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第15回「須磨浦山上遊園 喫茶コスモス」神戸の街や淡路島を見下ろす絶景の回転喫茶|パリッコ

☆NEWS!
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2020年9月25日(金)発売。四六判並製、184ページ、オールカラー。定価:本体1600円+税。全国書店様にてお求めください!

 いつの頃からか、「須磨」という地名に、ぼんやりとした憧れのような感情を持っていた。詳しく知っているわけではないけれど、関西の人々が、海水浴やレジャーに出かける街。関東でいう、伊豆や熱海のような土地なのかなと。とはいえ、自分の人生に縁が生じるとは、想像したこともなかった。そんな須磨の街に、先日訪れてきた。はっきり言って、最高だった。

 数年前、飲み友達のライター、スズキナオさんが大阪に引越し、関西を訪れる機会が増えた。初めはナオさんの地元の飲み屋街、天満あたりで大阪酒場のディープさの洗礼を受け、徐々に京都や神戸にも興味と行動の範囲を広げるようになった。そしてつい先日、ついにここまできたかという感じでたどりついたのが、須磨。きっかけはこの連載で、ナオさんに「須磨にも良い天国酒場がありますよ」と教えてもらい、連れていってもらったというわけだ。目指すのは、「須磨浦山上遊園」という場所にある「コスモス」という店らしい。僕はどこに酒を飲みにいくのにもあまり下調べはしないほうだし、何よりナオさんのことは全面的に信頼している。なので、とにかくついていった。

 午前中に大阪駅で待ち合わせ、JR線を乗りつぐこと約40分ほどで、兵庫県神戸市「須磨駅」に到着。そこでいきなりの感動。なんというか、駅前がもはや「ビーチ」なのだ。それも、とびっきり美しい白浜とエメラルドグリーンの。僕の知る限り、関東地方にここまであからさまなシチュエーションの駅はない。予定としてはそこから「山陽電車」に乗りかえ、「須磨浦公園駅」に向かわなければいけなかったんだけど、たまらず駅のコンビニで缶チューハイを1缶買い、ビーチで飲んだ。

 落ち着いたところで須磨浦公園駅に向かう。のんびりとした、いかにも海辺の街といった空気感がたまらない。駅の背後には「鉢伏山」がそびえ立ち、その一帯が「須磨浦山上遊園」というアミューズメントエリアになっている。往復のロープウェイ券を購入し、いざ出発。

 急勾配のロープウェイがぐんぐん進む。さらに乗り継ぐ「カーレーター」という、ふたり乗りのリフトのようなゴンドラのような不思議な乗りものが、ガタガタと大げさすぎるくらいに揺れ、思わず笑ってしまう。なんてことをしていると、あっというまに海抜246mの山上に到着した。

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◆何の苦労もせずにこの景色

 観光リフト、ミニカーランド、サイクルモノレール、ふんすいランドと、昔ながらのアミューズメント施設が点在している。僕など、その昭和っぽい響きの時点で大興奮してしまうわけだけど、今日目指すのは「回転展望閣」という建物。それは、カーレーターの降り場からすぐの場所にあった。

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◆昭和33年開館「回転展望閣」

 僕は現在41歳。ふりかえってみればあっという間だったけど、まだ時代が昭和だった子供時代、つまりはるか30数年前は、家族で観光地へ旅行に行くとなれば、どこもだいたいこんな雰囲気だったような気がする。胸をしめつけられるようなノスタルジー。今や貴重な、こういった施設が現役であることのありがたさ。

 建物は3階建てで、1階は無料の休憩スペースになっている。2階はゲームコーナーで、なんとテーブル筐体のインベーダーゲームまである。個人的には、古い「電車でGO!」の画面に映された3Dポリゴンの風景と、そのすぐうしろに広がる絶景との対比が、冗談みたいで妙に印象深かった。

 我々が目指す喫茶「コスモス」は、3階にある。

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◆喫茶「コスモス」の店内

 店内には、シャ乱Q、ウルフルズ、X JAPAN、小室ファミリーなど、90年代のヒット曲が延々と流れている。自分が最も多感だった頃に流行って聴いていた音楽と、この光景。はっきり言って、完全に死後の世界だ。

 レジカウンターにてキャッシュオンの酒とつまみを調達。僕は缶ビールとチキンナゲットにした。そして好きな席に着く。することはたったそれだけ。

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◆それだけで、この嘘みたいな状況が手に入る

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◆ナオさんの選んだ「エビプラフ」もたまらないちょうど良さ

 そしてそう、「回転展望閣」というからには、回転要素だ。実はこのコスモスという店、フロアが円形になっていて、全体がゆっくりゆっくりと回転している。

「回転展望」スタイルのレストランは、日本では1960年代以降、数多く作られたそうだ。が、現在は全国にも数軒しか残っていない貴重な存在。代表的なところでいうと、有楽町駅前にある「銀座スカイラウンジ」などがある。

 つまり、このただでさえ天国みたいな目の前の風景が、座っているだけでどんどんうつりかわってゆくということ。

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◆気付けば前方には「明石海峡大橋」と淡路島

 徐々にほろ酔いになってゆく心地よさの中、ゆっくりゆっくりと変化してゆく絶景。 ふと気付けば響き渡っている、安室奈美恵の「CAN YOU CELEBRATE?」。さすがにこの時は自分でも「あれ、おれ、召された?」と思ってしまった。

 酒類は出しているけど、あくまで喫茶店。ロング缶のビールをゆっくり飲んで、ちょうどぐるりと1周という感じだったので、ダラダラと宴会をしたりするよりは、そのくらいで引き上げるのが粋な過ごしかたかもしれない。

 そして実は、この先をさらに5分ほど歩くとたどりつく「旗振山」の山頂に、もうひとつ別の天国酒場もあり、そこについては、また別の機会に紹介させてもらおうと思う。


喫茶コスモス(須磨浦山上遊園内)
住所:兵庫県神戸市須磨区一ノ谷町5-3-2
電話:078-731-2520