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二度目のヤックデカルチャー

まだハイビジョンに移行し始めたばかりの頃に始まったマクロスFはきれいな映像とよく動くキャラクター、CGで描かれた一瞬で変形するメサイアバルキリー、そして何よりも中島愛が演じるランカ・リーと遠藤綾&May'nが演じるシェリル・ノームは「衝撃的」とも言える歌声で、20代半ばだった私を一瞬にして魅了した。そんなマクロスFが私の中で決定的に存在感を持つことになるのが2008年11月5日。

生のバンドをバックに繰り広げられる、ランカ・リーとシェリル・ノームの共演。初めて聴くプロの演奏の凄さと楽しさを知り、さまざまなアーティストのライブに参加するようになったことを思えば、2008年11月5日はその後の人生に大きな影響を与えた日だった。

武道館ライブのあとも、マクロスFは映画化されたり、ライブが行われたり、シリーズ新作のΔが放送されたりしたが、やはり私の中でのマクロスはこのときの武道館ライブがピークであり続けた。

そして2021年10月8日。新作映画が封切りになった。

正直にいえば、それほど大きな期待をしていたわけではなかったので、「新作をやるなら見に行くか〜」という軽い気持ちで見に行った。が、マクロスFも、マクロスΔも予想を遥かに超える凄まじい出来で私に襲いかかってきた。映像が綺麗だとか音楽がよいだけではなく、サヨナラノツバサの延長線上で描かれるFの面々は経過した年月を感じさせる変化と変わらない想いを見せてくれたし、Δに至っては「そのストーリー展開は予想してなかった」と膝を打つような物語の展開とその結末は強く私の心を打った。宣伝ポスターの「銀河争奪歌合戦」をまさかそういう形で実現してラストに繋げるとは思わなかった。

そして、映画を見てから一つの事に気づく。

実はTV版のマクロスΔはなかなか最後まで見ることが出来ず、何度見ても途中で止まってしまっていた。単に見るのが面倒なのかな、と思っていたが実はそうではなく

「マクロスFより面白くあってほしくない」

と思っていたのではないか、と。そう考えると、ワルキューレの歌はすごく好きなのにライブからは頑なに目を逸らしていた(チケットの申込みもBDを見たこともない)事にも納得がいった。あまりにも思い出が大きい武道館ライブ以上の体験をするのが怖かったのだ。もしも、武道館ライブよりも素晴らしい体験をしてしまったらあの日の思い出は色あせてしまうのではないか、と。

だが、今回の映画では年月を経ても変わらない想いとか、年月を経たから変わった事とかがテーマにあり、思い出に囚われて足を止めてしまうのもそれはそれで勿体ない事だなと感じられた。たとえワルキューレのライブがどれだけ素晴らしかったとしても(事実かなり良いと聞く)、ワルキューレの歌声は新しい思い出として刻まれ、それと同時に武道館で見たランカ・リーとシェリル・ノーム、そして映像に収録されなかった坂本真綾のトライアングラーは色褪せることなく残り続けることになる。人生の楽しみを過去にだけ求めても仕方ないのだ。

私に二度目の「ヤックデカルチャー」を与えてくれた劇場版マクロスF・マクロスΔは現在も上映中なので、未見の人は是非劇場まで。

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