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第21回「一龍屋台村」海上にふわりと浮かぶテラス席。気分はまるで屋形船|パリッコ

☆NEWS!
本連載が単行本になりました。連載時には掲載できなかった写真を多数追加収録、読むだけでほろ酔い、夢見心地の旅気分が味わえる、書籍ならではの充実の一冊です! 
2020年9月25日(金)発売。四六判並製、184ページ、オールカラー。定価:本体1600円+税。全国書店様にてお求めください!

 

 品川宿といえば、東海道五十三次第一の宿場。今や品川と聞けば近代的な高層ビルの立ち並ぶ光景を思い浮かべる人のほうが多いだろうが、JR品川駅からほど近い京急線北品川駅付近を歩いてみると、かつての宿場町の雰囲気が色濃く残っている。
 特に風情があるのが、品川浦の舟だまり。江戸時代より「江戸前」、つまり東京湾における船文化の拠点でもあった品川。ヨットハーバーやマリーナとはまた趣の異なる、釣り船や屋形船が並び浮かぶ、郷愁の風景に出会うことができる。
「むつみ丸」と「第二むつみ」の2隻を運行する「屋形船 むつみ丸」は、この地に古くからある船宿のひとつ。ところが、他の船宿とは大きく異なるポイントがある。なんとここ、船着場に隣接した場所に、酒場を作ってしまったのだ。つまり、品川浦の舟だまりを間近に眺めながら飲むことができる店ということ。

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◆「むつみ丸」が経営する酒場「一龍屋台村」

 味わい深い宿場町の風景のなかで、ひときわテンションの高い外観の「一龍屋台村」。それが、むつみ丸が経営する酒場。「舟だまりを間近に眺めながら」なんて書いたけど、実際は間近なんて生優しいものじゃない。なんとテラス席は、まるで京都の川床のように海の上に浮かんでいるのだ。

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◆船に乗りこむためのスロープがすぐ目の前に

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◆漂う潮の香り。水辺のあちこちでカニが遊ぶ

 テラス席の先にはスロープがあり、乗船客はここを通って船に乗りこむ。屋形船での宴会を楽しんだあとは、一龍屋台村でゆるりと二次会をしていく人たちも多いらしい。もちろん、屋形船には乗らず、ここで気軽にふらっと一杯だけ飲むという使いかただって許されている。
 目の前にはゆらゆらと揺れる屋形船。吹き抜ける潮風の香り。夕景にぼんやりと浮かぶ赤いちょうちんの行列。そんなシチュエーションで、大好きなホッピーに酔える幸せ。酔い覚ましに水辺に近づき見下ろせば、あちこちに小さなカニの姿を見つけ、郷愁は最高潮だ。

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◆夕景に映えるホッピーセット

 また、この店の楽しさはテラス席だけではない。広い店内席の周囲をぐるりとたくさんの屋台が囲むような作りになっていて、海鮮屋台、焼鳥屋台、一品屋台などなどを見て回り、頼みたいものを伝えると席まで運んできてもらえるシステム。それがなんだかお祭りに来たみたいで、注文のたびにワクワクしてしまう。

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◆ここだけ見ると、また別の店に来たみたいだな

 酒もつまみも品数たっぷりで、老舗の船宿が屋形船だけでなく酒場を開いてくれているだけでじゅうぶんなのに、こんなにも気ままに飲ませてもらえるんだから、心の底からありがたい。
 芝浦の市場から直送される牛すじがゴロゴロと入った「牛すじ煮込み」は、長時間かけてトロトロに煮込まれた絶品。たった880円でこの量!? と驚かされた「キスとイカと旬野菜の天ぷら」も、熟練の技でふわりと揚げられておりたまらない。
 というか、この場所でほろ酔いになりながら天ぷらなんて食べていると、もはや自分が地上にいるのか船上にいるのかすらも曖昧になってくる。

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◆旨味が濃く、大ぶりの牛すじが口のなかでほろりとほどける

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◆屋形船気分が盛り上がる一品

 ただでさえ希少な北品川の舟だまりの風景に溶けこみながらゆるりと飲める天国。いつかは、屋形船に乗ってからの二次会でも楽しんでみたい。

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◆遊び心とサービス精神のある老舗に感謝


一龍屋台村
住所:東京都品川区東品川1-1-11
電話:050-5597-4947