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何処か古典的で神話の装いを持ち合わせた古びれた異常に大きな鉄が頭のなかに有るかのように想起する。「この肉体は違う」という本格的な危機感が忌避感を呼ぶ。「この肉体は違う」とは自身の肉体とそれに纏わる様々な出来事を含む。私は現状に嫌気が差したとき、希望が空から降ってくる事を想起して、このままでは達成することは無い世迷言を思い浮かべる。それはまるで上述した鉄のような装いをしているのではないかと私は考えた。その鉄は異常だ。存在感を威圧的に示す割に何を私にもたらすかというと異質な高揚感だけ。それで何が報われるかというと私の私に対する失望を減退させるだけ。その鉄を未来への行動へ繋げる知性が私には求められている気がする。プラトンの「パイドン」に魂と肉体は違うと書かれていた。私は私の肉体と精神と魂の違いを昔から意識している。己の総てを如何に護るのかの勝利と敗北が僕の人生でした。30歳近くまで生き延びる事が出来た今、肉体と精神と魂、つまり三つの私を俯瞰的に考える事が出来る。一つ一つの私の活動を続けて行くことがこの「わたし」という理解し難いモノが生きること。想像上の鉄の異常なエネルギー。溶かして行き届かせる。この「わたし」に。異常な鉄。てつ、てつ。


昔話とも未来想像図にも異世界の話にもあたらないゆめの話しを知らせよう。私はゆめを見た。草原のある丘。風車の回る丘。居心地のいい風が吹く丘。私が寝そべる丘。絵の具で塗り合わせたかのような青空のある丘。その空に鉄が浮かんでいた。それは何処か古典的で神話の装いを持ち合わせた古びれた異常に大きな鉄だった。総てが調和された世界で鉄は異質。鉄以外の総てに於ける第七界ともいえる神経が抑圧される。そのまま夢に帳が降りた。安定が不安定なまま終えた。それは一冊の冊子となった。今となっては風変わりな遺族が先祖参りに訪れる事が唯一の人間社会との繋がりとなった村の家屋に遺されていた。それを友人伝いで私は手に入れた。その冊子はただの日記だった。夢が記述されていた。彼と私が呼ぶ男が作者。彼は不思議な夢を見ると姉に報告を怠らなかった。彼は朴訥とした男で、言葉数が少ない。世に善も悪も施さず、彼の身体に何の苦労が眠っているのか彼という男を前にし観察してもわからない。そんな彼の苦悩ともいえる不思議な夢を私は知った。彼は苦悩を言葉にする方法を知らず、模索に行き届くこともなく生き抜いたのか。そんな気がする。私は彼に興味をもったが、そんな彼はもうこの世にはいない。その村が生きていた頃住んでいた人たちはもうこの世にはいない。村が朽ちて、人がいなくなってから何十年。時の壁が分厚く私と彼を覆っていた。

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