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姉妹というもの

最近、大島弓子の「バナナブレッドのプディング」が入っている選集をパラパラ読み返していた。
改めて読むと、彼女がテーマとして何度も描いているのは、優秀な姉とそうでない自分とのギャップに苦しむ妹達が、そこを抜けて自分自身へと歩き出す瞬間だ。そこに至る過程には、周囲を振り回す程の葛藤がある。
自身の経験を、何度も繰り返し描いて確認しているのだろう。
それぐらい噛みしめ甲斐のある、姉と妹という関係。

わたしも妹で、華やかで行動力のある年の離れたふたりの姉達の影響をもろに受けて、一番下の自分は外見も中身も地味に育った。
大島弓子の漫画程は美しくない、ちびまる子やあさりちゃんちのような、仲の良いような悪いような、ごくありふれた関係だった。
長姉は、今の感覚だとモラハラ姉と呼んでいいような暴君として、家族に君臨していた。ブス、ぐず、アホと罵られパシリにこき使われた。こちらが風邪ひいた時だけは優しく、たまに気が向くとおやつをおごってくれもした。グルーミングに似ている。
まあ、暴力や小遣いを巻き上げたりはなかったし、家族としては常識の範囲内だろう。恐ろしいのに不思議なダークパワーと魅力のある人だった。中身が変わっていないのに分別だけついた今は、ちょっとパワーダウンして見える。大人になってから一時期結構世話になったので、昔のことはチャラかなと思ってるけど、根本的な考え方で合わない部分はどうしようもないんだよな、お互い。
次姉とは、長姉が実家を出た後平和になった実家で、何でも話し合える年の違う双子(姉による表現)として、しばらくべったりくっついて過ごした。その頃の彼女は「恋愛は空想上のもので実在しないと思っていた」「幸せになりたいなんて考えたことはない」などの迷言を吐いて面白かった。
彼女が海外に数年間滞在したおかげで次姉離れし、戻った頃にはお互い変わって、殆どの嗜好が合わなくなっていた。
楠本まきという人の単行本『T.V.eye』収録の「Ch11」という短編漫画で、一卵性双生児が自立する際に、自分の中の相手を死体として出現させてしまう、という場面がある。
読んだ数年後だったと思うけれど、滅多に見ない夢の中で、留学先の姉が死んだというメールが届いて、さて母をどうなぐさめればいいか、という場面を見た。
後ろめたさと共に、依存を抜けたのか、とその時は思ったけれど、今思うと母の関心を取り戻したかったらしい甘えが見えて、年齢的に非常に恥ずかしい。両親は、少なくとも今は平等に愛情を持ってくれている。
大島弓子の漫画にもあるように、一度物理的な距離を開けることによって、ようやく姉や親達の引力を脱して、多少なりとも、誰かとの比較無しに自分は大体こういう人間という姿が形成されてきた。
そう言えば、自分の輪郭がよりぼやけていた思春期にも、読書や音楽だけは「わたしはこれが好き」と自信を持って言えるものだった。影響を受けて好きになったものも沢山あるけど。

べったり一緒にいた時は、次姉とはどの顔のパーツも似てないのになぜかそっくりと言われる姉妹だったけれど、今は「どういうご関係?」と聞かれ、姉妹と答えると驚かれるし納得されない時もある。
もう外見も関心事項も似ていないし、自分としては一応独立した人間のつもりだけれど、わたしがぼーっとしているのもあり、彼女達からすると、永遠に構うべき小さい妹らしい。
バイオリズムが似ていて、機嫌悪い時期がほぼ同じ、しかもそういう時に限って用事ができるもんだから、時々思い出したように険悪ムードになりつつ付き合っている。
親の本格的な介護を間近に控えて、そろそろ無駄な喧嘩を減らさなきゃ、と銘々に思っているものの、それぞれの立場での過去から現在に至る憤懣が、まだ完全には抜けきらない。
大人になり、ようやくそれぞれの長所と短所も一旦認められるようになったけれど、それだけではまだ足りないらしい。更年期のせいなのか、短気になったり昔の嫌な思いが蘇って来たのもあるみたいで、それはちょっと困っている。

うちは昔から、喧嘩の最中でも、家族はチームとして助け合う、という了解だけはできている。
いつどんな風にその取り決めがされたかは全く分からないけれど、それは皆感じているらしく、今までもお互い何かあった時は助け合ってきた。動物的本能かもしれない。
だから、大人らしくさっさと過去をチャラにすればいいのに、まだそれができない。一番似ているのは、この頑固さかも。
憎らしくて羨ましくて大切。この、距離が近いゆえの妬ましさを完全に手放せたら、姉妹という呪縛から卒業できてしまうような気がする。
良くも悪くも、家族でなければ付き合ってはいないと思う。
手に取るように分かる重なる部分もあるけれど、全体は決定的にずれていて理解不能でもあり、永遠に互いにはなれない、それがわたしにとっての姉妹だ。

キャプチャ写真は、大島公園のパルマワラビー。


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