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月と星

53億8千万年(注1)前までは、
月は今のように満ち欠けせずに、
いつでも丸いままでした。

月は空のどの星よりも大きく、どの星よりも輝いていました。
そのために月はだんだん自分がこの空で一番強いものだと
思うようになりました。
月は他の小さな星たちを『星屑』といって
馬鹿にするようになりました。
空の大事なことを決めるために、年に数回行なわれる
星たちの会議でも、月は星たちの意見を聞こうとしないで
自分の意見を押しとうし、強行的な採決をしました。
そうやって空の法律も自分の都合にいいように
変えていきました。

月はどんどん慢心になり傲慢になり横暴になっていきました。
そして、誰ひとり信じられなくなっていきました。

他の星たちが、自分を追い落とそうと
共謀しているのではないかと恐れ・・・

他の星が自分を攻めようと
大量の兵器をもっているのではないかと難癖をつけ・・・

そのたびに、月はその大きな体をゴロリと転がしては
星たちを踏みつぶしてしまいました。

もう星たちは月を恐れ、誰ひとり
月の言うこと、やることに
文句をいうものはいなくなってしまいました。

そんな様子を、月は自分が優れているからだと
気に留めることをしませんでした。
それどころか、月は自分の力を錯覚しうぬぼれ
権力に酔いしれるようになってしまいました・・・

ところが、月が山登りや釣りに行きたいな・・と思っても
誰ひとりいっしょにいく星はいません。
キャッチボールをしたいな・・
バドミントンをしたいな・・と思っても
相手がいなくてできません。
無理矢理脅して、相手をさせてもみましたが
ちっとも楽しくないのです。

気がつくと、以前は月のまわりで輝いていた
たくさんの星たちもすっかり月から遠ざかり
月のまわりには宇宙の深い深い闇があるばかりでした。
そうです。月にはもう誰も友だちがいないのです。
月はようやく自分が皆から嫌われていることに気がつきました。
そして月は悩みました。苦しみました。
あんまり悩みすぎたので、
月はどんどんやせ細り、しまいに
姿が見えなくなってしまいました。

そんな月の姿をかわいそうに思った
ひとりの小さな星がいました。
小さな星はおそるおそる近づいてきて、言いました。
『月さん、あなたはどんなに皆にひどいことを
していたかわかりましたか?
強いというのは、弱いものにたいして
力をふるうことではなく、
そんな自分の愚かさに気がつき
自分をよりいい方へと変えられることを
言うのですよ。
もしあなたが、自分を変えられる勇気を
持てるなら、私は友だちになりましょう』

もうほとんど見えないほどやせ細り、
やつれた月は涙を流しました。
その涙は足元に落ちるとキラリと光って
一つの星になりました。
次から次へと流れ落ちる涙は
いつのまにかたくさんの数えきれないほどの星となって
月のまわりで輝いていました。

心をいれかえた月は、友だちもできて元気になり
だんだん太って元の丸い月に戻りました。
けれども、月はあの愚かな自分をけっして忘れないために
ひと月に一度、痩せたり太ったりを
これからずっと繰り返すことに決めました。

それからです。
月が毎月満ち欠けを繰り返すようになったのは・・・

そして、その満ち欠けする月を見る
すべてのものが思うのです。
『自惚れてはいけないよ』

今夜も月のすぐそばに寄り添う小さな星が見えます。

注1)嘘の5・3・8(ごさんぱち)

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