本と思い出 - 2019年版 -

本棚をみると本を読んでいた時の思い出に目が映る。
読んだ時期で並んでいるのでその頃何に興味を持っていたのかが、なんとなく見えてきて面白い。2019年は「国家」「中国」「世界史」そして「疑い」という年だったのかなとおもう。常識としてあると思っていた境界線が実は存在していない、もしくは非常に流動的であると認識を深めた。

昨年は読んで良かった本をまとめてみたけれども、もっと私的に読んだ本と思い出を書き連ねていこうと思う。


なんて書き始めてから、年明けからだらだら書いていたらとても膨大でまとまりがなくなったので、先に書籍一覧を上げつつ、一旦途中で断念して公開します。。。
本当は全ての本の思い出を簡単に書きたかっけれども、いつか落ち着いた時にまた。
全ておすすめの本たちだけを書いてます。ただ、もしどれか一冊というなら、
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」をぜひ。

▼順不同
・「なぜ大国は衰退するのか 古代ローマから現代まで」 グレン・ハバート
・「大衆の反逆」 オルテガ・イ・ガゼット
・「言葉と歩く記」 多和田葉子
・「越境の声」 リービ英雄
・「美味しい進化 食べ物と人類はどう進化してきたのか」 ジョナサン・シルバータウン
・「大英帝国は大食らい」 リジー・コリンガム
・「戦争がつくった現代の食卓」
・「カルチャロミクス」 エレツ・エイデン
・「孤独の発明」 三浦雅士
・「ストーカーとの七00日戦争」 内澤旬子
・「善と悪の経済学」 トーマス・セドラチェク 、 村井 章子
・「気候カジノ」ウィリアム・ノードハウス、 藤﨑香里
・「塗りつぶされた街」サラ・ワイズ、 栗原 泉
・「岩田さん」ほぼ日刊イトイ新聞 、 100%ORANGE
・「演劇の力」蜷川 幸雄
・「モリさんの狩猟生活」高柳盛芳
・「アニメーション折りに触れて」高畑 勲
・「世界史を変えた新素材」佐藤 健太郎
・「ニューダークエイジ」ジェームズ・ブライドル、 久保田晃弘
・「沈まぬアメリカ」渡辺靖
・「日本中世法書の研究」長又 高夫
・「高峰秀子各語りき」高峰秀子
・「世界の辺境とハードボイルド室町時代」高野 秀行 、 清水 克行
・「空をゆく巨人」川内 有緒
・「20 CONTACTS 消えない星々との短い接触」原田マハ
・「極夜行」角幡 唯介
・「悲しくてかっこいい人」イ・ラン
・「無人化と労働の未来」コンスタンツェ・クルツ, フランク・リーガー
・「ディープテック世界の未来を切り拓く 眠れる技術」丸 幸弘、 尾原和啓
・「ザ・ネクストバンカー」浪川 攻
・「余の尊敬する人物」 矢内原忠雄
・「ファーマゲドン 安い肉の本当のコスト」フィリップ・リンベリー, イザベル・オークショット
・「世界を変えた14の密約」 ジャック・ベレッティ
・「セカイ飛び地大全」 吉田一郎
・「国家の神話」 エルンスト・カッシーラー
・「チェンキンマンションのボスは知っている」 小川さやか
・エネルギーの愉快な発明史」ベルトラン・ビカール
・「技術者たちの敗戦」前間考則
・「精密へのはてなき旅」サイモン ウィンチェスター 、 梶山 あゆみ
・「科学が作られているとき」ブルーノ ラトゥール
・「日本社会のしくみ」小熊 英二
・「ファナックとインテルの戦略」柴田友厚
・「世界史とつなげて学ぶ中国全史」岡本 隆司
・「中国新興企業の正体」沈 才彬
・「チャイナイノベーション」李 智慧
・「china 2049 秘密裏に遂行される世界覇権100年戦略」マイケル ピルズベリー
・「インドシフト」武鑓 行雄
・「住友銀行秘史」國重 惇史
・「最後の頭取 北海道拓殖銀行破綻20年後の真実」河谷 禎昌
・「サカナとヤクザ」鈴木 智彦
・「ハッパミクス」トム・ウェインライト
・「貧困を救えない国 日本」 鈴木大介
・「人口で語る世界史」ポール・モーランド
・「貧乏人の経済学」アビジット・V・バナジー, エステル・デュフロ他
・「反穀物の人類史」ジェームズ・C・スコット、 立木 勝
・「ゾミア」ジェームズ・C・スコット
・「刀狩り」藤木 久志村井 章介
・「世界史の中の戦国日本」
・「ジャスミンの残り香 「アラブの春」が変えたもの」 田原牧
・「内戦の世界史」ディビット・アーミテイジ
・「ノースライト」 横山秀夫
・「ゴールデン街コーリング」 馳星周
・「ハーモニー」 伊藤計劃
・「夏物語」 川上未映子
・「罪の声」 塩田武志
・「天子蒙塵」 浅田次郎
・「折りたたみ北京」 ケン・リュウ
・「三体」劉 慈欣, 立原 透耶他


---ここから下は気ままな思い出です。---

キーワードとして「国家」をあげたが、”制度の停滞が衰退をもたらすことを明らかにする”という説明に興味を惹かれて手に取った「なぜ大国は衰退するのか 古代ローマから現代まで」。併せて「大衆の反逆」を再読するきっかけとなった。
改めて、書籍を眺めると様々な観点で「国家」という装置を見つめていた1年に感じるが、これといって定まった視点はまだない。巨大な何かを頭の中で分解して近寄って見るような楽しみだったのだろう。

・「なぜ大国は衰退するのか 古代ローマから現代まで」 グレン・ハバート
・「大衆の反逆」 オルテガ・イ・ガゼット

2019年の雑誌すばる1月号掲載の多和田葉子+リービ英雄の対談「越境とエクソフォニーのいま」を読んだのはちょうど英語学習を日に3時間するという今日までほぼ欠かさず行ってきた習慣を強い決意をもって始めた時期だった。
その中の指摘である「ネイティブと非ネイティブという区別の中でいきてきたという歴史は本当に日本人そのものなのか」という指摘は、通説として捉えてきた解釈を見直すという楽しみを読書に見出したきっかけだったように振り返る。
お二人の著書をしっかりと読んだことが、年の後半に「ゾミア」に行き着く読書の旅のきっかけとなったように感じる。

・「言葉と歩く記」 多和田葉子
・「越境の声」 リービ英雄

食の歴史を追える書籍との出会いが多かったことも2019年の特徴だろうか。進化美食学を謳う「美味しい進化」は是非読んでもらいたい。中見出しのひとつひとつさえも魅力的で「パンケーキと生命進化の分岐点」「チンパンジーとヒトの食物分配」と惹きつけてくるようなタイトルが並ぶ。植民地経営が食文化に与えた影響を書く「大英帝国は大食らい」は別の角度で食を捉えさせてくれる。「戦争がつくった現代の食卓」は戦争中の糧食としての食の発展を描くアプローチが描かれる。ハイテクのみならず食についても軍からトレンドが生まれるという視点が読める「第13章 アメリカ軍から生まれる次の注目株」は必読。

・「美味しい進化 食べ物と人類はどう進化してきたのか」 ジョナサン・シルバータウン
・「大英帝国は大食らい」 リジー・コリンガム
・「戦争がつくった現代の食卓」

外国人労働者の姿が年々一気に増えている気がする欧州の方と異なり移民という言葉は使われてはいない。年に一冊しか本を読まない人がいるなら進めたいのが、「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」だ。日本で生まれ英国で過ごす著者が緊縮の翻弄される英国を語る過去の著作はどれも素晴らしかったが、英国で育つ著者の子供について書かれたこの本は、さまざまな格差が広がるいま、しっかりとグラスルーツであるかどうかを見ていかないといけない。

「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」ブレイディ みかこ


中国とインドのいまへの興味から中国、インドに関する本をたくさん読んだ一年でもあったその中でも印象深かったのが、「世界史とつなげて学ぶ中国全史」という歴史書だったのは不思議な印象だ。今の中国の発展は目を見張るものがあり、バブル後に生まれてじりじりと景気は後退しているという論調が当たり前の環境で育った私にはわからない感覚が多くある。
「中国新興企業の正体」で語られる内容には勢いのある国ならでは、好循環を見て取れて、その上り調子な感覚が羨ましい。

「china 2049 秘密裏に遂行される世界覇権100年戦略」は元親中派のCIA勤務経験者が告白した中国の国家戦略を描いたものだ。

・「世界史とつなげて学ぶ中国全史」岡本 隆司
・「中国新興企業の正体」沈 才彬
・「チャイナイノベーション」李 智慧
・「china 2049 秘密裏に遂行される世界覇権100年戦略」マイケル ピルズベリー
・「インドシフト」武鑓 行雄

拓銀について書かれた「最後の頭取 北海道拓殖銀行破綻20年後の真実」や「住友銀行秘史」などひと時代の裏側を描いた本が多かったのも特徴に感じた。ひと時代前の話と括れるほど世の中が変わったのだとも感じる。

経済ものという括りで語るなら「サカナとヤクザ」「ハッパミクス」は異なる視点で一定の環境下における合理的な経済活動を示したように感じる。


・「住友銀行秘史」
・「最後の頭取 北海道拓殖銀行破綻20年後の真実」
・「サカナとヤクザ」
・「ハッパミクス」トム・ウェインライト

鈴木大介の貧困層ならびにアングラビジネスの描き方は心に刺さる。闇金ウシジマくんが好きな人は、ギャングースも読んで欲しい。この漫画の原案は鈴木大介著の「家のない子供」だ。貧困家庭のルポの名手である著者がデータと社会調査のエキスパートと語り本著は、人口減少とともにくる喫緊の課題に対しての理解につながるのではないかと思う。貧困、人口減少を軽視して進むことの怖さを感じる。

人口といえば大英帝国の出現は産業革命と農業革命による人口爆発だったという切り口で描かれる「人口で語る世界史」は人口が世界史、特に経済に与える影響を語っており、知った気でいた人口変動の影響を再認識させられる。


・「貧困を救えない国 日本」 鈴木大介
・「人口で語る世界史」ポール・モーランド

「反穀物の人類史」でeconomist誌のベスト歴史書2019に選ばれたジェームズ・C・スコットの著、原始的な民族はわざわざそういった生活習慣を行うことで関係性を権力からの自由と自治のための戦略だと看破した「ゾミア」と開発経済学と著書がいう観点から貧困者の経済を洗い出した「貧乏人の経済学」を同時に読んだ体験は印象的だった。

国家と自治と自由という点では、室町時代と現代のソマリランドが似通っている。というテーマでの対談本である「世界の辺境とハードボイルド室町時代」は、飲み屋の放談のような会話に見せた重厚な会話で心地よく読み込めた。

この時期は、刀狩りは民衆が武器を封印したのであって、強制的に武器を没収されてのではない。豊臣秀吉の狙いは武装解除ではなく身分の固定化だと論づる「刀狩り」や世界史の流れの中で日本史をとらえる「世界史の中の戦国日本」など民衆と国家を意識した読書が続いていた。

・「貧乏人の経済学」
・「反穀物の人類史」
・「世界の辺境とハードボイルド室町時代」
・「ゾミア」ジェームズ・C・スコット
・「刀狩り」
・「世界史の中の戦国日本」


では、その国家に対して国家のあり方を問うた昨今の出来事のその後はどうだったのかという興味で手に取ったのが開高健ノンフィクション賞を受賞していた「ジャスミンの残り香 『アラブの春』が変えたもの」だった。ムバラク政権崩壊から三年経った中東の革命のその後を追っている。

なんとなく知りたい領域ができると、その系譜がかかれている本を読む癖がついてきた。それもこれも、全部〇〇の世界史といったタイトルの本が増えたからだ。外殻を掴むのには助かる。「内戦の世界史」は思想を読み解き内戦の意味を読み解くのが本書の目的だ。内戦というものに対する世界認識の変化の推移には驚かされる。


・「ジャスミンの残り香 「アラブの春」が変えたもの」 田原牧
・「内戦の世界史」ディビット・アーミテイジ

前の東京オリンピックの記録映像を作成したのが市川崑監督だった。この映像は当時、批判を浴びた。その際の高峰秀子の投書は読んでいたが、その後発端となった河野一郎オリンピック担当国務大臣との対談は未読だった。

本文を読み、双方が軟着地をよしとせずに毅然と議論を交わしている様に驚いた。双方ともに意見は受付つつ自説は丁寧に伝える術を持っている。読めてよかった。

本を読んで美術館に行く機会が2度ほどあった。ひとつはいわき回廊美術館。蔡國強が手がける、龍が住う作りかけの美術館だ。美術館の成り立ちを丁寧におったのが「空をゆく巨人」。美術館では一切気を負わされることなく風情を楽しむことができた。

アートに気負わされることのない展示といえば、京都清水寺を存分に使った展示会contactだった。原田マハ仕掛ける展示は、一体どれが作品で、どれが作品でないかわからないほど空間に馴染みきっっていた。通常非公開の建築物の畳に座り、美しい庭と作品との出会いは昨年の思い出の一つだった。

・「高峰秀子各語りき」高峰秀子
・「世界の辺境とハードボイルド室町時代」高野 秀行 、 清水 克行
・「空をゆく巨人」川内 有緒
・「20 CONTACTS 消えない星々との短い接触」原田マハ


昨年のnoteを見返して原りょうの「それまでの明日」を連作だからという理由で加えなかったが、変に縛らなくてもいいなと思うので連作も加えたい。

2018年に完結していた天子蒙塵を今年に入って読むことができた。1996年から続く「蒼穹の昴シリーズ」の第5部。西太后から始まった物語も溥儀が満洲国皇帝につくというところまで来ている。

本作に手を伸ばしていなかった理由は溥儀の半生を著者なりの解釈であったとして読み進めることが沈鬱だったからだったからだが、全四巻を読了後、ほぼ四半世紀前に書き始められた第一部の「蒼穹の昴」から変わらぬメッセージに小説の威力を感じた。

一方で、昨年の一番小説の醍醐味を味わったものは?と問われると間違いなくノースライトだろう。

「夏物語」は、書き出しの下りでため息をついてしまった。もっとも魅了された書き出しだったと思う。
ピカレスク、ノワールの名手と言われてきた作家たちが今の歳を重ねた今書き連ねる風景がどうやら好きなんだなと思うラインナップになってしまった。

ちょうど、ジュンク堂池袋店で中国SFフェアを行なっているがケン・リュウから始まり三体で一気に盛り上がった中国SFの年でもあった。経済的にも上り調子の中国が描くSFの世界観には今までにない切り口の新鮮さを感じた。

・「ノースライト」 横山秀夫
・「ゴールデン街コーリング」 馳星周
・「ハーモニー」 伊藤計劃
・「夏物語」 川上未映子
・「罪の声」 塩田武志
・「天子蒙塵」 浅田次郎
・「折りたたみ北京」 ケン・リュウ
・「三体」劉 慈欣, 立原 透耶他

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