言葉をすぐに信じるのではなく

 映画は好きだけど、心を動かされすぎて後の生活に影響するので見ない、という友人が居る。始めた読書を深夜になっても中断できず夜っぴて物語に浸り、本を閉じた後も物語世界の重さを引きずってしまい、良い本であればあるほど読後しばらく気分が沈滞する、という愚かな経験をしょっちゅうしている私としては、その気持ちはよく分かる。良くできたフィクションというのは現実世界を濃縮していて、現実以上に感情や考え方に衝撃を与え得るものだから。
 そもそも言葉というものはフィクションの性格を持っていて、漠然としつつ複雑な現実を凝縮して理解を助ける一方で、リアルの持つ不確かさや重層性、細かなニュアンスを排してしまうせいで極端に走りがちだ。だから人柄や行為そのものより、書かれた文章、口にされた発言の方が即時的には人にアッピールしたり傷つけたりするんだろう。
 そうは分かりつつ言語人間である私は、人の言った巧いこと よく書かれた文章に、すぐ成る程と感じ入ってしまう癖がある。それが時には自分の共感力の高さに思えたりするが、実際には巧い言葉にすぐふらっとなる浅薄な人間だというだけのことかもしれない(泣)。
 表現や言葉は大事だし、言葉を理解して共感することも大切だ。でも表層をなぞっただけの言葉に踊らされるんじゃなく、物事の本質をしっかり捉えた言葉を見分ける力を持たねばいけないね。そもそも読むべきものをきちんと選ぶこと、読んだ後とりあえず一呼吸おいて考えたり調べたりすること。新型肺炎パニックでそれこそ色んな解説風説が飛び交う中、いつもに増してそう思う。

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