断髪小説 強制受験散髪(刈上げおかっぱ)

カランカラン

「嫌だ!絶対切りたくない!」
「しょうがないでしょ!中学受験の面接があるんだから!」

なにげなくいつもの床屋に入ると、小学生くらいの女の子と、お母さんが、大きな声で揉めていた。

少しお待ちください、と言われ、椅子に座った俺の心は、これから起こるであろうことを想像して、内心、ドキドキが止まらなかった。

「もう!お母さん買い物に行ってくるから、その間に切っておくのよ、髪型は、前髪は眉上3センチくらいでまっすぐに揃えて、耳は出して、後ろもさっぱりと刈り上げちゃってください!」

え?なんて?

その言葉を発した本人以外、目を見開いてしまったと思う。

だって、その女の子の髪型が、腰まである黒髪のストレートロングヘアだったのだから…



「お母さん!」

バタンと閉まった扉に向かって叫んだ女の子の声は、床屋に響いて消えた。


「…可哀想だけど、お母さんの言う通りにするね。」
ショートヘアの方が、大人の受けが良いからね」
「そんな!私、大事にここまで伸ばしてきたんです!」
「ごめんね。」

シュッ、シュッ、

女の子を椅子に座らせると、手が出ないピンク色の刈布を巻き、その上からネックシャッターを巻いた理容師は、霧吹きで全体的に女の子の髪を濡らすと、ジャキン、といきなり肩よりも上の高さにハサミを入れた。

「えっ、切りすぎです!」
「そう言われても…長い髪は小学生には似合わないよ?
それにもう6年生でしょう?
しっかり勉強に集中できるようにしようね。」

まるで自分が悪いかのような言われように、女の子はなにも言えなくなってしまった。

あの子、6年生なんだ…
小柄に見えていたが、意外と大きくてびっくりする。
中学受験のためとはいえ、可哀想に…

ジャキン、ジャキン、ジャキン、ジャキン、

理容師は反対側も肩よりも上の高さで髪を切り揃えると、後ろ側に周り、襟足にハサミをあてて、40センチはある綺麗な黒髪をバッサリと切り落とした。

そして、もう一度、髪を櫛でとかし、今度は横の髪を耳たぶあたりのラインで切り落とす。

シャキ、シャキ、シャキ、シャキ、

口まである前髪も、持ち上げると、眉と目の間で切り揃えた。

しかし、少し安心したかのように見えた女の子の表情を裏切るかのように、横から幅広く、眉上5センチくらいでハサミを入れていく。

「女の子は短めの方が可愛いからね。」

ジョキ、ジョキジョキ
チャキ、チャキ、チャキ

後ろの髪は耳たぶより少し下くらいでまっすぐに揃え、ギリギリ刈り上げなくても大丈夫な長さになっていた。

そして女の子は、真っ直ぐに揃えられた綺麗なおかっぱ頭になった。

前髪はとても短いが、大人っぽい顔が可愛らしくなったくらいで、そんなに変でもないかなといった感じだ。


しかし、そんな彼女に、非情な一言がかけられる。

「じゃあ、バリカン入れてくね。」

カチッ、ブィーン…

理容師は仕事に集中しているのか仏頂面で、黒光りする大きなバリカンをコンセントに繋ぎ、電源を入れた。

パサッ、パサっと前から耳上のラインでハサミを入れると、耳の前からぐるりと、バリカンを入れられ、もみあげも刈り落とされた。

しかもよく見ると、バリカンにアタッチメントがついていない。

意外と毛深いのか、何度もバリカンをあてられたもみあげは青々としてしまい、女の子は恥ずかしそうに頬を染めた。

「じゃあ後ろも刈り上げるね。」

ヴィーン、ザザッ、ザザッ、ジー、ザッ…

ヴィーン、ジャッ、ジャッ、ヴィーン…

ジー、ザザッ、ザザッ、ジー…

大きな音を上げながら、バリカンは彼女の襟足から何度も入り込み、耳の上の高さまで、短く青白く髪を刈り取っていった。

ジー

小さなシェイバーでキワ剃りをすると、通った道は真っ青になり、胡麻粒のように目立つ襟足を、逆三角形に整える。

「じゃあシャンプーするね。」

女の子は前屈みにさせられ、ガシガシと力強く頭を洗われる。
タオルで拭かれるだけで、ほとんど乾いてしまった。

しかし、理容師はまだなにか物足りなかったのか、ブラシを使って髪を乾かし、くるりと持ち上げながら乾かしたことで、全体的にボリュームのある黒い髪の毛が持ち上がり、まるでワカメちゃんのような髪型に仕上がった。

チョキ、チョキ

前髪のバランスを整えると、シェイバーで、耳の横の毛を丁寧に処理し、後ろ髪は櫛でとかし直すと、シャキシャキと真っ直ぐになるようにさらにハサミを入れた。

前髪は眉上5センチでまっすぐに揃えられ、耳は全部出され、後ろはバリカンで真っ青に1mmで刈り上げられた、お椀のような、お世辞にも可愛いとは言えないおかっぱ頭が完成した。


カランカラン

タイミングを見計らったように理容室のドアが開き、母親が入ってきた。

「あら!可愛くなっちゃって!ありがとうございます!」
「いえいえ!またすぐに伸びちゃうと思うんで、定期的に来てくださいね!」


衝撃的すぎる光景を目にした俺は、次の方どうぞ、と言われても、しばらく立ち上がることができなかった。

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