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小説 「ほのお」4・タバコ

陽子は夏の夜空を眺めながら二本目のたばこを手に取った。
街の明かりにライターの火なんてともしびにもならないなぁ。とぼんやり息を吸ってタバコに火をつけた。

「この火ってどれくらい熱いのかな。」

陽子はぼんやり多くの家族が住む家の明かりを眺めながら煙を吐いた。

浩輔がいなくなり、7年。
子どもたちは独立し、母を見守るように実家となった地元の転居先の住まいを出入りする。

子どもを育てていたときタバコを吸わなかった陽子。
理由は子供のためでなく「子供が実家に言いふらす。」のが嫌だったからだ。実母との亀裂。陽子にとっては浩輔だけが頼りでその間を取り持ってくれる存在だったなぁ。と家々の明かりを眺めながら吸っては吐く。

「あー!腹立つ」

陽子は吐き捨ててタバコの火を消し部屋に入った。

あの人はなんで私を開放しないんだ。
あの人は何をこの年になって求めるんだ。
ホントにイライラする。

今度は酎ハイをあおりながら掃除を始める。
陽子にとって掃除は自身の気を落ち着かせる一つ。
浩輔がいなくなってそこにタバコが加わった。

どうせ、今日は美和は帰りが遅いからな。
今度は換気扇の下でタバコに火をつける。煙を吐き出す。
それを繰り返し自分を落ち着かせようとする。
そんな実母との関係を陽子は彼女の残り少ない人生のために争いごとを我慢している。

「向こうもそうでしょ。」

頭の声と会話をしながらタバコを吸い、酎ハイを飲む。
解決など何一つしないことはわかっている。

「タバコの火って手で消せるのかしら?」
よぎる思いを誰もいない家で
「それって、昔はやった根性焼きじゃんね。」と笑う。
酎ハイぐらいでは陽子は酔わない。
タバコを吸いながら浩輔の姿を探す。

火葬場で遺骨を拾うときもいとおしかった。
今だって食べることができる。そういつも発言する陽子の精神状態を子どもたちは不安に思っていることも陽子はわかっている。
だから口にする。

愛とは失ってその奥深さと尊さに気づく。
浩輔の包容力は無条件の愛だったことに気づく。

ドアチャイムが鳴った。
実家に保護者のように美和の帰宅だ。
「部屋の部屋の中でタバコを吸わないでって言ってんじゃん。」
私の若いころのようにはっきりしてんなぁ。って陽子は美和をほほえましくみる。美和は「反抗期かよ」って目線でけだるそうに私を見る。

浩輔。
ヨウは何が正解かわかんないけど今日もヨウであることができた気がする。
浩輔。
あなたが作ったこの家族は完璧な愛に守られている。

もう一度。
河原で焚火がしたかった。
高く上がる炎が夜が更けるにつけて小さな命のような炎になる。肩を寄せられその炎を見ていたときはヨウの手にはタバコではなくあなたの手の平があった。

さ、ベランダで一服して寝るとするか。

どの星が浩輔かわかんないけど。
おやすみなさい。浩輔。来世でも愛している。

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