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番外編④~天国酒場をDIYする「チェアリング」~|パリッコ

☆NEWS!
本連載が単行本になりました。連載時には掲載できなかった写真を多数追加収録、読むだけでほろ酔い、夢見心地の旅気分が味わえる、書籍ならではの充実の一冊です! 
2020年9月25日(金)発売。四六判並製、184ページ、オールカラー。定価:本体1600円+税。全国書店様にてお求めください!

「チェアリング」という言葉がある。

 僕の酔狂な連載コラムを読んでくれているような方ならばとっくにご存知かもしれないけれど、一応説明しておこう。チェアリングとは、折りたたみ式のアウトドアチェアを携えて街に出、ここぞと思った場所に置いて座り、酒を飲んだりぼーっとしたりして過ごす。たったそれだけの行為だ。飲み友達のライター、スズキナオさんと面白半分に始めたら、自分たちでも信じられないことに、まねをしてくれる方がどんどん増え、ついにはナオさんとの共著で「椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門」なんて本まで出版させてもらった。まったく、冗談みたいな世の中になったものだと思う。

 持ち物を増やしすぎてキャンプやバーベキューなどのアウトドアに寄りすぎないとか、マナー問題を徹底するなど、いくつかの押さえておくべきポイントはあるんだけど、そのあたりは今まで散々記事にしてきたので、もし興味を持たれた方がいれば、念のため、僕らの書いた関連記事などをご一読ください。

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◆2016年のお台場にて、記念すべき初チェアリング

 ところで昨今の「コロナ禍」といわれる世の中において、どうもチェアリングに、自分たちが想像もしていなかった、まったく新しい意味が見いだされはじめている。というのも、とにかくソーシャルディスタンスを保つことが重要であり、しばらくの間はそれがスタンダードとなりそうな状況において、チェアリングは極めて自由度と安全性高く、かつ気軽に行えるアクティビティのようなのだ。実際、そういった切り口の取材などが、徐々に増えはじめている。

 もちろん、行う人それぞれの良識に任される部分も多いし、「外だから大勢で集まっちゃえ!」などと言いたいわけではない。ただ、ひとり、もしくは家族や友達ごく少人数で、なるべく人の密集を避けた場所を選び、お互いの距離もじゅうぶんに取って過ごせるという意味で、チェアリングはかなり今向きの遊びだというわけだ。

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◆そもそもが人のいない場所ばっかり選んでやっている

 前置きが長くなってしまったけど、この連載で紹介してきた「天国酒場」の定義は「日常の隣にある非日常」。そういう意味で、チェアリングとは「天国酒場を自ら作る行為」であると、以前からずっと思っていた。なんといったって、「椅子さえあればどこでも酒場」なわけだから。

 例えば以前、ある雑誌の取材で、新木場周辺でチェアリングをしたことがある。この時は新たな試みとして、ボックス型のカートを導入した。「装備を増やしすぎない」という定義に反さないか? という自問もあったけど、そもそも椅子を入れてゴロゴロ転がして移動するのはむしろ楽で、理にかなっているのでOKということにした。

 目的地である「東京夢の島マリーナ」で、取りだした椅子に腰かけ、カートに付属のフタをすれば、簡易テーブルに早変わり。この時はさらに、編集部からの「より絵がおもしろくなるように」との要望から、Uber Eatsを利用し、近くのレストランから特製ハンバーガーまで配達してもらった。椅子、テーブル、絶品のハンバーガー。こうなってくるともはや、即席天国酒場以外のなにものでもない。建物も何もない場所から注文してしまった自分を探してきちんと商品を届けてくれた配達員さんからしたら、「なんだこいつ」ってなもんだろうけど。

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◆気分は地中海で過ごすバカンス

 東京都あきる野市にあるJR武蔵五日市駅は、駅近くにコンビニやスーパーがあり、さらに徒歩数分で清流「秋川」の河原にたどり着くという、優雅にチェアリングするにはもってこいの街だ。

 暑い季節なら、大胆に川の浅瀬に椅子をセッティングしてしまうのもおすすめ。京都の川床でだってここまでの清涼感は味わえないだろう。「こんな店があったらなぁ」が、ほんのひとときだけ現実になってしまう。それがチェアリングマジック。

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◆何も言うことはなし!

「葛西臨海公園」もまた、東京23区内にあってビーチリゾート感を堪能できる素晴らしい場所。この時も雑誌の撮影で、試しに浅瀬の中州に椅子を置いてみたところ、まるで海に浮かんでいるようでとても愉快だった。

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◆ただし、潮の満ち引きにはくれぐれも注意

 不要不急の遠出などはまだまだ控えたい昨今。だけど、近所の大きな公園や水辺、さもなくばベランダに椅子を出して座ってみるだけでも、いつもと違った良い気分で過ごせることは間違いない。手もとに缶チューハイの1本もあれば、そこは自らが作った天国酒場だ。

 椅子はいつでも、僕の魂を解放してくれる。