委員に問題解決・再発防止の仕組み作りを任せる。

3 日本人住民との良好な関係作りためにLさんができることを、一緒に考える。

4 疎外感緩和のため、在日P国人団体の集まりに参加するように助言する。

5 Lさんに、Mさんらに対する言動を思い返してもらい、もし不適切な言動をしたことがあればやめるように助言する。

正答は、1と3 と発表されました。


 選択肢1の場合で、もし、MらにLに対する思いを尋ねたときのMからの返事が、無視した行為は意図的で、P国人に対するヘイトクライムによる可能性は、

L自身が無視されているのでは?

と感じている現実から、決して低くはないでしょう。

 社会福祉士Kは、Lの了解を得た以上、その敵意を、クライアントであるLに伝えなければならないのです。
そのまま真実を伝えた時に、Lへ与える精神的ダメージは、計り知れません。

『Mへ問いかけすること』

 それ自体が余計な混乱を招き、交流を希望するLの希望とは真逆の結果を導く危険は充分にあります。

 また、Kが所属する支援団体にとっても、選択肢1のアプローチによって、団体がMからの新たな敵意の対象となるリスクもあり、今後のLへの支援にも支障が出るでしょう。

 出題者は、「エコロジカルアプローチ」を問いたくて、出題者からすると確かに選択肢1は「エコロジカルアプローチ」なのでしょう。

 ですが、問題文は『どれがエコロジカルアプローチなのか?』ではなくて『より適切なものを選びなさい』なのです。

 明らかに適切でないアプローチは、選んではいけないはずなのです。

 この問題のケースが、実在したケースに基づいて作成されたものなのかは甚だ疑問が残ります。

 おそらく、机上で捻り出されたアプローチの型を問うだけの問題、実践とは程遠い、タコツボの奥で練られたのでしょう。

 私達が社会福祉士になるために学んできた学問は多くの曖昧さを含んでおり、学問の上では『適切』とされている事でも、選択を間違えると、ソーシャルワーク実践では足かせとなってしまうのです。

 もしかすると、上記の問題を作成するにあたって「上級」や「認定」といった、スーパーバイザーとしても活躍されておられる方々が監修されているかもしれません。
 もしそうなら、経験豊かそうなスーパーバイザーですら、実践においての盲目的な信頼は危険なのではないでしょうか。

 多大な曖昧さ含んだ試験をクリアしてきた社会福祉士が、唯一の拠り所とできるのは、まさしく、社会福祉士としての「当たり前」が記された倫理綱領・行動規範であり、実践に当たるときには、まず、倫理綱領にある『利用者の利益を最優先に考える』からスタートすれば、アプローチの型は何か?と雑事に惑わされず、上記のような問題のケースが実際にあったとしても、利用者の事を最優先に考えたアプローチができると信じています。

☆☆☆

『試験問題は、問題の中だけの設定で答えなければいけないのだよ!』

 なんて言う方が出てきそうなんですが、そうなると、その前の年の第30回社会福祉士試験、問43の正答が完全に不適切になってしまうんです。
(どちらにしても不適切な問題だったのですが…)

 因縁の、第30回社会福祉士試験・問43については、また、別の機会に記したいと思います。

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