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第11回「東照宮第一売店」日本屈指の観光スポット「上野公園」にも天国酒場はあった|パリッコ

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 これまでに紹介した「武蔵野園」や「井泉亭」など、大きな公園の中には天国酒場がありがちだ。そして日本を代表する大きな公園といえば、東京都台東区にある「上野公園」、正式名称「上野恩賜公園」じゃないだろうか。

 博物館や動物園など、多くの文化施設が存在し、海外からの観光客も多い、日本屈指の観光地。ゆえに園内の近代化も進み、例えば、レトロな味わいのあった「上野こども遊園地」という昔ながらの小さな施設も、数年前「動物園の魅力を高めることを目的とした、正門前広場の整備工事の支障になる」というなんとも腑に落ちない理由で、閉園になってしまった。

 ではそんな上野公園に、昔ながらの売店や茶店のような「天国酒場」がまだ残っているのかというと、これがあるのだ。園内にある1627年創建の神社「上野東照宮」へと続く参道の入り口横に、ちょこんと存在する、レトロ感満載の売店「東照宮第一売店」。

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◆子供の頃のワクワク感がよみがえる、にぎやかな店頭

 創業から60年を超える老舗で、かつて園内には、同じような売店が数十軒もあったそうだが、現在はこの東照宮第一売店を残すのみ。時代の流れを感じざるをえない。

 一見、単なる売店のようにも見えるが、中で食事をすることができて、店内は想像以上に広々としている。

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◆木漏れ日のさしこむのどかな店内

 メニューは、ラーメン、おでん、カレーライスにそばうどんといったオーソドックスなところがメイン。が、肉まんやピザまん、焼鳥、ところ天など、よくよく見ていくと、いいつまみになりそうな単品も意外にあって、今日はどう飲むかと考えるのが楽しい。酒は、缶ビール、瓶ビール、コップ酒、ワンカップという潔いラインナップ。もちろん酒はお燗してもらうこともできる。

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◆今日は焼鳥と瓶ビールあたりから

 また、この店ならではのメニューといえば、表に目立つのぼりのあった「カレーそうめん」。「名は体を表す」の極致というか、ゆでたそうめんにカレーソースがかけてあるだけというごくシンプルなもので、全体をよ~く混ぜて食べる。カレーライスは大好物だけど、酒のつまみというよりはガツガツとかっこむ食事。ところがこのカレーそうめんは、ちびちびとつまみにするのに大変具合がいい。

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◆不必要に飾りたてないからこその美しさ

 できあいのものもあるが、ご飯ものなどは注文が入ると、厨房で調理。カシャカシャとフライパンを振る音とともにソース焼きそばの香ばしい香りなんかが漂ってくると、「あぁ、そっちも良かったな」、なんて思う。

 家族経営で、小上がりの座敷ではお孫さんが遊んでいたりする。東照宮第一売店は、このような立地にあって、街に古くからある定食屋となんら変わらない、奇跡のような店なのだ。そういう店だからもちろん、酔っぱらっての入店や、長っちりでやたらと酒の杯を重ねるようなことは避け、サクッと粋に楽しみたい。

 実は冒頭で触れた「上野こども遊園地」は、かつてこの店の向かい側にあって、2016年の閉園以前は、窓の外に遊園地を見ながら飲むことができた。そういう意味でも、ここがまだ残っているのは奇跡的。ぜひ、今後も末長くこの場所にあり続けてほしい天国酒場だ。

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◆東照宮第一売店のみなさん


東照宮第一売店
住所:東京都台東区上野公園9-86