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第9回「マサラ 豊島園店」日常、インド、遊園地、三つの境目が交差する|パリッコ

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「としまえん」は、西武池袋線沿線出身者である僕にとって、特になじみ深い遊園地だ。

 よく豊島区にあると勘違いされがちだが練馬区にあって、室町時代に築城された「練馬城」の城址を中心に造園され、そこを治めていた豊島氏に由来して名付けられた。

 子供時代なら、ジープ型のカートに乗って薄暗い館内をめぐる「アフリカ館」のトラウマ。中学時代、卒業間近に友達たちと連れだって遊びに行ったのもいい思い出だし、成人式の会場もここだった。

 それから年月を経ていい大人になった今もまだ、としまえんは自分にとっていちばん身近な遊園地。園内にあるメリーゴーラウンド「カルーセルエルドラド」は、1907年にドイツで作られ、その後ここに移転された100年以上の歴史を誇る施設で、その文化的価値から、日本機械学会により「機械遺産」にも認定されている。毎年夏に開催されるビアガーデンでは、そんな貴重な機械遺産の目の前でフラダンスショーを眺めながらという、なんとも現実離れしたシチュエーションで酒が飲めて、もはや園自体が天国酒場と化してしまう。

 が、今回紹介したいのは、「マサラ」というインドカレー屋。

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◆豊島園駅改札から徒歩1分の「マサラ 豊島園店」

「遊園地の中にある飲食店なら、そりゃ~どこもこんな感じっしょ。天国酒場っていうのはずるくない?」とお思いの方がいらっしゃるかもしれないが、いったん落ち着いて聞いてほしい。実はこの店があるのは、としまえんの入場門の目の前。園の外側なのだ。

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◆つまり“遊園地見”をしながら飲める店!

 遊園地というのは、ゲートを一歩くぐれば非日常の世界。しかしここはゲートの外。理論上は日常の範疇のはずなんだけど、とてもそうは思えない、いわば“境目”。まさに、日常の隣にある非日常「天国酒場」と呼ぶにふさわしいと、僕は思う。

 木造の店内の味わい深い雰囲気も良ければ、周囲に囲いのない開放的なテラス席ののんびり感もいい。しかも入り口に「生ビールセット 中生+枝豆 」なんて看板が出してあって、しっかりと飲める店なのが嬉しすぎる。

 本場のコックが腕をふるうインド料理が、どれも本当にうまい。このシチュエーションでつまみがすべてエスニックというのがまた、自分の今いる状況の可笑しさに拍車がかかって楽しいんだよな。

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◆ナンはいつだって、思ってたよりでかい

 酒も料理もお手頃価格で、しっかりと飲める店。ここで木漏れ日を浴びながらだらっと飲んで酔っぱらってくると、そのゆる~い空気感ゆえ、まるで自分が本当にインドにいるような気分になってくる。

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◆店の裏手の様子。景色がほぼインド


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◆ウーロンハイにストローが刺さっているのすらインドっぽい気がする

 あ~気持ちいいな~……そろそろお会計をしようかな~。なんて、ふと視線を上げると、目の前にどーんと遊園地。このふわふわとした感じ。なんとも形容しがたい非日常感が味わえる、貴重な天国酒場だ。


マサラ 豊島園店
閉店