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鐔の「音色良好」という売り文句について

鐔の「音色良好」という売り文句を時々見かけますが、これは鐔を指の上にのせて、もう片方の指ではじいて出る音色が良いという事です。
茎孔を使い柔らかい糸などで吊るして指ではじいた方がより音が鳴りやすいです。但し透かしの有無や、覆輪の有無でも音のなり方が若干変わります。

因みにこの音色は主に鉄鐔に対して言われており、鈍い乾いたような音ではなく、「チーン…」と高い澄んだ音の出る鐔を音色良好と言っている節があると思われます。

これはきっと「鋳造(鋳型に流して作られたもの)」ではなく、「鍛造(鉄を鍛錬して作ったもの)」である事を言いたいのだと個人的には理解しています。
大体は「良く錬れた鉄地」などと言った表現と併用されていますので。
ということで鍛造の物は高い音が鳴ります。

鉄鐔において鋳物は量産品(数物)である場合が殆どで価値も高くありません。聞く所によると江戸時代以降鋳物鐔が増えるそうですが、基本的に信家や金山など室町時代頃の鉄鐔は基本的に「鍛造」ではないでしょうか。(私が知らないだけで例外もあるかもしれません)
そしてこの時代の鉄鐔の耳部には「鉄骨」と呼ばれるゴツゴツしたような物が見られる事があり、それがあると鍛造及び時代の証明として掲げるかのように「見事な鉄骨あり」という売り文句で出て来る気がします。


が、しかしこの鉄骨も恐らく鋳型の構造上で作ろうと思えば作れてしまうと思うので、表面がゴツゴツしている→鉄骨がある→古い、という判断は早計かもしれません。
櫃孔や透かしの側面を見てバリが残っているかどうかを見た方が確実なのかもしれないですね。

尚あさひ刀剣さんの以下のサイトの「意外と多い鋳物鐔」という項目がこの辺りの説明について分かりやすく書かれているのでお勧めです。


尚素材によっても音色は色々違います。
山銅や素銅の鐔も大体「チーン…」と高い音がします。

また室町もしくはそれ以上に時代の上がる古い鐔には2枚合わせや3枚合わせの鐔もあり、中に山銅地、表の見える両面だけ赤銅など高価な素材を使用してリベットで合わせたような材料を節約した跡が見える鐔もあり、そうしたものは指ではじいても乾いたような音がします。
また以下の鐔は2枚を缶バッチの様に合わせた構造をしています。

側面を見ると分かりやすいですね。

この鐔を指ではじくと、「カンっ、カンっ…」と乾いた音が鳴ります。
しかし時代としては室町時代は有りそうです。

以下は真鍮地の鐔ですが、「キーーーーーーン…」と、風鈴のような、おりんを叩いた時のような非常に甲高い音が鳴ります。個人的にはこの音が一番好きです。


・終わりに

個人的には音色良好というのは個人の捉え方次第、つまり主観であるのでそこまで気にしなくて良いように思います。
「カンっ」という音も良い音色と感じる人が居れば音色良好になってしまいますし、文句も言えません。それよりも透かしや櫃孔の端面部を見た方が効果的にも思います。
ただ鍛造の鉄鐔をはじいた時の高い「チーン」という音は知っておいても良いかもしれません。
例えば現代作られた成木一成さんの鉄鐔も鍛造なので良い音が出ます。

但し透かしの量が多くなると徐々に音が変わるようです。

因みにこれは個人的な感覚なので合っているか分かりませんが、例えば現代に薄い古刀匠鐔を作ろうとしたとして、鍛造で鉄を薄く伸ばすのは大変なので、市販の板厚2~3㎜位の鋼板を買いそのまま表面だけ荒らして古刀匠鐔を作る場合、鍛造とは違い「カンっ」と乾いた音が出るような気もします。
但しこれについては現時点で断定できるものではなく、今後も調査が必要です。


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↓この記事を書いてる人(刀箱師 中村圭佑

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