Kat Stewart

「宝島」「ジキルとハイド」の作者R.L.Stevenson ファン歴35年。地味で平凡…

Kat Stewart

「宝島」「ジキルとハイド」の作者R.L.Stevenson ファン歴35年。地味で平凡な日々の合間、作者縁の地や物語の舞台を訪ねて海外へ。"We travel, indeed, to find honest friends...(R.L.S.)"

最近の記事

言葉をすぐに信じるのではなく

 映画は好きだけど、心を動かされすぎて後の生活に影響するので見ない、という友人が居る。始めた読書を深夜になっても中断できず夜っぴて物語に浸り、本を閉じた後も物語世界の重さを引きずってしまい、良い本であればあるほど読後しばらく気分が沈滞する、という愚かな経験をしょっちゅうしている私としては、その気持ちはよく分かる。良くできたフィクションというのは現実世界を濃縮していて、現実以上に感情や考え方に衝撃を与え得るものだから。  そもそも言葉というものはフィクションの性格を持っていて、

    • 好きなこと、必要なこと

       先日いわゆるマネーセミナーに参加した時、金融商品の仕組みを説明しながら講師のフィナンシャルプランナーが、段々分かってくると投資が楽しくなりますよとにこやかに言った顔を見て、そうか彼にはこれが面白いんだなと思った。そういえば趣味が投資という友人が居て、税金とか保険関係で法律が変わると欠かさずチェックするとか、こう貯蓄すれば節税になるなどと楽しげに教えてくれたことがある。持っているお金が増えればそれは誰だって嬉しいだろうが、私にとって貯蓄は必要に迫られてやむを得ず行うもので、投

      • 仕事マイナス通勤は

         数日来、テレワークというものをやっている。自宅の机に置いたパソコンから会社のネットワークに繋ぐ。おしゃべりも電話も無し、周囲の会話に気を散らされることも無く、集中できることこの上ない。とはいえ一人でひたすらデータの確認や処理を続けていると、この仕事ってどこまで意味あるのだろうかという、実は普段から感じている疑問がむくむく頭をもたげてくる。このデータを本当に誰かが活用できるんだろうか、このまとめ方で方向は間違ってないんだろうか。仕事なんて時に大雑把なもので、一旦開始されると疑

        • テレワークな日々

           週はじめから、テレワークというものをやっている。会社のパソコンを持ち帰って自宅から会社のネットワークに繋ぎ、データと向き合う数日。ロフトの隅に置いた古い机にパソコンを設置し、自室から階段を上って数歩で出勤終了。通勤時間は不要だし、ジャケットを着る必要も化粧する必要も無い。何たる気楽さ、これは癖になる。 と、思ったのはほぼ初日だけであった。  在宅勤務ということは移動しないということ。自宅から職場までの移動が何を含んでいたか、家に居て再発見する。歩くこと、外の空気を吸うこと。

        言葉をすぐに信じるのではなく

          朝の思い

          目覚まし時計が鳴る前に目が覚める。体温計をくわえながらふと、部屋の隅で丸くなっている飼い兎も、別の部屋で寝ている母も、いずれは居なくなるのだという気が起きて、圧倒的な寂しさに襲われる。自分自身もいずれは消えてなくなるのだと思いついて、人生の意味について考える。かつては未来の時間が限りなく存在する前提で生きていた。年をとるにつれ、経験と思い出が豊富になったとは思うものの、過去とはほぼ幻影にすぎない。私達にあるのは現在だけなのだ。手が届くのは、どうにかすることができるのは。だから

          旅から帰る

           小綺麗に飾られた部屋とバスルーム、窓からの眺め、掃除も炊事もしなくていい旅先のホテル暮らしはラグジュアリーだけど、自宅の風呂で湯に浸かり、自分の部屋で、その日干して膨らんだ布団の中に足を伸ばす時の開放感はそれに勝るなあと思う。旅の一番良い部分は家に帰ることだろうか。  慣れた部屋、見慣れた風景、いつもと同じ食べ物にほっとしてしまう私は基本出不精だ。旅行は好きだし結構遠くにも行くが、出不精って物理的に出掛けないことじゃなく、自分の縄張りに執着する心理的な生活圏の狭さとか、外の

          旅から帰る

          未来の自分に親切に

           朝晩2、3匹の地域猫に餌をやっている。中にどうにも慌て者というか頭の悪いのが一匹居て、他の猫にやろうとした餌に横から飛びついたり、餌をつまんだ箸を両前脚で捕まえようと立ち上がったりして、ぶつかった拍子に肝心の餌はどこかにすっ飛んでしまう。おとなしく待っていれば順番に貰えるのに馬鹿だなー、毎日やってるのにちっとも覚えないなー。これが畜生の悲しさっていうやつだよね、と思う(でも他の猫はちゃんと順番を待てるのである)。  さて世間は新型肺炎でややパニックしていて、マスクの買い占

          未来の自分に親切に

          問題なのはヘッピリ虫が尻を持ち上げるということじゃない――本当に、ひじょうに注目しなければならないことは、われわれがそれを注目すべきことだと思うことなんだ*

           自己中でやたら気に障る発言をする人が居る。なんでこの女は常に自分のことばかり考えてるんだろう?  どの発言も微妙に攻撃的な知り合いが居て、コイツの発言ていつも自分が偉いという話ばっかり、そんなにマウンティングしようとしなくてもいいのにと感じる。  ところで他人がどういう性格と動機に基づいて発言をしているのかなどはどうでもよいことなのであって、ある人が自分のことしか考えてない・知り合いがいつも偉そうに話す、と自分が感じているということの方が、実は重要かつ対処可能な問題であるの

          問題なのはヘッピリ虫が尻を持ち上げるということじゃない――本当に、ひじょうに注目しなければならないことは、われわれがそれを注目すべきことだと思うことなんだ*

          初春の贅沢

          よく通る近所の道の脇の擁壁の上にMさんちの庭があって、その端に立派な白梅が植わっている。2月、地面の白くて丸い点々に気付いて見上げると、梅の花はそろそろ盛りを過ぎている。散り敷かれた花びらの作る不規則な水玉模様の上を歩く。日に日に増えていく水玉がやがて減って、風に飛ばされていく。初春の朝、小さな花びらを踏んで通る小さな贅沢。ラグジュアリーは案外日常のあちこちに散らばっている。

          初春の贅沢

          学ぶことと疲れること

           初めての土地に旅行に行く。苦手な貯蓄だの投資についてプロの話を聞く。今まで読んだことの無かった作家の小説を読む。しばらく会っていなかった古い友達と話をする。それぞれ刺激を与えてくれる新しい体験だったけど、短期間に詰め込みすぎて疲れが取れない。週末は予定を入れず、久々に寝坊をする。  疲れているのは図書館から借りた本を返却期限までに終えようと毎晩遅くまで読みふけっていたせいもあるが、習慣になっていない珍しい体験というのは、楽しいと同時に消耗させる。殊に違う生活、違う経験、違う

          学ぶことと疲れること

          ケチと憐れみの間

           化粧する際、無くなりかけのチークに苦労している。四角いケースの端にわずかに残った粉が巧くブラシにくっついてこない。替えのチークは買ってあるし、ブラシにうまく付かないとたぶん化粧自体きれいにいかないだろうし、たいして高いものでもないのだからケースの四隅に残ったチークは諦めればいいのだろうが、ケチな私はギリギリまで使おうと毎朝努力している。  チークの小さなカタマリ分の値段より、それを取ろうと四苦八苦する時間の方がよっぽど高いのだし、本当にケチであるならさっさと新品に取り換える

          ケチと憐れみの間

          日常を忘れられる旅と、旅に出られる日常と

           旅行の魅力の一つとして、旅の日々のシンプルさを挙げたい。考えなければいけないのは今日、または明日どこに行って何をするか、何を食べるか。気になるのは大抵天気だけ、気をつけることといったら電車やバスの時刻や観光施設の入場時間くらい。着るものは鞄の中の数枚から選ぶだけだし、リュックもスニーカーも毎日同じ。夜は持って行った本を読むか、友人に絵葉書を書くか、日記を書くしかない(私は宿でテレビを見ない。近年はタブレットとかスマホという恐ろしいものが登場し、うっかりネットに接続すると日常

          日常を忘れられる旅と、旅に出られる日常と

          ひそやかな幸せ

          部屋で兎を飼っている。 カーペット敷の床の上を歩く足音はふだんはほとんど聞こえないが、夜明け前後目を覚ますと、部屋の端から端へひそやかに走る足音が聞こえることがある。 体を丸めて毛繕いする時の、いつもとちょっと違う呼吸音が、部屋の中に微かに響くことがある。 朝まだき、布団の中で聞く小さな幸せ。

          ひそやかな幸せ

          職場の煎餅

           香害という言葉が市民権を得て久しい。厳密には香りに含まれる科学物質が実害を及ぼすことをいうのだろうから、単に「この香りがイヤ、困る」レベルのことにこの言葉を使っていいのかどうかは分からない。香りの好き嫌い・嗅覚の鋭敏さは個人差も大きいし、香りの問題って実際にはマナーとか、人間関係の問題だったりするわけで、それらが解決されれば大抵解決される。とはいえマナーとか気遣いの話こそ話すのは結構面倒くさい。  ということで午前10時のオフィス、2つ向こうのデスクで同僚の女性がおせんべい

          職場の煎餅

          自殺者へ

           高校生の女の子が電車に飛び込んで自殺し、その様子を動画配信していたことが、朝の職場でしばし話題になった。不幸な事情があったに違いないし、10代で死ぬなど勿体ないことこの上ない。だけど意識せず口に出たのは「つまらない子、なんて安っぽい人生なんだろう」という言葉だった。こんなの思うだけならともかく(それでも酷いが)口に出すべきじゃなかったし、全く知らない、事情も分からない自殺者に対して知ったような顔で評価などするべきでもない。頭ではそう理解しているし、自分は被害者や苦しんでいる

          自殺者へ

          下調べと旅

           休みに友人と旅行することにした。初めて行く場所で土地勘も相場感も無いので、価格比較サイトと口コミサイトを参照しながら宿などを選んだ。現地では何をしよう。ガイドブックでは物足りず、その街に住んでいる人のブログなどを見つけて読みふける。2月の観光はここがお勧め。美味しい食事ならあのレストラン、あの道沿いの景色はこんな感じでドライブは最高。行きにくそうな場所も、Googleマップを使えば風景を確認しながら道順を探せる。おお確かにここは海が見えて綺麗そう。今からすっかり旅行気分にな

          下調べと旅