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経済活性化に商品券がダメな理由

【流通論 それでもお肉券お魚券が使えない理由】

ニュースで和牛券などが叫ばれて久しく、ネットで散々叩かれたのでおそらく実現はされないと思うのですが、元農林水産省畜産部長、現畜産環境整備機構副理事長原田様のFBタイムラインに、この牛肉が行き場を失った経緯やどういうところが問題なのかが書かれていました。これはこれで、多くの方に知ってほしい内容だと思います。文末に、タイムラインの内容をシェアしております。ただ、とはいえこういった「消費喚起政策」として「商品券」が無理筋な理由を、流通業の観点から残しておきたいと思います。

①そもそも券が配布されても高級和牛は買わない&買えない

原田様の文章にもありますが、A5rankなどの高級和牛が行き場を失っている一方、A3程度の和牛肉はスーパーを基本として流通しており、消費はそこまで落ち込んでいません。むしろ外食が少なくなり、引き合いは強くなるでしょう。
では一般的な家庭がA5の和牛を買うことはあるのでしょうか?仮に1世帯で1万円分の和牛券があったとしても、家族4人として、高級お肉を買うのには少し少ない。ちなみに米沢牛肩ロースを通販価格で買うなg1200円~1500円はする。600gで足りるというならいいのですけど。
あと、もっと問題だと思っているのは、「たとえ配られたとしても、使うところがない」ことです。だぶついた高級和牛を売っているところといえば?百貨店などです。残念ながら町の肉屋さんは既にほとんどないです(下記リンク先資料など)。商店街から真っ先に消えたのは生鮮販売のお店ですから。また、一般的スーパーでも高級和牛扱いは少ないです。
https://www.mhlw.go.jp/content/000505179.pdf
つまり、『もらったけど使えるところがない、少ない』という状況が発生する。東京23区内であれば問題ないかもですが、淡路島で淡路牛が買えるところですらなかなかないというのに。
こういう地域的に著しい偏りが起きる政策が妥当とは思いません。

②スーパーが高級和牛を買い付けられるか&扱えるか
肉の流通は野菜や魚に比べると特殊で(しかも、和牛と鶏肉でも違う)市場でだぶついているけど、市井のスーパーにすぐ出回るかというとかなり難しいです。なぜならスーパーで取り扱うといっても「どこの部位をどのくらい」というのを調整できるか難しいので。肉には肩ロースやモモ肉、サーロインだけでなく様々な部位がある。流通経路が限られていたからこそ少ない頭数の肉で、人気部位とそうでないのをうまく調整していたと推測されるのですが、大手のスーパーが「肩ロースとモモだけほしい」という発注を処理できるとは思えません。では、焼き肉屋などがよく看板に掲げる「1頭買い」すれば、、、ということもありますが、そうしたところで腕肉や脛肉をうまくお店でお金にできるとは思えない。大きなスーパーならまだしも、多くのスーパーはそういう部位の肉を売るのは難しいです。そういう部を使って料理ができるお客様も多くないので(普段売っていなかったものが突然店頭に並んでも、難しいです。ましてやいくつかの都会の小規模スーパーは既に多くの商品がセンターでのアウトパック加工となりつつあるのに)
あと、大手スーパーさんとはいえ、どこまでのお値段を提示して業者から買ってくれるのか。このご時世とはいえ提示する価格が低すぎれば、業者の間に不信感しか芽生えません。(適正価格で買い取って消費者には格安で販売するくらいの男気がある&自前でお肉の捌きがうまくできるスーパーにとってはチャンスなのかもしれませんが)

③商品券を適切にさばけるお店はほぼない。
最大の問題と思っているのは、「商品券の取り扱い」です。どの商品が対象なのか?A5rankのお肉だけなのか?それがダメならお肉のコーナーのものはすべてOK?ベーコンやソーセージも?和牛だけ?和牛と外国産豚肉の合挽ひき肉は?
おそらく、このオペレーションは現場が付いていけませんし、最終的にレジでその商品券を取り扱いするときに、対象商品が「商品券の額面を越えているか」を判断しなければならない。

※ちなみに昔百貨店のレジで、お米券とビール券使う人は、対象商品をいったん計算して、券の額面越えてないこと確認して、レジで処理していました。

スーパーで籠にこんもり商品積んでいる中から肉だけ取り出して、その中から鶏肉や対象外抜き出して計算する、、、そんなことこの人手不足のスーパーのご時世で可能でしょうか。セルフレジはどうすればいいのでしょうか。先の政策とは言え、システム改修などが対応できるようなバーコード付与などができるものでしょうか。絶対にスーパーのレジ担当者と、お肉の担当者とバイヤーが混乱します。
じゃあレストランの商品券や普通の商品券にしたら?ですが、①の問題があって、高級品は結果的にだぶつくということになりかねません。

④そもそも畜産業界のシステムを考えるべき。
ちなみに牛肉に関しては、元々子牛が高騰してるから利益が出ない。輸出やなんやで儲かったのは卸会社だけ。子牛を産んで育てる一貫体制の畜産業者を育てる施策をして欲しいと畜産業者怒ってました。そのへんの構造を今までほったらかしにしていたのに、、、ということはあるでしょう。ここについてはまたいずれ詳しく(魚なら色々すぐにでも書けますけど)。

⑤そもそも券の処理ってすごく大変
いわゆる商店街振興の地域商品券は、
1.印刷の手間
2.回収の手間
3.回収した券をお金に換えて小売業者に支払う手間
も、めちゃかかる。それを仕事として当然やるものなので、これを受託する機関としてはお仕事になるのですが、、、おや、誰か来たようだ。

というわけで、片桐ならじゃあ何するのと言われたら、A4A5の和牛や高級鮮魚の買い上げして、介護・給食事業者に提供ということを提案します。流通業者から購入する、加工は高級店などに一部委託することで、この分で売り上げが減っているお店への還元にもなります。学校休みになっているからいますぐ給食事業は難しいし、給食導入していない学校には不公平だということもあるでしょうけど(実際どうやらこれをやるらしいですね)。100点の回答はできないし、高級品を少しのお金の補助で買うようになれない状況&券の処理が超困難なことを踏まえると、オペレーションとしてはこれが一番低コストではないかと思います。
私はこういう政策では、オペレーションコストを重要視します。商品券施策は③⑤の問題をほとんど無視しています。で費やされるお金が大きいのであれば、直接一律給付の方がまし、と思っております。
ちゃんとこのあたりの意見が上に届くような人になるために、仕事も論文も頑張ります。

※以下、原田様の記事のシェアです。
【新型コロナと牛肉2】
3月19日に「新型コロナと牛肉」という投稿をして1週間。この間に自民党で「お肉券」構想が出たことに対し、ネットや報道で批判も高まってます。
朝日新聞3/27:お肉券、お魚券に「族議員批判」 農水相「受け止める」
→https://www.asahi.com/articles/ASN3W438WN3WULFA00P.html…
「お肉券」の必要性として①インバウンド需要が多かった和牛は、ウイルス問題で訪日客が減って需要が落ち込み、価格が大きく下落していること、②全国のと畜場の倉庫に和牛の在庫が積み上がっており、生産から流通、消費の流れを何とかする施策は必ず必要になること
とされています。
「族議員」「なぜ牛肉だけ」と言った批判があることは理解しますが、改めて、私なりに「新型コロナと牛肉」について整理します。

「牛肉の需給予測について」(農畜産業振興事業団3/26公表)→https://www.alic.go.jp/content/001176259.pdf
によると2月末の牛肉在庫は牛肉全体では前年同期比で99.9%ですが、国産品は112.9%と国産牛肉の在庫が増加しています。国産品のうち、和牛のみの数値は分かりませんが、関係者の話を聞いていると「倉庫が満杯」という話を耳にします。特にA5の需要の落ち込みは大きく、それが和牛の卸売価格に反映されてます。
ところが、私が1週間前に投稿した時点からA5、A4とも反転し、連休明けは価格が上昇に転じてます。肥育農家の赤字を埋める水準ではないかも知れませんが、連休中にある程度の和牛肉の動きがあったのか(やはり宴会したのでしょうか😢)その理由は不明ですが、3月全体でみると(3/26まで)A5で対前年同月比82%(▲490円)、A4で74%(▲633円)、A3で72%(▲624円)となっており、いずれも1頭当たり(500kgとして)30万円前後の低下となっています。
 このような牛肉卸売価格の低落を受けて、黒毛和種子牛の3月の市場価格は全国平均(去勢)で、624千円(対前年同月比▲171千円,78%)と低落しています。今後、肥育農家の収益が悪化すると子牛市場価格は更に低下する可能性もあります。
とはいえ、前回の投稿に書いたように、繁殖農家には全国平均の子牛価格が541千円を下回ると、その9割を補てんする「子牛補給金」、肥育農家には標準収入が標準経費を下回った場合にその9割を補てんする「マルキン」というセーフティネット対策が措置されているので、何とか経営維持が可能です。
そのため、生産者に対する新たな支援としては、肥育農家に対するつなぎ融資(マルキンが支給されるまでの経営資金)を講ずることぐらいだと思います(マルキンなどは「家族経営」を前提としているので企業的な経営は従業員の雇用維持など大変だと思いますが)。
牛肉と言っても種類により影響は異なります。和牛、国産牛肉、輸入牛肉それぞれで、嗜好や価格による棲み分けが進んでいるからです(私は「牛肉の一般相対性理論」と呼んでますw)。写真のスーパーは和牛の取り扱いが多い方で、普通のスーパーでは単価の高い和牛の取り扱いは減っています。
コロナウイルスの影響としては、インバウンドや輸出の恩恵を受けていたA4以上の黒毛和種の牛肉が最も大きく、私たちがスーパー等で購入する国産牛肉(B2~B3)の影響は小さいと言われています。ファストフードやファミレスで使われている牛肉は輸入牛肉の割合が高いので、外食での営業不振に伴う影響は和牛で大きく、乳牛等では比較的小さいと思われます。
しかし、牛肉を含めた食肉産業は、生産が維持できれば回って行くというものではありません。
生産→と畜(レンダリング)→卸売→小売・外食等のプレーヤーがそれぞれの関わりの中で役割分担しながら「肉を流す回路」を作っています。どこかで「流れ」がつまると、システム全体に影響が及びます。
今回の場合、和牛を中心とした末端需要が細くなると、業務用倉庫で牛肉がオーバーフローし、卸売業者等の受け入れが困難になり、と畜をしても買い手が付かず、場合によっては、と畜場での受け入れ制限という事態を引き起こしかねません。と畜場がつまると、農家では出荷適期を迎えた和牛を出荷できずに、肉質が悪くなることを覚悟で飼料を与え続け、となり、牛舎が空かないので子牛を買えず、という悪循環に陥ります。
「お肉券」は末端消費の拡大のための一策ではありますが、国産牛肉だけに手当てすれば、外食産業での利用は困難で、スーパー等の量販店では、数年の高価格のため「和牛肉」の販売が縮小しているという実態を考えると、コロナの影響が最も大きい和牛肉の消費拡大に繋がるかは不明です。
学校給食への振り向け(購入費助成)も考えられますが。今は春休みですし、学校の再開自体不明です。
食べることが難しいなら一時的に和牛肉だけ「市場隔離」するという手もあります。売れる見込みのない和牛肉を冷凍保存することで一時的に「市場隔離」して需要が戻ったころに解凍して販売する、という手法です。和牛肉は冷凍にすると再販売のときに購入時より価格が下がる可能性があり(品質劣化のため)、業者はやりたがらないので、肉の価格差補てんや冷凍庫の使用料等を助成するという支援を行うのです。この場合も和牛肉の価格はピンキリなので、オペレーションは難しいという問題があります。また、市中の冷凍庫等の余裕があるのか不明です。
農畜産業振興機構の需給予測によると、和牛の出荷頭数は3月は対前年同月比100.3%、4月は同104.2%と増加する見込みです(交雑、乳牛は減少)。このため、何らかの補助事業等で現在の在庫を圧縮することは価格回復に効果があると思われますが、これ一本で!というエースがないのです。
今回の「騒動」は「なぜ、国産牛肉だけ特別扱いするのか」という皆さんの疑問が根底にあり、上記の説明だけでは納得がいかないかも知れません。財政面からは、和牛に限らず国産牛肉に特化した対策を合理的に説明できる理由として「輸入牛肉の関税を財源とした肉用子牛等対策費」の使途として、財源面での裏付けがある、ということはできます。
逆にいうと、牛肉間税財源は「国産食肉対策」に使途限定されているため、レストラン全体とか輸入牛肉も含めた牛肉全体の対策には使用できないのです。
移動・外出の自粛が強化される見込みが高い来週以降、「巣篭もり消費」の対象として国産牛肉、特に和牛を消費者に買っていただくための「お肉券」を頭から否定するのではなく、「買って食べる」ことで、本来、レストラン等でしか食べる機会のなかった和牛を味わっていただくことは「和牛生産流通の回路を回していく」ための一助にはなると思います。「お肉券」ではなくても、ご家族揃って国産牛・和牛を楽しんでくださいませ。

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