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東大生コンカフェ後記

※この記事は留年生アドベントカレンダーに際して書いたものですが、出店した企画は会とは無関係です。

発端


2022年、どうしようもなく単位が不足していた私は留年を受け入れ、せっかく東大生でいられる期間が伸びるのだから次の1年を最大限エンジョイしようと決意しました。
やりたいことはすっと湧いてくることがあるので、Twitterにすぐ書き留めます。が、いかんせん飽き性な私はやりたいというつぶやきだけを残してその欲望をほったらかしてしまうことが多いです。そのようなツイート群のなかに現れたのがこちら。

※イカ東:「いかにも東大生」の略。主に学内生同士で用いられ、ネガティブなニュアンスを内包していることも多い。
※コンカフェ:コンセプトカフェの略。いわゆるメイド喫茶に端を発するといわれているが、コンセプトは店によって多様である。内装やメニューに世界観が反映されている場合、必ずしもキャストとのコミュニケーションがメインコンテンツとも限らない。

 このツイートを見た友人から「やろうよ」とメッセージが届いたことが決め手となり、駒場祭に応募しました。言われなかったらメンドクセーと思ってやってなかったので友人には感謝しています。

コンセプトについて

コンカフェの需要

コンカフェについては以前から考えていました。

 とりわけインターネット上では、非モテと紐付けられている理系オタクは、秋葉原や池袋に多く見られるような典型的な「コンカフェ」のキャストとは対照的と考えられています。
 かなりステレオタイプなイメージに着想を得ている点はよくないかもしれないと思いつつも、そのような属性のキャストとのコミュニケーションを提供する場はあまりないことへの不満もありました。特に、男性がキャストとなる形態では、筋肉をコンセプトとしたマッスルバーか、いわゆるホストクラブのような状態になっていることが多いです。(筆者はホストクラブに行ったことがないので正確にはわからないが、ホストクラブで行われているキャストとゲストのコミュニケーションは、快楽や疑似恋愛を意識したものが多いと思われます。)

 そのようなことを考えているときに目に入ったのが以下のツイート。

 わかる…と思ってしまいました。これに加え、近年はインテリタレントの増加(例えば、とある東大発クイズ集団には各メンバーのファンがついている)や、高学歴限定マッチングアプリについての以下の動画などを見たことも後押しして、需要は(コンカフェ市場全体から見れば少ないかもしれないが)確かにあると思い、踏み切りました。

(関係ないけどこの記事に出てる人以前FFだった気がする)

「イカ東」

 知的な会話を楽しむだとか、草食系男子を求めるだとか、そういった内容を包含するコンセプトとして、「イカ東」はあまりにも手近にあり、コピーとしても言いやすいものでした。しかし私は、「イカ東」について特に詳しいわけではありませんでした。ざっくり書き出すと以下のような特徴が挙げられると思います。

  • 理系に多い

  • 難しい言葉を使う

  • 自分が知っていることについては多弁

  • 早口

  • 服がダサい(典型的にはチェックシャツ)

 …いわゆる90年〜00年代的な「おたく」のステレオタイプにおおむね一致していますね。人をネガティブに品評する言葉が並んでいるので、多くの人はこのリストを見てもいい気がしないでしょう。ただし、このような人は自分の興味関心に没頭している人と言い換えることもできるでしょう。そしてそのような人を応援したくなる気持ちもわかります。
 以前テレビの特集で、自宅の一部を使って中古ホビー(確かプラモデル、トレーディングカードだったかもしれない)を収集・販売を行っている男性が紹介されていました。その人はマニアの間では有名らしく、評価もよいとのことでした。そして、その男性は結婚しており、配偶者の女性は半ば呆れながらもその趣味活動を応援する気持ちがあると述べていました。この2人がどのようにして出会っていったのかに少し思い馳せてしまいます。

 ただし、先に述べた通りこのような特徴があることは総合するとネガティブに捉えられる傾向が、ネット上の言論空間では目立っているようです。それを象徴するワードが「チー牛」です(好きな言葉ではないので深堀りもしません)。

 話を「イカ東」に戻します。私は東大で1,2年生を理系、3年生以降を文系として過ごしてきましたが、その中で「イカ東」と呼ばれるような人には数人出会いました。たった数人です。個人的には、むしろ東大生には、

  • 金融やビジネスに関心があり、上下黒しか着ない、またはテーラードジャケットをいつも着ている

  • 入学がクライマックスで、とにかく遊んでいる

  • 特に目立たず、数人の友人と遊びつつ課題に取り組んでいる

といった人がよく見られます。(私の周りがたまたまそうだっただけである可能性は否定しません。これといった学術系サークルには所属していませんでした。)

 このような実態がありつつ、イカ東コンカフェはどのような方向性ですすめるべきか。高い専門性を持った学生を集めてポスター発表に近い状態で行うとすれば、類似の形態で実際に営業しているお店がここ最近は話題になっているかと思います。一方でコンカフェとして、知識の伝達よりも「東大生とのコミュニケーション」に価値を置きたいという気持ちがありました。理由は2つあります。1つ目は、私が地方出身で、学校にも親戚にも東大関係者がいなかったために、東大(生)という存在がかなり距離のあるものに感じられていたということです。2つ目は、単純に私がそういう人が好きだということです。好きなことを一生懸命話してる人、愛おしいな〜と思います。
 
 さて、なんと、最終的に方向性を固める前に駒場祭一週間前を迎えてしまいました。

難儀

 イカ東コンカフェはとにかく難航しました。難航というか、1週間前までなにも進みませんでした。その困難を書き残しておきます。

運営力不足

 コンカフェの運営は、私と友人の二人が主催する有志企画です。手続き上記入欄があったため「東大コミュニケーション研究会」という空の団体名を掲げましたが、サークルとして引き継がれるものも無ければ、組織的な分業ができているわけでもありません。私はこのようにゼロからことを動かす経験があまり多くなく、なにからしたらいいのかアタフタするだけして何も進まないという時間が長く続いてしまいました。第一に私は卒論を書かなければならないこと、そして友人は院生でとても忙しいこともあって、こちらに取り組む時間が確保できていませんでした。

キャスト不足

 今回のキャストは9月頃にTwitterを中心に公募しました。条件として、「東大に籍がある」「なにか特定分野について語ることができる」としたところ、フォーム上では開催可能な人数が集まりました。また、駒場祭には他にも女装をテーマにしたコンカフェが出店予定で、当初は協力体制を取るという話になっていました。これでどうにかなりそうだと高をくくっていました。
 しかし、女装コンカフェが都合により出店辞退。想定されるキャストが減ってしまいました。私が運営の時間を確保できず、連絡や準備を怠っていたこともあり、駒場祭直前になって実際にキャストとして参加できそうな人数が2,3人しかいないことに気が付きました。

 そもそも、です。これは準備中に気がついたことなのですが、コンセプトの「イカ東」の特徴を考えると「コミュニケーションが苦手」が含まれると言えます。そしてコンカフェは「キャストとコミュニケーションが取れる」店。これ、つまり…この企画、原理的に無理では?
 
いやでも、自分の得意分野について説明することには長けているだろうし、それに、もしかすると会話ができなくなったとしてもその不器用さを愛せるお客さんが来てくれるんじゃないか…?私の期待は単なる願望で、とにかく見切り発車だったと痛感しています。

準備不足

 このような困難を抱えながら、結局ぐだぐだ準備期間になってしまいました。用意したのはこれだけです。

  • 模造紙・ペン・ポストイット

  • 名札

  • 菓子・ドリンク

  • ビラ

 模造紙・ペン・ポストイットは、来場者が東大生イメージを書いていってくれるスペースの材料です。部室ノートとかゲームセンターのノートとか、そういうのが好きなので作ってみました。そしてビラは前々日に依頼して@akkk_akkk_akkk_が作ってくれました。大感謝。当企画の内装は本当にこれだけでした。当日の会計周りなど雪祭うにさんにもご協力いただきました。

実際にやってみて

 迎えた当日。相部屋の珈琲同好会の集客力にあやかってぼちぼちお客さんが来てくれました。キャストが少なすぎるので私が接客することも多かったし、何より集客を頑張ろうとしても対応ができなくなるという問題があり、雁字搦め状態ではありましたが、来てくださった方にはキャストの専門の話、お客さんの質問への回答など、それなりに満足していただけたようです。 
 やってみて気がついたことは、この企画は東大の学祭の中では確実な位置づけができる企画だということです。

そもそも:学園祭って誰が来てるんだ?

 実際来場者ってどういう人なのか、コンカフェを実施するにあたって本当は事前に考えておくべきだった事柄ではありました。終わってからではあるがざっと検索してみると、コロナ以前の駒場祭では3日間で約12万人が来場していたらしい。すごい。ここ数年のイレギュラーはあれ、2023年はコロナ以前に近い形で行われた。
 接客した中では、東大生・東大卒・東大生の友人や親族・東大志望の中高生とその親・それ以外。このそれ以外に当てはまるお客さんが一定数いることが面白いと思いました。単純に東大というブランディングによって集客効果が出ているのだなと。さらには、「東大のカワイイ男の子を見たくて」という女性客が複数いた(明確に「ナンパ目的」といっている女性もいた)。

東大生と話せる

 日頃から東大生との接点が無い人達が多くいるということがわかりました。それとこの企画の唯一の価値である「東大生と話せる」ということが少しはマッチしたようです。それだけでなく、他企画との差別化にもなっていたと考えます。東大の学祭に来る人たちは、良く言えば学術的な内容に期待して、悪く言えば東大生の知性をコンテンツとして楽しみにしている部分があるでしょう。その中で、実際の学祭の出店内容の多くがクラスの模擬店なの、なんか腑に落ちないですよね。ただし、文化系サークルによる専門性の高い模擬店や、研究室やゼミの発表展示も多く開催されているのは見どころでした。
 振り返ってみると、そのような実態のなかで、当企画は、直接東大生と話したいことを話せる機会を提供することができたという点で、他にはない価値があったのかなと思うようにしています。

友達、あったけぇ〜〜〜

 最終的に協力してくれた人たちは、自分以外にコアで顔出してくれていた3人だけでなく、この企画をやると聞いて当日ドタ参してくれた人が4人もいました(うち2人は以前からの知り合い、もう2人は初対面)。さらに、当日応援に来てくれた友人や先輩が多数おり、前日に鬼病みしていたのが嘘みたいに元気になりました。会いに来てくれたみんな本当にありがとう;; 

考慮すべき点

 学園祭の企画としては、費用を回収することができたという点では成功といえるかと思います。しかし、コンカフェというものを考えるにあたって様々な問題に気づきました。なにより風営法問題があったけど一応食品提供として営業したのでセーフ

レッテルに基づくコミュニケーション

 「イカ東」を持ち出すということは、メディア(とりわけテレビ)によってつくられた偏ったイメージを参照することになります。目の前の人ではなくイメージによって会話が始まってしまうとコミュニケーションはうまくいかないもの(炎上のクソリプとかにありがち)だけど、人は気を付けないとそういう態度に陥ってしまうことがよくあると日頃から思ってました。なので、お客さんがそのように極端な決めつけによって会話を進めようとしたらどうにか適切に運ぶよう意識しなければと思っていました。ただ、実際のお客さんは、等身大の東大生に耳を傾けてくださっていた方がほとんどだったので安心でした。

対象化、消費の倫理

 さらに、倫理についての問題についても個人的には思うところがありました。今回の企画のアイデア段階では(というか稼働中の想定としても)「男性が」接客するということに新規性を持たせようという部分がありました。これは、東大の学生の極端な男女比という背景もありますが、自分の中のステレオタイプに対する無反省があったとも感じています。実際には募集要項でキャストのジェンダーを限定することはしませんでしたし、応募段階・実施段階においてもキャストが男性のみになることはありませんでした(多くの時間帯ではキャストが男性のみになってしまい、そのことをゲストに尋ねられたこともありました)。
 眼差す側の特権性を男性性として、女性を対象化して消費するという社会の非対称性がネット上の言論空間で取り上げられることも増え、「対象化」に強く関心を持つようになりました。芸能人のスキャンダルがニュースになるたびに、人間のプライベートを商品にしてしまうのってやべ〜と思う一方で、好きなアイドルの情報を追ってしまう自分もいるし、極端に言えば個人的な人間関係においてまでも他者への侵害を避けるべく距離感を取り続けなければならないのかと。きれいな文章で問題にすることはまだできていないけれど、SNSが普及してインフルエンサーだとかライバーといった肩書の人たちが台頭することで一層自分のキャラや身体やプライバシーを切り売りすることが増えていくのを、自分の中でどう折り合いをつけるのか頭を抱えています(「本人の意志」が本当に判断の根拠になるか?とか)。先に書いたように、実際に来場者には男性をナンパする目的の女性もいました。もしも女性のナンパ目的の男性との会話だったら自分は違う態度を取っていたかもしれないけれど、その差ってあっていいものとは言えないと同時に思うなど…
 自分としても、知らないうちに対象化されるというか、品定めの目で見られることが心地よいわけではない一方でその目にさらされてしまうという状況を経験することがあるので、他者問題については今後も付き合い続けるのだと思います(無理やりまとめてしまった)。

おわり!

 脱線というかなんというか、読みにくい記事になっちゃいましたが、ひとまず駒場祭が(適当だった割に)なんとかなったという記録でした。2年生のクラス企画で東大生コンカフェやったらきっと費用回収楽(ぼかした表現)なのでおすすめしたいけど、それを伝える後輩が思い当たらなかったのでここに残しておきます。
 最後になりますが、拙文をここまで読んでくださった皆様と、キャストで頑張ってくれた非リア王さんと秌本くんはじめ当企画に関わってくださったすべての皆様、ありがとうございました。

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