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文太の謎

2000年
3年A組 倉町 悠

 三年間があっという間に過ぎ去ってしまいました。こうして書いている今も、本当に卒業してしまうのか実感が湧きません。
 ただ、ひとつだけ心残りがあります。それは文太を見られなかったことです。
 架高の七不思議のひとつに「文太の謎」があるのは知ってる人も多いと思います。どこかのクラスに見知らぬクラスメイトが混ざり、わずかな人にだけしかその姿は見えないそうです。
 年組は関係ありません。迷い込んだクラスメイトはなぜか菅原文太にとても似ているそうです。先輩に聞くと、オカルト研究部が初めて事実であると発表した時は学校中の話題をさらったと言います。
 僕は文太を見つけられませんでした。正確にいえば文太に選ばれませんでした。
 僕の友人は違いました。2年生の夏です。蝉がうるさくなりはじめた季節に、僕の隣席に文太が座っていたことを打ち明けてくれました。
 僕は興奮しました。架高の七不思議が目の前で起きているなんてすごい。そう思っていました。
 それから友人は、文太が歩いていた場所やどんな服を着ていたかを教えてくれました。
 文太はぶかぶかのブレザーをいつも着ていたそうです。水曜日だけ席から動かないようで、なぜなのか二人で考え続けたときもありました。でも、僕には文太が見えませんでした。見えるのは友人が楽しそうに文太について話す姿だけでした。
 あの時も、水曜日でした。
 文太が話しかけてきたよ。
 放課後の教室で、唐突に友人はそう言いました。見るからに友人は嬉しそうで、僕も嬉しくなってしまいました。どんな声だった? どんなことを話していた? 僕は友人にたくさん聞きました。そうするのが一番だと思ったからです。そうして喜んでくれたら僕の話でも喜んでくれるかもしれないと思ったからです。けれど、友人と別れると胸の奥が冷たく感じました。
 教室をもう一度覗いても、文太はいませんでした。
 僕が聞いた文太が話したことはまだ覚えています。よかったら僕と話してください。きっと喜んでくれると思います。

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