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引っ越しすることにした

  理由はただ一つ、いまの家の家賃が高すぎるためである。東京という街はどこへ行っても家賃が高すぎる。試しに私は賃貸サイトで「東京 家賃2万」とだけ入れて検索してみた。するとものすごいと形容するしかない家が何個か引っ掛かるだけだった。田舎であれば家賃2万でも、独り身の暮らすワンルーム程度なら簡単に見つかるというのに。もし東京以外の場所でも簡単に仕事が見つかるなら、私は脱兎のごとく東京を後にするだろう。


  そもそも私はこの街が全く好きではない。偏屈で偏狭な私にとっては、人が多すぎると言うのはうざったい以外のなにものでもないからだ。東京はどこに行ってもゴミゴミとして人に溢れており、雑多で、猥雑だ。自転車で街を駆け抜ける時など、ここは私のいるべき場所ではないとひしひしと感じるのである。東京生まれ東京育ちの知り合いはよく「もう東京以外の場所に住めない」と言う。彼らの言うこともわからないわけではないが、ここでの暮らしは決して「憧れのシティーライフ」みたいなものではない、と私は思うのである。だからわたしは東京を終の住処にしたい、という人たちはわたしとは別の人種だなあと思う。


  それで現在私は引っ越しの作業に追われているわけだが、この作業というのがまた面倒なのだ。北斎は生涯で93回も引っ越しをしたというけれど、江戸の世には、水道ガス電気ネットの手続きも、火災保険の解約も、転出届も必要なかったことだろう。そういう諸々の面倒な手続きがあれば、北斎だってもう少し引っ越しをためらったに違いない。新たに住む街はどのような場所で、一体そこではどのようなことが待ち受けているのであろかうか。その希望がなければこんな面倒な手続きなどやっていられない。


  都市部が好きだという人たちは往々にして「どこに行っても人がいるから街を歩いていても明るい気分になる」と言う。けれど私は真逆、鬱蒼と茂った森をひとりぼっちで歩く時などに最も幸福を感じる人間である。だから将来私が隠居するとしたら、できるだけ簡素に暮らせる場所を探そうと思う。そして1日玄米4合と味噌と少しの野菜を食べ、銀河鉄道に乗って、クラムボンのようにかぷかぷ笑って過ごしたいと思うのだ。

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生活費の足しにさせていただきます。 サポートしていただいたご恩は忘れませんので、そのうちあなたのお家をトントンとし、着物を織らせていただけませんでしょうかという者がいればそれは私です。