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「VRは仮想現実ではなくなる」境目が溶けるその時、佐渡島庸平が期待するVRコンテンツとは


「今回の投資は、糸電話のようなもの。困ったら頼ってねと、繋がっていることを伝えたようなものだから」

数々の漫画や書籍などの「コンテンツ」をヒットさせてきた編集者 佐渡島庸平さんは、VARKへの出資について、こう語ります。

VTuberによるVRライブサービスを提供する「VARK」。今後はそのサービス拡大に向けて出演者の幅をアニメキャラクターやリアルアーティストへと広げていきます。「VRをもっと多くの人に体験してもらいたい」代表・加藤卓也が各界のトップランナーとの対談を通じて、コンテンツ制作や普及活動について模索していく本企画。

第2回のゲストはクリエイターのエージェント会社「コルク」の代表取締役 佐渡島庸平さん。VR技術開発の中心地・シアトルに自ら出向いて体験をしたり、日本におけるVR市場の最初から触れてきている方と言っても過言ではありません。

「VRによってコンテンツのあり方は変わる」そう話す佐渡島さんが、VARKに出資した理由、そしてIPビジネスの観点から見た2020年のVRコンテンツへの期待についてお伺いしました。

<Profile>
佐渡島 庸平(さどしま・ようへい)
クリエイター・エージェンシー「コルク」代表取締役。日本のVR業界には初期から注目し、自ら技術開発の中心地シアトルに赴き体験するなど、その動向を追い続けている一人。現在新聞連載中の平野啓一郎『本心』(https://k-hirano.com/honshin)では、VRを題材に取り扱い専門家への取材も精力的に行うなど、知見は深い。
VRの未来を語る『VR is Now』
VRライブサービス「VARK」を運営する株式会社ActEvolve代表の加藤卓也が、様々な業界関係者と対談し、VRとの出会いや最新状況、未来について話す連載企画です。


VRコンテンツが爆発的に広がる鍵は“子供”

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ー日本のVR市場について十分な知識をお持ちの佐渡島さんが、なぜ今回VARKに出資をしようと決めたのですか?

佐渡島: 今回の投資は、VR業界について新鮮な情報でアップデートし続けるためのある種「情報代」だと捉えています。VRに限らずARやブロックチェーンなどは、コンテンツのあり方を大きく変える可能性があるものでしょう? VRがこれからもっと身近になると、「仮想現実」という概念がしっくりこなくなると感じていて。

加藤:しっくりこなくなる、その感覚はわかる気がします。

佐渡島:「VR」の概念がもっと細分化されていくと思うんです。30年前はトマトといえば握り拳サイズの一種類しかなかったのに、今は色形も用途も様々な種類でいっぱいある。これから先「VR=仮想現実」という大きな概念が、その用途によって「観光なのか体験なのか」、体験の中でも「フィクションなのかノンフィクションなのか」と、どんどん分かれていくと思うんです。その流れを追っていれば、コンテンツをどう作っていけばいいのかが想像できるじゃないですか。

あとは、僕が編集者からスタートアップの経営者になったように、加藤さんもゲームの制作者から経営者になったことに親近感を感じていて。作り手から経営者になったことで生まれる葛藤みたいなものってきっとあるだろうし、「何かあったら頼ってね」って言える関係値作りというか、彼の挑戦を応援するために投資したという感じですね。

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加藤:葛藤は、確かにあります(笑)。制作者として「こういうサービス面白そう」と思いつつも、「ユーザーがまだついてこられないかも」とタイミングを計ったり、一方では熱烈なファンの方々から「新しいのはまだかな?」と期待されていたり。どちらかに合わせるとどちらかを置いていってしまいそうでヤキモキするというか…。どこかのタイミングでその壁が取り払われるとは思っているんですけど、いつなのかなと思ったりして。

佐渡島:コンテンツの初期って何が人気になるかわからないから、子供が好きそうな一見チープだったり幼いと感じられるものから流行るんだよね。でもVRって子供の目には悪いって言われていたよね?

加藤:「斜視になりやすい」という研究結果ですよね、それ2019年に覆されているんですよ。TVと同じくらいの影響だと修正されています。

佐渡島:あ、そうなんだ! 僕、子供には触らせないようにしていた。そうしたら、子供に慣れ親しんでもらえるといいよね。教育とか相性が良さそうな気がするけど。天気のこととか、VRで体験しながら学んでいけば理解度はかなり高そう。

加藤:教育や訓練の分野では、VRは相性がいいですね。体験した人には「VRはすごい!」と感じてもらえるかは、今まで体験したものとの差分でしかなくて、あまりに遠すぎると違うものだと思われてしまうんです。

佐渡島:Google MapがVRに対応して世界旅行に行くという試みは、まさによかったよね。

加藤:「わかりやすさ」ってVR業界では特に大事で、「すごい」からどんどん深みにはまっていくものだと思っているので、それこそパソコンの初期からあるペイントソフトとか、子供も使えるコンテンツは良い気がしています。

佐渡島:「経営者として成功する」のは、少し先の未来を見据えた開発や起業をすることで、まずは自分自身が未来の生き方をしてみて、それが一般の人に広がるまでの時間の読みが早かった人だと思う。うまく現実からシフトしていけるといいよね。


VRは、仮想現実から“現実”へ

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ー様々なコンテンツを作ってきた佐渡島さんから見て、2020年以降のVR業界はどうなっていくと思いますか?

佐渡島:平野啓一郎の『本心』でまさにVRを題材に取り上げているんだけど、その中でアバターを作ることでお金を稼ぐ登場人物が出てくるんだよね。これまでの僕たちは“自分”という存在に、例えばブランドを身に纏ったりして「自分がこういう人間だ」と示してきた。でも、VRの中だとアバターそのものをどういう風に作るのか・さらにそのアバターに何を着せるのか、自分という世界観そのものの作り込みが必要になってくる。それらを作るためには色々な売り場が必要になるはずで、VRの中に社会ができていくと思うんだよね。

加藤:社会、ですか。

佐渡島:そう、社会。ただVRの世界って誰かを傷つけても瞬間移動とかできちゃうわけだから、今の社会とはルールが違ってくるんじゃないかな。VRだから体は傷ついていないけど、心が傷つくことって大いにある。極端な話、戦争のようなものが起きた時の対応など、定義していかなきゃいけないことが出てくると思う。

加藤:大事に作ったVRの家を壊されても、「データじゃん」と言われてしまえばそれまでですもんね。

ー前回の対談で亀井さんが「VRの中に人が集まってコミュニティができる」ということを話してくださったのですが、コミュニティができた先、ということですね。

佐渡島:「楽しむために人が集まる」ようになった先には、お互いが過ごしやすいように0からのルール作りが必要になってくると思うんだよね。

加藤:深いですね…。

佐渡島:2019年にTVプロデューサーの土屋敏男さんがやっていた『NO_BORDER』は、自分のアバターが画面の中で知らない参加者と一緒に踊ってショーをするんだけど、その画面の中にいる人同士、実際に顔を見ると安心感が湧くんだって。この対談だって、もしVR空間の中で僕のアバターと加藤さんのアバターが肩を組みながらやったら、多分現実でも加藤さん僕に相談とかしやすくなると思うよ。

加藤:自分のアバターと相手が仲良い場面を客観的に見ることで、元から知っていたかのように錯覚してしまいますよね。確かに、肩も組みやすくなるかもしれないです(笑)。

ーVRの中で出会った人だとしても、親近感が湧くってことなんですね。

佐渡島:そう。だから「VRの中での人の振る舞い方」を決めなきゃいけない時が来る。VRが「仮想現実空間」じゃなくなる時が来るんだよね。そういう大きな節目の時代に加藤さんは挑戦していくんだなと思っています。


VRの時代、クリエイターは飛び込める“箱”を作る人へ

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ーVRがある意味現実に近くなっていくとなると、クリエイターの作るものは変わっていきますか?

佐渡島:これからは「体験できる物語を売る」ようになるんだと思う。自分のアバターがVRの世界にいることで、たとえば好きなドラマの登場人物になることだってできるし、実生活の人間関係をVRの中でシミュレーションするようになるかもしれないよね。誰かと喧嘩した時に、「この仲直りの方法を試してみよう」とか。これまでのクリエイターは人が外から見る「箱庭の世界」を作っていたんだけど、これからは他人が飛び込める「箱」の「世界観」を作ることに変わっていくと思う。

加藤:すごい。これってVR業界をずっと見続けてきた方だからこその視点ですよね。VR業界の人たちを集めてするような話ですよ、これ。

佐渡島:体験が深くなる、物語の中に深く入り込むことができるようになるからこそ、VRが絡むことで圧倒的に変わるコンテンツが多くなると思う。『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』は、「学び」「ストーリー」がセットになっているものだったんだけど、そこにVRが加わることで「体験」もセットになるんだよね。

この3つが揃った状態だと物事の学びが深くなり、、VRやARではそれが可能になる。僕は教育こそが最強のコンテンツになると思っていて、なぜなら「学んだ」・「成長した」という実感ほど、楽しいことはないと思うから。だから、その3つが合わさったコンテンツを作れるクリエイターが強いし、どう育てていくかが大事だと思うな。


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時代の少し先を読み、クリエイターのあり方をも模索しながらコンテンツ制作を続けてきた佐渡島さん。そのVRの知見も相まった発言からは、加藤も「学びしかない…」とたびたび考え込んでいました。

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また加藤が迷った際には、糸電話の糸を引くように、ご連絡をさせていただければ幸いです。

次なる対談相手ですが、「紹介してもらうのもいいけど、自分からアポイントを取って見るのも面白いんじゃない?」と助言をもらった加藤。

次のゲストはアポイントのメールを入れるところから、はじまります。どのような方にご登場いただけるのでしょうか。お楽しみに。

取材・執筆:柴田 佐世子(LABOUSSOLE.LLC)
編集:柴山 由香(LABOUSSOLE.LLC)
撮影・バナーデザイン:小野寺 美穂(LABOUSSOLE.LLC)

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